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6章 3節 ピアノ

 その家は、都会にあるとは思えないほどの豪邸だった。家がお金持ちのお嬢様とは聞いていたが、これ程とは思わなかった。大きな門構えの古い洋館だ。確かにこの辺りには洋館が多く閑静な高級住宅街だが、この屋敷は突出していた。


 玄関を開けると、おかえりなさいませお嬢様と、メイドさんが何人かいて出迎える。帰宅した彼女から荷物を受け取っているのは執事らしく、彼女と耳元で何か話をしている。


 僕はミツキさんと一緒に奥へ通された。そこは割と大きな洋室で真ん中に、鏡のように磨かれた綺麗なグランドピアノが置いてあった。



 「着替えてくる。あと、お茶でも用意するから待ってて。」


 ミツキさんが我が家のように(実際自分の家なのだが)ささっと居なくなってしまった。ちょっと心細い。僕のような貧乏人には、この家は精神的に疲れてくる。残念ながら彼女と結婚しても婿養子にはなるまいと誓ってみる。


 ――学校の音楽室にあるような大きなピアノだった。この蓋を開けると開けないのは、何の違いがあるのだろう。それにしても鏡面仕上げというのかな、綺麗な表面には自分の顔が写っている。携帯ゲーム機のカラーバリエーションで、ピアノブラックという分かりやすいものがあったなぁ 


 ピアノ以外は特に何もないので、ピアノを見ていたが、特にじっくりと眺めるものでも無く、手持ち無沙汰になった僕は部屋にあるソファに座って待っていた。


 ――ああ、このソファは凄いな。もう立ち上がりたくない。あーでも極楽極楽。などと言っていると、声をかけられた。


 「お待たせ。はい、どうぞ。」


 彼女は、ペットボトルに入ったお茶を渡してくれた。内心豪奢なティーセットがワゴンに運ばれてくるかと思っていたが、そんな事は無かった。拍子抜けはしたが、正直こっちの方が何倍もいい。


 「じゃあ、早速何から弾こうかな。何かリクエストとかある?」


 ピアノなんて弾いた事ないので、どういうチョイスがいいのか分からなかった。クラシックなどが良いだろうが、曲名がわからない。


 「じゃあ、この間一緒に観た映画のエンディング……」


 ――つい、思いつきで言ってしまった。


 「……うーん、こんなんだっけ?」


 ――彼女は何回も何回も練習した曲、むしろ自分で作曲した?と疑ってしまうぐらい上手だった。もとの曲よりも、情操的でさえあった。


 「……す、凄いよ。本当凄い。」


 褒めたいが、ボキャブラリーが少ない。


 「そんなに難しい曲じゃないからね。まぁあと、忘れたところ結構アドリブだし……」


 彼女は手を組んで指を伸ばしながら、話している。


 「はい。次は何かな?」


 ――振り向いた笑顔は最高に楽しいことをしている顔だった。

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