6章 1節 ミツキ
ワンルームのこの部屋には、小さなテーブルと本棚しかない。整理された本棚には、様々なジャンルの本がぎっしりと並べられている。ここに来てから、もう随分とたった気がしてくる。
桜木美月が帰宅した後、僕は緑虫さんとたわいもない話しをしていた。
「昨日は一人で大丈夫だったかい?」
僕は冷やかし半分に問いかけた。
「……さっきも言ったけど、私は一人の方がいいですから。勘違いしないでね。」
緑虫さんは、呆れたように答える。
「ツンデレきた!」
「ツンデレとかじゃないから。うーん、……もういいや。面倒くさい。そんな事よりも、私のことは心配にならないの?」
緑虫さんは、真剣な面持ちだった。実際、マコトの事を知った時、彼女のことが真っ先に浮かんできた。そして、それを考えるのを避けていた。しかし、彼女は真剣に向き合おうとしている。
「ごめん……心配。」
僕は素直に謝った。心配に決まっている。
「うん……何から話そうか?」
緑虫さんは、優しい。いつから、こんな風に真っ直ぐに僕と向かい合ってくれるようになったんだろうか。なんだかんだ最初からそうだったかもしれない。
「桜木さんとマコトをみていて思ったんだ。僕は後悔をしたくない。……だから時間をかけてとか、今度とか、そういうことは言わない。今すぐにするよ。」
僕は頭の中を整理しきれてなかったが、彼女といるときは、今したい事をしたいと思う。
「私も同じ事を考えていたの。だから貴方にききたいの。……私の事どう思う?」
彼女は珍しく俯いた。
「…………好きか嫌いかでいったら、大好きかな」
――正直今さらだと思ったが、言葉にするのは大事だとわかったから、言ってみたが、本気だから恥ずかしい。でも言ってみたら、スッキリした気分になる。
「うん、わかった。良かった…… うーん、ほっとしたよ。……なんかやる気出て来たよ。正直、なんかもうどうでもいいやって思ってんだけどね。やっぱり、ちゃんとしようと思います。」
僕の情け無い告白に、彼女は微笑んで答えてくれた。何かもう今の僕は人生のピークかもしれない。
「久しぶりに笑ったね。ミツキさん。」
僕はもう一つ言いたかったことを口にする。これも恥ずかしい。
「あっ、許可なく、名前呼んだ。」
照れ隠しだろうか、ミツキさんは、そういいながら、僕の後ろに回り込みヘッドロックをしてくる。あー、幸せだ。あまり力が入っておらず苦しくない。これじゃ、じゃれてるだけじゃないか。
「……ミツキさんは、僕の桜木美月は、君だけなんだ。……ずっと言いたかったことが、たくさん言えた。」
ミツキさんの顔は見えないが、ゆらゆらとしていた身体がふと止まって、また動き出した。僕の肩が濡れているのは分かる。
「……私ね。ピアノが弾けるの。たくさん練習したんだぁ。小さい頃から、私のこれまでの時間のかなりを使ったの。だから貴方に、真に聴いて欲しいの……」
ミツキさんは、初めて僕をシンと呼んだ。
「ああ。もちろん……直ぐにでも聴かせて欲しい。楽しみにしてるよ。……泣き虫さん。」
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