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5章 7節 溢れる涙

 桜木美月ら三人は、テーブルを囲んで過去を振り返っている。美月にとって、自分の知らなかった事実がたくさん出てくるのは複雑な心境だったが、それでも知らないよりは全然マシだと思う。


 実はマコトは、もう一人の私とよく話をしていたらしい。だからかもしれない。彼女からさらに知らない話が語られた。

 

 「そうして手詰まり感でいっぱいになった頃から、彼は私にいろいろな事を話してくれた。最初は、桜木美月はどんな食べ物が好きか?どういうところに行きたいか?そんな、私を実験台のように都合の良い質問をしてたわ。そんなカンニングみたいな事にはあまり協力しなかったけど、話しておいた方がいい事もあるかもしれない……ききたいかな?」


 ――それはきっと私を悲しい気持ちにさせることなんだろう。ただ同じ自分だからこそ、彼女は私がどう判断するかもわかっている。――桜木美月なら、知りたいと。だから、美月は先を促す。


 ――わかった。と頷き、彼女は話しを続ける。


 「彼は言ってたわ、以前どこに行きたいか本人に聞いたら、星を見に行きたいと教えてもらった。その時直ぐに行けると思ったのはプラネタリウムだったけど、彼は星を観に行く計画をいつも、少しずつ立てていたわ。実はここに置いてあるの。あなたに、これを渡しておくわ。」


 彼女は、一冊の大学ノートを渡してくれた。中を開くと、びっしりと文字や数字が書き込まれていた。

美月は最初から読み始めた……


 ――星、いつ彼女と出かけても良いように、季節毎の星空の見方について勉強しておこう。特に星座の見つけ方は大切だ。そうだ、彼女の誕生日をこっそりと聞いておこう。誕生月の星座を探してあげるんだ。どうせなら、うんちくも勉強しよう。


 ――どこで見るのが良いか?都心は明る過ぎて星は見えない。満天の星空をみるには、地方に旅行に行かなければいけないな。……美月の両親は許してくれるだろうか?


 ――スケジュールを作ろう。電車の中だって、昼間だって分単位で計画を考えておこう。帰りは疲れて寝てしまうだろうか。これは寝顔の写真をこっそり撮るチャンスかも。


 ――そうだ、雨が降ったり曇ったらどうしよう。これは難問だ。俺は彼女と二人なら、何もなくても楽しいけど、つまらない男と思われたら悲しい!



 ――誕生日をきいたら。プレゼントを買おう。まずサイズについては、間違いなく確認できる。それくらいなら、あいつの彼女も協力してくれるだろう。これは良いサプライズになるぞ。


 ――今日とうとう指輪を買ってきた。念のためあいつの彼女につけて貰ったが、ぴったりだ。美月の喜ぶ顔が楽しみ!



 ページをめくる美月の瞳には涙が溢れていた。――涙が滲んで読めないわ。――美月は泣きながら、少しだけマコトの事を思い出したのか、笑う時がある。


 ……ページをめくる美月の手が震えている。


 ――彼女に教えてもらったように往生際の悪い姿だけは絶対みせない。もし、急に消えたって、ギリギリまで彼女を笑わせてやる。


 ――最後にこれは誰にも聞けないけど、美月が一番大事なのは、オリジナリティだと言っていた。これが一番厄介だ。俺にとっては天敵だ。だって全く同じやつがいるんだから。しかも、あの二人は幸せそうだ。


 俺は美月を彼等よりも幸せにできるのだろうか。俺は美月にとって唯一の存在になれるだろうか。俺にとっては美月は世界に一人だけだ。……やっぱり時間が欲しい。一日でも長く。





…………消えたくない。






…………美月と一緒にいたい。






 ――このノートには、こんな事を書いてはいけない。万が一俺が消えたあと、もし見られて往生際が悪いって美月に嫌われたくないからな。



 ――美月に大事な事を伝えてない。俺の気持ちだ。せっかくなら、いい雰囲気で告白したい。



 ――今度ベイエリアに行く事にしよう。美月は星が好きみたいだし、綺麗な夜景も好きな気がする。夜景が観れるあそこの観覧車で、そう、ゴンドラが一番高い位置に上がった時がいい。今まではっきり言ってなかったこの気持ちを言葉にして美月に伝えよう。





 ――ここでノートは終わっている。





 誰も泣き崩れる美月にかける言葉が見つからない。今は、確かにこの世界にいた、たった一人のマコトの思いを、美月の記憶に刻んで欲しかった。






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