1章 5節 ふたりの日常 まこと
「おはよう!」
マコトは、学校の教室で朝の挨拶をする。
「おはよう。小杉、今日は元気だな。」
クラスの男子メンバーが少しだけ以外そうに挨拶を返してくれる。
「いやー、なんか高校生活楽しまなきゃなーとふと思ってね。」
「ふーん」
マコトの返事に大して興味もないようだ。
ただ、マコト自体も周りに対して何かを期待していたわけではなかったが、声に出して言葉にすると、恥ずかしさもありながら、それ以上にやる気が出てくる。朝の挨拶は大切だと思う。
マコトは授業やクラスでの時間を大事にした。かなり疲れるが、その分充実していた気がする。新しい気づきや、勉強もやればもっと出来る気がしてきた。中でも一番頑張ったのは部活だった。いつも100mのダッシュを何本もこなしていたが、全て全力でやった。それは予想通りバテバテになり、後半のスピードは全くダメだった。帰宅してからも入部当初のように足がパンパンになって、翌日の朝は筋肉痛で上手く歩けなかったぐらいだ。
そんな事を一週間、1か月と繰り返して行くと、少しずつだが、明らかな変化が起きてきた。勉強や部活のタイムが良くなってきた。友達が増えた。そうなってさらにしばらくたち、これまで考えていなかったいろいろな欲が出てきたのだ。レギュラーを目指したい。国立大学を目指したい、そして女の子と付き合ってみたい、と。
マコトがそんな風に考えながら、部活で今日も疲れ果てて帰る途中、校門のところで、入学以来気になっていた、一年生の有名人、桜木美月が声をかけてきた。
会話はたったの1往復で終わった。どこか期待していた自分がアホらしいとマコトは思ったが、向こうが自分に何か興味を持ったのなら、進歩だと前向きに考える。こちらからも仲良くなれないか思い切って話しかけてみるべきだと、勇気を振り絞ろうとしたところ、誰か後ろから駆け寄ってくる。
「美月ぃー!おーい!」
親しげに彼女に話しかけてきたのは、サッカー部で既にレギュラーを務めている金澤だ。彼はとにかく背が高い。190cmを超えているという噂があるくらいデカイ。スタイルも良い上、顔立ちも爽やかなストライカーは女子からの人気が凄まじい。
「体育祭の事で話をしたいんだけど、いいかな。」
一瞬チラリとマコトの方を見たかもしれないが、実質的に存在を無視されているようだ。桜木美月も話に割り込まれたような素振りは見せず、二人で駅の方へ歩いて行く。二人が付き合っているという噂をマコトも聞いた事があるが、かなり濃厚だ。
「桜木っ!またなーー」
悔しさ半分、やけくそ半分だろうか、マコトの口から声が出ていた。思い切り振った腕に、期待していなかった反応があった。桜木美月は、小さく手を振っていた。直ぐに金澤と歩き出したが、確かに手を振っていた。ギロリとノッポに睨まれたが、そんなことはかえってマコトの中で競争心を煽っただけだった。