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5章 2節 消失

 桜木美月は遅刻した。彼女にとっては初めての遅刻だった。それくらいに昨晩の彼女は寝付けなかった。


 いや、普段の美月なら、一晩くらい寝ずとも学校に行っていた。しかし、このところの睡眠不足に加え、蓄積された脳と心の疲労が、昨日は一つの方針が出来た事から、深い眠りについてしまい起きることができる状態では無かった。


 美月は嫌な予感がした。根拠なんてないが、急いで学校に行くしかない。早くマコトの顔をみて安心したい。そんな焦る美月と裏腹に通学経路の電車は遅延していた。



 やっと教室に着いた後、クラスにマコトの姿は無かった。クラスメイトに問いただすと、朝から何時も通り学校に来ていたらしい。確かに教科書もノートも机の上にある。トイレにしても、次は移動教室だからそろそろ戻っていないのもおかしい。


 美月には余裕が無かった。休み時間が終わるまでじっと待つ事が出来なかった。走って男子トイレまで行き、マコトを探す。驚いた美月の顔を見る男子が手を洗っているだけで、他にはいない。個室も空いている。美月の不安はさらに増していく。


 移動教室が始まるまで教室で待っていたが、マコトは戻って来なかった。


 美月は考えた。どうしたらいいか。考えたくはないが、()()()()()()()を証明するのは難しい。数学とは違うのだ。答えなんてない。このまま時間が過ぎていき、だんだんと身近な人から気付き始め、いつか行方不明になるまで待つのか?警察の手を借りる?案外消失してしまったのではなく、どこかに移動しただけの可能性は?――そんなの自分に都合の良い妄想だ。


 いてもたってもいられなくなった美月は、移動教室とは反対側へ走りだす。


 しかし美月は教室から出たところで、正面衝突した。こっちも走って来たマコトだった。


 「ご、ごめん。……大丈夫か?腹が痛くなって焦ってるのに、トイレが埋まってて下の階まで行ってたら、遅れちゃったよ……あれ?なんか怒ってます?」


 マコトは、一瞬言葉に出来ない顔をした後、凄い形相で睨みつけてくる美月にたじろぎ、つい細かな話までしてしまった。――また腹が痛くなってきた。

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