5章 1節 繋いだ手
桜木美月は焦っていた。風呂好きの彼女にとって、入浴している時間は本来リラックス出来る時間のはずだった。しかし、今の彼女はそうではなかった。
もし彼女の考えている通りなら、本当の小杉真は美月と付き合っているマコトではない。彼等がどちらが本物か判断した理由は知っているが、それは間違いだったのだろうか。
そもそも、どちらかが本物で、もう片方が偽物という仮定は正しいのだろうか?
原因不明の二重存在について解っていることは、とても少ない。これまでは裏側の二人をサポートするので精一杯であり、目の前にある問題をなんとかしたり、生活基盤やこれからについて目処を立てられただけでもかなりの進歩だ。原因分析やその解決なんて出来てないのは仕方ないし、いったいどうすれば良かったというのだ。
いくら考えても解る筈のない理不尽な問題。でも推定や仮定を重ねてでも、予想される解答パターンが膨大でもこれから自分は正面から逃げずに考えていかなければならない。思考停止してしまっては、可能性は0%だ。可能性を大事にするのが自分の長所であり、個性だったはずだ。
美月を悩ませている大きな目の前の問題は、3つある。彼女は持ち前の賢さと冷静さで、どうにか頭の中で整理する。
一つは、この問題をどうやって解決するかだ。解決とは根本的な原因がどうあれ、マコトの存在を確保する事だ。やり方なんて分からないし、原因が不明なら保証は出来ないかもしれない。ただ、先日の現象自体の原因が分かり対策が打てるのであれば、そちらが優先される。……極端な話を言えば、例えば分子レベルで、いやCTスキャンでもなんでもマコト達を比較して、何らかの差分が見つかれば、それを物理的に埋めてしまえばいい。原因がわからずとも今はそれでもいい。時間さえあれば、チャンスは、可能性はある。
二つめは、この事をマコト本人に話すべきかどうかという事だ。話せば彼は懸命に一緒に考えてくれるだろう。今の自分が抱えているものを彼と共有できれば、どんなに心強いだろうか。さっき思いついた検査だって本人の協力は必須になる。……しかし、もしかしたら余計な不安を彼に持たせてしまう。そしてその不安を取り除く術は思いつかない。そんな事すべきだろうか。
三つめは、マコトが急に居なくなってしまう可能性だ。この間のマコトの様子からすると自覚症状は全く無いようだ。忽然と消えてそれきりになる事だってあるかもしれない。……それが一番怖い。その場合、あとどれくらいの時間があるのだろう。まだ伝えてない事や一緒にやりたい事は数えきれない。
………………
ベッドに入った美月は、明日からの事を考える。最近は寝不足気味だが、考えずにはいられない。
少しずつだが、考えはまとまってきている。あの池のほとりから帰ってしばらくは呆然としていた時と比べたら、物凄い前進だ。前向きにならなくては。
先ずは思う事を一つずつ、やっていこう。美月は自分に言い聞かせる……
――次に彼と繋いだ手を離さないように。




