4章 15節 池のほとりで
桜木美月は、小杉マコトと公園に来ていた。毎週週末に二人きりで出かけるようになったのは、まだ最近の事だ。
以前のように、構えず自然体でいられるようになったのも先日のアパートでの一件以来かもしれない。水族館で魚を見たり、流行りの映画を観ていなくても、二人でこうして話をしたり、散歩しているだけで充分幸せだった。
正直に言って、自分がこういう心情になるとは全く思っていなかった。そういう意味でもマコトといるといろいろな事があり、あの時校門で彼に声をかけていなかったらと思うとちょっと恐ろしくなるし、自分の判断を褒めたくなる。
「ベンチがあるよ。ちょっと休憩しよ?」
その後も二人でたわいもない事で笑いあった。ただ池のほとりのベンチで休んでいるだけなのに、楽しい話ばかりだ。
喉が渇いてしまったので美月は近くの自販機で飲み物を買ってくることを志願した。
美月はマコトの依頼通りのお茶を彼に渡し、自分はミルクティーの蓋を開けながら、先程みた不思議な光景についてマコトに聞いてみた。
「今さ、マコト消えなかった?一瞬……」
美月はミルクティーを口に運ぶ。味がわからない。
「えっ?いやそんな事ないよ、俺はずっと君の事を見ていたじゃないか?」
マコトは質問の意図を微妙に勘違いしていた。彼は美月が、ベンチを離れたか?という質問をしたと思っていたのだ。
「……だよね。……私もずっと見ていたわ……気のせいよね……」
美月はその優秀な頭脳をフル回転させて、どうしてああいう事が起きたのか考えた。しかし、彼女の知る範囲であの距離で正面にいる自分の恋人を見失う事象に心当たりはなかった。
――いや、彼女は唯一心当たりがあったのだが、その事を今の錯覚のようなものを結び付けて考える事を無意識に避けていた。
マコトはその後もいつも通りだったが、美月はどうしても不安でたまらなかった。振り払いたいと思えば思う程、執拗に追いかけて来る。
一度思いついたこの最悪の考えが気のせいだと、誰でもいいから否定して欲しかった。




