1章 4節 ふたりの日常 シン
「……」
マコトは、チラリと僕の方を伺った後、何も言わず学校に行く。僕ら二人になってから、1か月ぐらいか。
まぁこっちも話す事は無いし、夜中までゲームをしていたからまだ眠い。
僕はつい最近アルバイトを始めたが、普段はゲームをやって引きこもっている。中古ショップで数百円でも面白いゲームが手に入る。深夜アニメもリアルタイムで視聴可能だ。昼からぶらついているとなんとも罪悪感が出てくるが、最近はアルバイトをしているからか、もう慣れてしまったのか、あまり気にならなくなってきた。ゲームやアニメの世界に没頭していると満たされている。正直アルバイトも辞めたいが、マコトがうるさい。学校も部活も任せているから、あまり文句も言えないのが現状だ。
今日もゲームの続編を買いに外に出て来た。まだ夕方で部活をやっているマコトは学校だろう。街には帰宅してきた高校生がいた。ゲームセンターから出てきたところでばったりあった。入学以来気になっていた桜木美月だ。見た目や学力も一年生でトップクラスの彼女は男子の憧れであり、誰もが同じく気になっていると思う。思わず見惚れてじっと見続けている間に、向こうもこちらに気づいたのか、目線が合った気がしたが、すーっと立ち去ってしまった。
接点もない僕らには、普通の事だろう。何か運命的な出会いでなんて無かったのだ。――当然の事なのに、内心もう彼女のことを好きになり、彼女が僕の彼女だったら……なんていう願望も、断ち切られた感じがした。失恋なんて大袈裟なものではないが、胸の辺りがズキッときた。
「――なんだ、結構本気だったんだ……」
心の何処かで、高嶺の花に対して特別な感情なんて持つな、という自己防衛本能でも働いていたのかもしれない。傷つきたくないから、好きにならないし自覚もしない。
「――まぁ、もうどうでもいいか……ゲームを買いに来たんだ。あのエンディングの後、どうやって新しい物語が始まるのかワクワクしていたじゃないか?」
気持ちを切り替える?それとも逃避か?何で逃げなきゃいけない?未だ何もしていない。
ただ僕には、何も出来ない。正直恋愛なんてどうでもいい。と、自分に言い聞かせてゲームショップへ行く。――そうだ。ひたすらやり込みをするんだ。