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4章 6節 将来の問題

 「あなたたち、将来について考えてみたの?」

桜木美月は、やはり直球内角高めを突いてくる。


 「いや、目の前のことが大変でほとんど話してないんだ。正直、かなり悩ましい。社会的にどういう立場で生きていく事が出来るのか、それが一番の問題。」

 僕は思っている事を素直に話す。やはりこの話は、どうしても不安になる。日本の戸籍システムはしっかりしているので、正式な戸籍を持たずに生活するのは難しいだろう。どこぞの大国は税金対策などで戸籍に載らない人々が何億人もいるらしいが、そんな事は出来ないだろう。


 「……あくまでも話を進めていくための思考実験として、極端な例を挙げていくから、あまり深く突っ込まないで聞いてくれる?」

 緑虫さんが布団を敷いて中に入りながら話し出す。彼女は布団が好きらしい。落ち着くのだろう。


 「生活に必要なものは、衣食住。人である限り必須だわ。これについては、異論はないはね?」

皆、頷き先を促す。


 「次は社会的における自己の登録……まあ、戸籍ね。これに紐付いて、住民票や保険証なども発行されていく。」

緑虫さんは続ける。


 「最後に会社やその他のコミュニティに属し、勤労の対価として賃金を得て、最初の衣食住に加えて、文化的な生活、つまり娯楽よね。これも大切。

ここまでが当たり前の必須条件である事が分かっているから、私達は悩ましいわけ。で、一番の問題は実はこの戸籍に起因している。これは出生後登録されるもので後から申請するようなものでも、出来るものじゃない。」

緑虫さんは、淡々と話しを続ける。分かってはいたが、確かにそうだ。


 「亡命とか帰化してという新規に獲得するというのも日本語しか出来ない私たちには、振りすら出来ないし選択肢からは除外、死亡した人が死亡届けを出す前に戸籍だけ頂き、なりすますとかは論理的にはありえるかもしれないけど、事実上不可能に近いから、これも外すわ。裏世界から戸籍の売買とフィクションには良くある話だけど、これもリアリティがないから、除外する。」

僕もそんな事は考えたが、同意だ。


 「ここからが、本番ね。これまで話した条件で私は二つの方針があると考えているの。」

続けて話していいかしら?


 僕らに異論はない。その二つとは何なのか?

緑虫さんは、僕にはこんなことを話しくれた事は無かったけども、ずっと考えていたのだろうか。


マコトと桜木さんは、素直に生活するとすれば、これから緑虫さんが話す事は、彼女が僕とやっていかなけれはならない事なのだろう。ただ彼女と一緒なら、何とかなるのではないか?不安と期待が高まる。

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