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3章 6節 緑虫さん

 「ただいま。一人で大丈夫だった?緑虫さん。」

僕は思った事を言った。生きてるか心配だった。


 「……大丈夫かな。お腹空いているけど。」

緑虫さんには、乙女の恥じらいはないらしい。

いや、こんな考え方は女性差別か。


 「とりあえず、お弁当買って来たよ。お昼の事とか気が回らず、ごめんなさい。明日はお金置いておくから。」

と言った後、何で彼女が明日もいる前提で話をしてしまったのか。ただおそらく行く宛もない彼女には、こんな家でも無いよりはマシなはずだ。


 「……私はここに居ていいの?お金もないし……」

彼女は申し訳なさそうに言う。もっと気を使うべきだった。悪いことをしてしまった。


 「もちろんだよ。昨日も話したけど、自分も今のこの生活を手に入れるまで苦労したし、本人同士の協力関係も住む場所もない、さく、……緑虫さんの方がよっぽど大変だよ。」


 「……言い直しをしてくれなくても、問題ないくらい酷いニックネームだから……もういいけど。」

彼女の中で、緑虫さんという名前は許容範囲のようだ。自分でつけていてなんだが、なかなか器が大きい。


 「じゃあ、これで。食べモノ以外にも使っていいから。遠慮なくどうぞ、緑虫さん。ニコッ。」

 僕は一万円札を一枚渡した。


 「いちいち、呼ばなくいいわよ……でも助かる。服を買いたいの。ごめんなさい……」


 「だから、いいよ。とりあえず、お弁当を食べよう。」


 僕は、彼女が遠慮しているのが残念だったが、逆だったらと思うと何も言えない。


 「そうだ、明日から家の仕事をしてもらえないかな?掃除をする程何も無いけど、自炊出来れば食費を抑えられると思うし。1日二人で500円以内で。あっ、でもお嬢様には無理か料理なんて」

軽く煽ってみる。


 カチーン――、そんな音が聞こえたような気がしてくる。

「……やりましょう、ええ、やらせてください。少しでもフェアにしたいと、ちょうど思ってたの。」

プルプル震えながら答えている。言い過ぎたか。

いや、まだまだだろう。寧ろいい感じだ。


 「助かるよ、緑虫さん。あー楽しみだなぁ〜」

僕は、プレッシャーを与えつつ、我が家の唯一の娯楽である古本の読書を開始する。


 緑虫さんは、鞭毛を揺らしながら、やり場のない怒りをぶつけるようにガツガツと弁当を頬張っていた。



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