3章 5節 名前を変えて
僕は彼女に自分に起きた事をありのまま話した。マコトと分岐してしまったあの日から、今彼女をに連れてくる迄の事を。
彼女は、いろいろな事を質問してきたが、何故こうなったか?どうしたらいいか?なんて僕にもわからない。僕は、まだ不調であろう彼女を布団に寝かせるため、
「話はするから、とりあえずもう少し寝て?」
と、彼女の不安な気持ちを悪いが利用させてもらいながら話を続けた。
――ひと通り話が終わった頃、彼女は寝付いていた。今度はさっきよりも多少は安心したのか、よく眠っている。
その後僕は、明日に備えてとりあえずの買い物を済ませ、早めに自分も毛布にくるまって寝る事にした。
大変な一日だった。
……
翌朝目が覚めると、彼女は起きていた。体調は良いようだ。昨日買っておいたパンを食べている。勝手に食べてくださいと書き置きした甲斐がある。
「名前を変えて。」
おはようなんかではなく、朝の最初の言葉がこれだった。ただ何が言いたいかは解る。僕はわざとふざけてみようと思った。少しでも元気を出して欲しい。
「――ミツーキ」
彼女は、――えっ?と変な顔をした。
「嫌よ、そんなの。」
と言われても、名前をつけるのはなかなか難しい。
「僕みたいにハンドルネームとかないの?」
「カタカナでミツキとかアルファベットでmitsukiとかだから、ダメかな。自分でも朝からずっと考えていたんだけど、思ったより難しいというか、――その、――恥ずかしくて……」
わかる気がする。この現象の先輩としてここは頑張るか。
「じゃあ、コードネームみたいなのは?MTとか」
うん、ちょっと難しい自動車免許みたいだが、なかなかいいだろう。
「却下。」
即答か。どんなのがいいのだろうか。やはり、女性としてはもっと高貴な感じで……
「白金とかいてプラチナさんとか?」
「……ドキュンみたいでやだ。」
うーむ、たしかに。普通の名前ぽいのがよいか。
「じゃあ、松平とか?暴れる将軍ぽいし、少し偉そう。」
「――偉そうになる必要ないから、――しかもそれ親戚にいるし。なんかセンスないね。はぁ……」
まずい。このままでは、使えないやつになってしまう。まいったな。ヒントが欲しい。
「何か方向性というか、希望はないの?」
じゃあ、自分で考えろよ、という言葉を飲み込んで様子を見る。
「それは、例えば……、……だから、普通のでいいから!」
普通とか何でもいい、とか言われるのが一番困る。
その後もしばらくやりとりは続いたが、決まらなかった。
「今のわたしなんて、どうせ虫みたいな存在よ。もう何でもいい。」
彼女は元気が無くなっていた。不安でいっぱいなんだろう。
「じゃあ、緑虫さんで。もう確定にしてくれ、仕事に行かないと。」
僕は逃げるように家を出た。本当に時間が無かったし、自分から虫とか言い出したんだから……
変な名前にしたのは、理由もある。怒りも一つの感情の衝動だ。無感情は良くない。今後は僕には対する怒りで彼女の気持ちを出させよう。それが一番簡単そうだ。
――まぁ僕には、あの髪の毛の寝ぐせのような長いアホ毛が、ミドリムシの鞭毛に見えたからなんだけどね。




