3章 3節 判断ミス
引っ越しが終わってから一週間程経った頃、僕は夕方の公園で俯く桜木美月を見かけた。途方にくれたようにうなだれている。自信に満ちた高飛車な彼女のイメージからは程遠い雰囲気だったので、普通なら見過ごしそうなものだったが、髪に付けた特徴的なリボンが彼女だと確信が持てる。
――どうしたの?何かあった?
僕は声をかける寸前に思い出した。マコトと約束したんだった。関わらないでくれとはっきり言われた。そもそも自分が声をかけて、何ができるのだろう。いや、何も出来ない。話を聞くだけでも楽になる、とは良くきくが、今の僕にそんなことが求められているとは思えない。彼女ならマコトはもちろん金澤やたくさんの助けてくれる人がいるはずだ。
結局僕は彼女に声をかけることなく、帰宅した。
次の日、昨日と同じく夕方まで働いた後の帰り道の公園で、僕は昨日の判断を後悔した。桜木美月が全く同じ場所で同じようにうなだれているではないか……
「桜木さん……、あっあの、どうかしたの?」
僕は今度は躊躇わなかった。
彼女は、数秒反応がなかったが、漸く顔をあげた。顔色が悪い。
「……小杉く……ん、…ん……」
僕の名前を言いながら、彼女はバタリとベンチに倒れてしまった。
「――あっ、桜木さん?桜木さん!――」
思わず手をとり、はっとする。物凄く冷たくなっている。反射的におでこのあたりに触れると、明らかに熱い。凄い熱だ。救急車を呼ぶかと思ったが、ケータイを持っていなかった。僕は彼女を背負い、家まで連れて行く事にした。




