3章 2節 家出
住処を確保するためには、お金以外にも保証人やら不動産屋との交渉、その他手続きが各種必要だ。ただこれに関しては、勉強に集中するためと言ったら、大人たちは先立つものの工面さえできれば、たいてい何とかなった。今回は親との調整や誤魔化しなど、かなりマコトも協力してくれた。
さらに幸運な事に季節工の仕事は予期せぬメリットがあり、家の数駅先に同じ系列の工場があり、フルタイムで働くことになった。真面目な勤務態度が評価され、問題ない人材と登録されていたらしい。
引っ越しは直ぐに終わった。ほとんど何も持っていないからだ。しかしながら、僕はこの何もない状態がかなり快適に感じていた。真っさらな白紙の紙に近い。確かに未来は不安ばかりだ。二重に存在しているだけで、戸籍や保険に入れないなどはない。本人として行動さえすれば、何も虚偽はない。もちろん、マコトが就職して納税が始まれば副業の問題など発生するだろうし、他にも気づいていないだけで致命的な問題はあるだろう。だから、大学、いや高校を卒業する後2年の間に、対策は講じなければならないだろう。
――今は考えるのは後回しだ。このところの目まぐるしい生活の変化で、心も身体も疲れきっている。
僕は何もない部屋の真ん中で、ただ自分の力で手に入れた自分だけの場所で、大の字になって眠る事にした。それは間違いなく、ゲームをクリアした時よりも大きく、未知の充実感があった……




