3章 1節 立ち上がるシン
「おい、シン。今日は、桜木さんを水族館に誘うから。」
僕、小杉真は、自分のことをシンとする事に抵抗は無かった。これまでやってきたRPGやネットゲームその他のハンドルネームは、全てシンだ。
勇者シンは、もう何回世界を救ってきたのだろう。
マコトは、言葉どおり頑張っているようだ。僕から言う事は特に無い。寧ろマコトと呼ぶ方が気恥ずかしいくらいだ。正直言って、マコトと居ると疲れる。桜木さんとの事も聞きたくはない。そろそろこの生活を変えなければならない。以前から考えていた事だ。僕は立ち上がり、決意した。
とはいえ高校生が自立するのは、むずかしかった。住み込みの働き口を探したが、男子高校生が申し込めるものは近くには無かった。考えてみれば多少は離れた方が都合が良いだろうが、そこまでの勇気はこれまでは無かった。
お金に関しても当然だが苦労した。
結果的にフルタイム以上で働くため、何かと出入りに気を使わなければならない家から出る必要があるのと、しばらくはマコトと距離を置きたかった事もあり、地方の機械の組み立てをする、季節工というものに申し込んだ。
これは理想的な環境だった。仕事は大変だったが、他にやる事もない。身体を動かし、規則正しい生活を送れるのは結果的に良かったかもしれない。お金はかなり貯める事が出来た。
数ヶ月ぶりに家に戻ると、マコトの態度は軟化していた。寧ろ自分が追い出したのではないかと、気にしていたようだ。僕はそれを訂正し気にするなと伝え、代わりに本格的に家出するから協力して欲しい事を伝えた。マコトはやれる事は何でもすると言う。
――まぁ当たり前か……




