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2章 9節 初デート

 約束したデートに着て行く服を悩んだ結果、桜木美月は学校の帰りに専門店街に立ち寄る事にした。予備校に行く前に決まると思っていたが、どの店のどの服も決定力にかけていた。結局最初の店で見かけた赤いワンピースを買って帰る頃には予備校の授業を2コマも欠席してしまった。ただ後悔はない――そのくらいには気に入った服が買えた。


 美月は今までにもデートはしてきたはずだった。しかし今回は何もかもが違っていた。前日までの準備や待ち合わせ場所に向かうまでのワクワクした気持ちは不思議な感じだった。自分の洋服や髪型や軽いメイクまで全部が気になった。家を出る時にはテンションMAXだったのに、あんなに完璧な自分に皆んなが振り返るぐらいに思ってたのに、今こうして待ち合わせ場所について彼を待っていると、どう思われるか急に不安になってきた。


 美月は時間丁度に着く予定で来たので、待ち合わせの時間はもう過ぎている。メッセージアプリもチラチラと見ているが、何の連絡もない。あーもうどれほど待たせるつもりなのか?


 美月がスマホの時計を見ると約束した時間から未だ5分も過ぎていない。少し過敏になっているかもしれない。落ち着こう。そう思って美月は深呼吸をする――


 「ごめん!待った?!」

 

 小杉真が走って声をかけて来た。深呼吸した後に息を大きく吐ききったらところで、声をかけてきたものだから、思わずむせて咳き込んでしまった。……すごく恥ずかしい。


 「ゴホゴホッ……ウグ。待ってなんかないわよ。いいから早く行きましょう。」


 美月は小杉真の顔を見るのがなんとなく恥ずかしく、彼の胸元を見て話をした。そこには何とも似合わないネックレスが見えた。彼なりに頑張ってお洒落をしたのがわかるが、ダサいなんて言ったら、気を悪くするだろう。いつもの美月ならすぐに伝えていたはずだったが、今日の彼女は黙っていた。


 (いつかもっと似合うアクセサリーをプレゼントしてみようかしら……)


 そう思ったとき、美月にはとても良い楽しみが出来たのを内心喜んだ。それが思わず顔に出たのか、彼が来てから、ニヤケが止まらなかった。そのせいで小杉真に失礼な事を言われる羽目になった。


 「何でそんなにニヤニヤしてるの?俺なんかおかしいかな……結構決めてきたつもりなんだけどな。」


 (残念な感性ね。その辺りはオイオイ教育が必要ね。髪型も服装も、そのネックレスもいまいちです。メイクは男だからしないか……)


 その時初めて目が合った。


 「やっとこっち見た!やあ、こんにちわ。」


 「……こんにちわ。」


 美月は外見なんかにこだわっていたのが、恥ずかしかった。


 「ずいぶんと派手な服だね?これ着こなせるのは桜木さんぐらいだよ。うん、可愛い!」


 「う、うううう。……行きましょう。」


 (何よ!失礼過ぎ……でも、やっぱりこの服にして良かった。――でも、私に向かってこんな態度をとらせるなんて、今日の私の対応は甘いかしら……)


 美月は開始5分で頭が真っ白になった。初デートは未だこれからだ。


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