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2章 5節 美月とマコト

 桜木美月は忘れようとしていた。先日から小杉真の事を意識し過ぎている。自分が断られたのはたったの1回だ。向こうは2回も断られている。お互い少し時間をおいた方が良い。冷静になろう。美月は勉強に集中する事にした。


 「体育祭でのダンス楽しみだね?」

 休み時間になりトイレから教室に戻る途中、廊下で小杉真がクラスメイト、いや確か同じ陸上部の女子だった気がする……と、楽しそうに話している。美月は思わず身を隠して、様子を伺う。良く聞こえないが、二人ともニコニコして話している。

 ――もう休み時間も終わりではないか?そんな廊下の真ん中で、他の人の迷惑も考えないの?私が教室に入れないじゃない!


 「桜木さん、何やってんの?」

美月はビクッとして跳ね上がる。金澤翔が後ろから、声をかけてきた。彼とは映画を観たあと、少し仲良しになった。友人として。彼は優しく、度量もある。思い切って、小杉真の事を彼に相談しようかと思ったが、いくら美月でもそれは良くないと理解している。彼が自分に好意を持っているのは知っているし、彼も私と交際するような段階でない事を理解している。少しずつ距離を縮めるつもりだろう。その事に対して私は中立だ。可能性はある。そんな彼の気持ちを考えると、こんな事は相談できない。美月は適当に誤魔化して金澤と教室の方へ向かう。


 「やっぱり、あの二人って付き合っているのかな。いいなぁ。」


美月が小杉真たちの横を通った後に、クリアに聞こえてきた。


 「うーん、どうだろう?」

小杉真が煮え切らない事を言っている。何を言っているんだ。――ちゃんと言ってよ。知っているよね?

美月は、声が出る直前だった。


 「ハルちゃんは彼氏居ないの?」

小杉真のその発言を聞いた後、美月は廻れ右をして小杉真に駆け寄る。


 「私は居ないわよ!」

小杉真は、突然の怒声と同時に、美月のワイルドなミドルキックを尻に食らった。

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