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2章 3節 美月の苛立ち

 桜木美月は、金澤翔の申し出が彼の自分に対する好意である事は理解していた。美月にとって、金澤翔は特別な存在ではない。しかし、そうなる可能性はある。美月にとって恋愛は実感した事のない、未知の領域だ。それ自体に興味が無い訳ではない。現に高校入学以来、数人の男子からデートの誘いがあり、その全てにOKしてきた。美月は見た目や噂には拘らない。しかし、交際と呼べる段階には発展していない。いきなり告白して来た場合も何度かあったが全て断って来た。美月には、知らない相手にいきなり拘束される意味が理解不能だった。ただし、デート程度であれば可能性を捨てるような事はしない。出会いだけで全てが決まる訳はないのだから。


 ただ、結局は勘違いされるか、交際を申し込まれる事になり、そこまでだった。もちろん無駄な時間ではなかった。美月とっては、どれもが新しい経験であり、相手を理解するまでの時間が今後は減るだろう。正直、次から誘いがあったら、断るケースもあると思う。今回金澤翔に誘われてOKしたのは、彼が多くの女子から人気があり、その魅力を知りたい気持ちがあったからだ。


 美月が金澤と約束した後、小杉真に声をかけられた。彼は偶然にも美月を映画に誘って来た。

 「ごめんなさい。その映画は金澤くんと観る約束をしているの。」

 美月は正直に答えた。


 小杉真は、それじゃあ、しょうがないと立ち去っていった。美月は腑に落ちない。


 ――何でそんなに早く諦めるのか。自分に好意があるのではないのか?

 普通に考えれば、噂通りに金澤と自分が付き合っていると勘違いして、諦めたのだろう。


 しかし、美月にはそう思えなかった。彼はこの間、自分が金澤と付き合っていない事を断言して来た。自分の事を知ったような態度や決め付けには腹がたったが、事実を指摘されたのと、どういう意図か分からず、バカにされたような悔しさと恥ずかしいという気持ちがあった。

 ――そう、だから解らない。好きなら嫉妬ぐらいするのでは?

そう思うと、また小杉真に対しての苛立ちのようなものが増してきた。

 「今朝もあんなに一生懸命走っていたじゃない……あなたは、何がしたいの?」

独り言ちてから、自分だって何がしたいのかわからないじゃないと、珍しく反省する美月だった。


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