プロローグ.1
勢いで書いていきます
目を覚ますと斜めになっている天井があった。現代の日本建築の多くは立方体の部屋が多く、大体の日本人はそこで睡眠をとることが多い。よって天井が斜めなのは屋根裏部屋か手作りのウッドハウスぐらいしか俺は知らない。
夜にトイレに行って部屋を間違えたのか。しかしよく考えると俺の家はマンションで、屋根裏部屋などは存在しない。
首だけ動かして周りを見渡すと人をみつける。体格からして男だろうか、しばらく見つめていると俺の視線に気づいたのかこっちを見た。しばらく目が合うと男は声を発した。
「姉さん、あいつが目を覚ましましたぜ」
おそらく寝起きであろう俺にはきつい声量だった。反射的に手を耳にもっていこうとするが、腕が上がることはなく手首に痛みが走る。痛みに悶えてさらに動かそうとするが、自由になることはなくさらに痛みが増した。
ああ、これは縛られてるのか。痛みによって全身の感覚がよみがえる。どうやら足も縛られているようだ。何とか外せないかともぞもぞするが隙間なくガッチリと結ばれているみたいだ。
バサッ!と部屋の入り口が開かれると女と目があった。遠くからでは小さく見えた瞳であったが、何かが引っ掛かった。その引っ掛かりを探ろうとより見えるように目を細める。視点が瞳の奥になると、まるで捕らわれたみたいで視線を外すことができない。
するとゾワッとした感覚が走った。ナンパが得意な奴なら女を誘ってやろうという武者震いなのだろうが、俺に感じたのは悪寒であるのは間違いないだろう。この感覚は合唱コンクールで向けられる視線のようなものであった。二つ四つなんかじゃなくて、百や千を超えるような数でみられている感覚。どこに居ようと誰かには見られている恐怖であった。
女の瞳を探ろうとしていたが、女に俺のすべてを見られているようだった。
「おい」
ハッと振り向く。女はすぐそばに来ており、その手にはナイフが握られていた。
「今から質問をする。できるだけ正直に答えてほしい」
ナイフとこの一言で俺は理解する。俺はこいつの手に落ちたのだと。こいつの機嫌次第で俺の未来が決まってしまうことを。
半年前から俺の人生には光はなくなった。だったらもうここで終わってもいいかな。
ふと半年前のことが出てきたのは昨日までの記憶が急に頭の中に出てきたからである。だが俺にとってそれは苦痛でしかなった。これからもそんな苦痛を味わうのなら消えてしまいたいと考えていた。ならこれはそんな苦しみから逃れるチャンスなのではないか。諦めれば楽になれると思っていた。だが
『人生続いていれば嫌なことやつらいこともある。だが発想を変えると、何が起きても不思議ではないということじゃ。もしかしたらそれは樹の人生を大きく変えることかもしえんのぉ』
俺の好きだったじいちゃんが言ってくれた言葉だ。もし今がその時だとしたらここで諦めるわけには行けない。俺は再び女の瞳を見た。
頼むぜじいちゃん。俺は信じてるからよ。