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 その声に振り返ると、店の入り口に立っていたのはジルカだ。

 後ろにはベネディクトゥスとダヴィアも居る。犬猿の仲だったベネディクトゥスとダヴィアだが、どうやら対抗戦以来それなりに交流が深まったようで、一緒に居ることが増えてきている。この三人を組み合わせたイルマを、間を取り持ったジルカの二人を褒めてあげたい。


「あの爆乳について、知ってることない?」


 ジルカは店に入ると結構な大声でそう言うもんだから、店内の視線を一気に集める。

 まぁそれを気にするような性格ではない。コツコツとヒールを鳴らして近づいてくるジルカに、どう返そうか少し思案。

 僕ら三人が神に会ったことを前提として話し合っていても適当に聞き流してくれたフローレンツとは違い、ジルカとダヴィアは絶対質問攻めにしてくるんだよね……。

 ていうか男子はユリアさんのことをそんな風には呼べないのに、イルマといいジルカといい、女子は直球で言えるの強いね……。


「あの胸に合う下着はあるのでしょうか……ではなく、お三方が何かを知っていそうな顔をしていたので、探していたんです」


 ダヴィアはそう言った。やはり、僕らの反応は露骨すぎたか。ホームルーム終わると同時に席を立って、黙ってフローレンツを引っ張って教室を出て行ったわけだし。

 今頃教室に残った他の生徒は、ユリア本人を囲んで質問攻めにしていることだろう。主に男子が。


「怪しすぎんのよあの爆乳。ボネ先生を脅迫でもしてんのかしら? さっき職員室で聞いてみたけど適当にぼかされちゃったし、他の先生も知ってるのか知らないのか分からないけど皆目逸らすし話してくれないし。そんなとこであんたらは何か知ってそうじゃない?」


「あー……なんか知人の関係者な気がしたんだよ。その話し合いをさっきまでしてたとこ」


「さっきまで? 今は?」


「平行線になっちゃって結論出ないから諦めて軽食タイム」


 ううん、僕はやっぱりハムよりは卵サンドの方が好きだなぁ。そういえば日本ではハムサンドと卵サンドとツナサンドで三つ巴の勢力争いをしていたような気はするが、僕にとっては卵サンドの卵を茹でて刻んでマヨで合えたものと溶いて焼いた厚焼き卵を挟んだものかのほうが重要だったので、気にしたことはなかった。ツナってこっちにもあるのかな? そういえば食べたことない気がするけど。


「そ、なるほどね。それって魔法使い? それもあんな爆乳なの?」


「いや胸で見比べてるわけじゃないからね!?」


「で、どうなの。魔法使い? 爆乳? どっち?」


「魔法使い……ではあると思う。爆乳かは知らんよ。ていうかそもそも性別も……」


 そこで言葉が詰まる。そういえば、エスメー・クロンメリンの性別すら僕は知らないのだ。

 神に性別があるのか、という概念になってしまうが、少なくともルゴスは女ではある。声が明らかにギャルだから分かるのだが。

 あの狐から聞こえた声は、女の声だったような気もするが、少し高い男でもあのくらいの声は出るだろうといった声質だった。そもそもエスメイ語を僕の知っている言語で認識するという手順を踏んでいる以上、聞こえた声がそのまま神の声とも限らない。

 チラリとリリーの方を見ると、察してくれたのか首を横に振ってくれた。うん、となるとやはり僕の勘違いではなさそうだ。


「うん? あんたらの知り合いなのよね?」


「知り合い……だけど、姿見て直接話したわけじゃないから」


「あ、なるほどね。どこが似てたの?」


「それが分からなくてね……」


「そういうことね。で、あたしらがここに来るまでに話した感じ……あれ、人じゃないわよね?」


「……うん?」


 ジルカの言葉に、ドキリとした。そうだ、ジルカ達三人は、Aクラスのフェリクスやリューブラントには実力で劣っても、大陸単位で見ても有力貴族ではある。それらの嫡子なのだから、あの神と会って話した僕らよりも早く結論を出せる可能性はあったのだ。


「ヒト種ではない、ということですわ」


「あ、ああ、そういうことね」


 ダヴィアがそう付け加えてくれたことにより、ようやく考えすぎということが分かってほっと一安心。


「魔力波長が獣人系種族のそれで、明らかに音や匂いに敏感でしたわ。私に分かったのはその程度ですが……」


「あやつの瞳、あれは我を見ているようで見ていなかった。全てを見透かされているような瞳でな、――あのような瞳の持ち主を、一人だけ知っている」


「あー、やっぱ? ベニーもそう思うわよね、そりゃ」


「え、何。誰? 僕も知ってる人?」


「会ったことはないだろう。前帝国王、アーベ・ファン・アウゼン氏が、同じような目をしていたのだ」


 前帝国王、アーベ・ファン・アウゼン。確かに面識はない。ジルカの祖父に当たる人物だ。故に、彼女にも心当たりがあったのであろう。


 僕も彼と同じで、あの瞳に見られたとき、全てを見透かされているような感覚に襲われた。あれが、僕だけではないのだとしたら?

 ゲーム内に存在した、《往時の瞳》という名のユニークスキルのことを思い出す。

 リュフィレの持っていた《英知の瞳》とは異なり、プレイヤーに対しても使うことができるものだ。効果は、過去に何をしたか知ることができる、というものである。

 プレイヤーに使えばどこからどう移動して何を倒してきたか、NPCに使えば過去の行動を知ることができるものであり、全く使えないわけではないが、別に強いと言えるほどのスキルではない。しかし、この世界においてそれを使うと、どうなるだろう。

 他人の過去を見通す目になるのではないか?


 エスメー・クロンメリンは置物の姿でリリーとイルマを見たとき、彼女らの先祖の名前で二人を呼んだ。あれはつまり、目の前に居る単一の人ではなく生命、種族としての過去を見たからそれを知れたと考えることもできるのだ。

 スキルという概念が生まれる前の存在故に、それと同じものではない。

 むしろ、エスメー・クロンメリンが所持していたのはスキルの原型に近いものだろう。極少数の人間だけが持つ、一種の才能でしかなかったものを、スキルという形に置き換えただけだと思われる。


「いや、何なるほどみたいな顔してんの?」


 一人で納得してうんうんと頷いていると、怪訝な顔のジルカが視界に入る。


「あ、バレた? 《往時の瞳》って名前のスキルなら、他人の過去を見ることはできる――と思う。伝聞でしか知らないけど」


「……聞いた事ないわね。二人は?」


 ジルカはベネデイクトゥスとダヴィアに目配せをするが、二人は無言で首を横に振る。


「正直誰が持ってるかなんて分からないし、確認手段もない。ただそれなら、あの人を見透かすような瞳の正体にはなるかな、と思ってね」


「何つまりあの爆乳、あたしらの過去覗き見したってわけ?」


「言い方悪いなぁ」


「……大分ムカついたんだけど、たぶんあたしじゃ勝てないからベニーやっちゃて」


 ジルカは手首をちょいちょいと動かし、首チョンパのポーズをベネディクトゥスに見せる。


「何故我が!?」


「私よりは強いでしょ。いや、なんか手も足も出ずに負けるとこ想像できるけど」


「戦う前から負けさせるな……ッ!」


 わなわなと震えるベネディクトゥスだが、流石に過去を見られたからと言っていきなり決闘を申し込むような真似はしなさそうだ。じゃあ本当に入学式の日のアレ何だったんだよ。

 元がアレで、学生やって丸くなっただけなのかな?


「やめた方が良いと思うけどなぁ……」


「何、あんたも自信ないの?」


「無いっていうか、人間の身では到底勝てない相手の可能性が0ではないと言うか……」


「……何それ、あの爆乳は神かなんかなの? 確かに女神像の胸は大きくされやすいみたいな話聞いた事あるけど」


「そっち寄りの可能性があるかなーと。や、ダヴィアさんの言うとおり、ただの獣人系の人かもだけど」


 偶然故郷が同じだけの可能性もあれば、エスメー・クロンメリンが狐に由来する種族故、獣人系と神を重ねている可能性もあるし、考えられる可能性はあまりにも多い。

 僕のように身体が化身になっている可能性は限りなく低いとは思うのだが、それも0とは言い切れない。

 ジルカはそれを聞くとううんと小さく唸って、しばらくすると口を開く。


「そんなの、何の根拠も無しに言うわけないわよね」


「根拠がないことも、ない。けどまぁ……説明はできないかな」


「そ。じゃあ良いわ。じゃあ、これだけは聞かせて。――あれは敵?」


 真剣な瞳で、こちらを見る。

 あれは敵か味方か。悪か邪悪かそれとも善か。


「ううん。悪い方の予感が当たってれば、味方だよ」


 エスメー・クロンメリンの縁者ならば、敵にはならないはず。一応僕ら三人には封印を解いたという恩があるはずだし、友好関係を結べた自信はあるからだ。

 少なくとも、いきなり敵対するような相手ではない。


「……うん? 普通逆じゃない? 悪い方なら敵じゃないの?」


「んー……なんて言えば良いんだろ。神寄りだったら、少なくとも僕ら三人の味方ではあるんだよね」


「よくわかんないわね」


「僕もだよ。タイミングが良すぎるから深読みしちゃうだけで、ただの巨にゅ痛いっ!!!」


 イルマが僕の手の甲を引き千切るんじゃないかという勢いで抓り上げるので、思わず悲鳴が出てしまった。うう、巨乳って言うくらい許してよ……。話の流れなんだからさ……。


「ただの爆乳女って可能性もあるわけね」


「そ痛いっ!!!! イルマやめてほんとやめて!!」


 痛い痛い痛い! なんかどんどん力強くなってってる! 障壁発動しないのどうして本当に! 徐々に強くなる接触攻撃に弱いという障壁の癖とか完全に見抜かれてるでしょこれ!?


「人のおっぱいばっか見てるからですよ」


「そんな見てないから、ね!?」


「でも私のより見てるじゃないですか」


「それは、仕方な痛いっ!!!!!」


「ほらーリリーもやっていいですよー」


「わ、わたしは、いいよ……?」


「そ。じゃあリリーの分も……」


「痛い痛い痛い!! ほん、いや、ごめんなさい、ほんとに、ごめんってば!!」


 えっもうどうすればいいの!? 土下座!? DOGEZAか!??? けど手を間接まで決められてる現状椅子から立ち上がることもできないんだけど痛い痛い痛い! 麻薬魔法で痛覚鈍化するレベルの痛みだよこれ!!


「あー、なんかあんたら見てたら興が醒めちゃったわ。なんか分かったら教えてねー。じゃーねー」


「はあ痛い!!」


 ジルカ達を見送ってからも数分、イルマの八つ当たりを食らうことになったのであった。

 うう、おぼえてろよ。

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