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「二人とも、大丈夫?」


 転移魔法は、三人を指定して行った。故に、この空間にはリリーとイルマも共に居る。

 流石に三度目ともなれば僕は慣れてしまったが、二人は違う。


 自分がここに居ることしかわからない。立っているのか浮いているかも分からない、なんとなく白いことしか分からない何もない場所に、僕らは確かに存在している。


「え、あ、はい、はい。えーと?」


「あれ、音がしない……?」


 二人の反応は、まぁ予想通りというべきか。

 首を傾げて悩むイルマと、瞼を閉じて周囲の音を探るリリー。


「たぶん、神の世界……的なとこ?」


「え、何それ、せんせそんなとこに飛ばせるんです!?」


「ここにルゴス様が居るの!?」


 二人して飛び上がらんばかりに驚かれたが、正直僕の方が驚いている。

 転移魔法でこっちに飛ぶことなんて出来ないよね? 座標知らないし、そもそもこの場所に座標があるのかも分からない。

 ルゴスに接続している座標と同じかもしれないし、違うかもしれない。そもそも僕は門魔法で使われているらしい接続先情報を、全く認識できていないからだ。


「……まずイルマ。残念ながら、僕ではないよ。寮に飛んだつもりだったけど、失敗してこっちに来ちゃってる。座標指定したと思うんだけど……。あとリリー、ルゴスとはここで会ったけど、今もここにも居るかは分かんない。ていうか、戻り方も分かんない」


「へぇ……」「そうなんだ……」


 露骨にガッカリする二人を見ていると、申し訳ない気持ちになってくる。ここは嘘でも言っとくべきだったかとか考えちゃうが、話がややこしいのでナシ。いや現状がかなりややこしいのだが。


「とりあえずリリー、食堂に居た何かはまだここに居る?」


「うーんと……居ない、と思う。音も声もしないから……」


「なら、緊急避難は成功かな。何だったんだろうなぁ……ていうかルゴスでしょ? 出てきてってば」


『ちょ、ちょいまち』


 聞き覚えのある声が、空間に響き渡る。壊れたスピーカーのような音で、いつもとは違ってどこに居るのか分からない。

 やはり、ルゴスだったのだ。

 となると、食堂に居る時、変なのに捕まったと言ったのもルゴスであろう。


「やっぱ居るか。何を待つの?」


『ちょい話し中、数分待ってて』


「はーい」


 僕が何もない空間と話していると、リリーとイルマがキョトンとした顔で僕を見ていることに気付く。


「……あれ、声聞こえてない?」


 もしかして僕が独り言を言ってたように聞こえてた? はっず!


「「今の声は?」」


「ルゴスだけど……」


「「へ!??」」


「あ、やっぱ聞こえてた? 良かった良かった」


 良かったー。独り言になるよりも聞こえてた方が楽でいいよね。まぁ頭の中に聞こえてるというより、普通に音として聞こえているようだから、二人に聞こえていても何もおかしくはないのだが。


「え、えみ、えみりおくん?」


「はいリリー。僕はエミリオ君ですよ」


「いまのこえ、るごすさま?」


「そうだよ」


「はわわわわわわわわわ」


 僕の腕を抱きしめるようにして狼狽するリリー。全くもう、可愛いなぁ。

 これ、ひょっとしてリリーからするととんでもない状況なのでは? 俗物な僕ではアイドルと対面くらいに考えてしまうが、たぶんそれどころじゃないんだよね。


「せんせ、そこ……というか、そのへんに神様居るんですか?」


「っぽい? 話し中みたいだけど」


「はぁー……誰と話してるんでしょ」


『知らん人。人? 人じゃないかも。エスメーって知ってる?』


 僕らの普通に掛け合いに混ざってくるルゴス。

 エスメー、エスメー……あ、なんか聞いたことあるぞそれ。ちょっと前に会ったよね?


「エスメー・クロンメリン様……?」


 思い出せなかった僕の代わりに、リリーが正式名称を呼んでくれた。そうそうそれそれ。迷宮で会った神様だよね。


『それそれ。知ってる人?』


「は、はい! 316日前に謁見しました!」


 いつもと全く違うハイテンションのリリーに軽く引いてるイルマが視界に入ったが、気にしないでおく。


『なるほどねぇ。エミリオ、アンタを座標として降りてきたみたいよ。や、アタシが化身にしたのが見つかった原因かもだけど、まぁ目を付けられたのはアンタだから。アタシは悪くないから』


「……うん?」


 なんか威厳もクソもないこと言ってない? 神なんだからもうちょいさぁ。


『とりあえずそこに居る限りは安全――って言いたいとこだけど分かんない。一応逃げる準備はしといて』


「って言われてもなぁ」


 うーん、転移できるかな? この場所の座標が分からないと、転移魔法は難しいんだよなぁ。上下左右なら誤魔化せるが、ここは僕らの生きるあちらと同じ世界かも分からないのだ。


『縦軸を7次元ズラして計算して。出来るでしょ?』


「あ、それならなんとか」


 ってこの反応、心の声聞こえてたりする? そりゃ神だからそのくらいできるかもとは思うが、ううん? 割と不敬なこと考えてるけどこれまで怒られてないからまぁいっか。


 ナルコティクスオープン。とりあえず、とっとと座標を計算しよう。何が起きるか分かんないし。

 しばらくルゴスの声も聞こえなくなったので、集中して計算に入る。視界には明らかにそわそわしているリリーが映っているが、そのままにしておこう。


 それから3分程度経ったろうか。

 雑音もなく、二人以外のものが視界に入ることもないので、時間の感覚は曖昧だ。

 ルゴスの声で、ようやく待機時間の終了を知る。


『お待たせ。話ついたよ』


「どう? こじれた?」


 威厳の欠片もないルゴスが旧神と話し合って何もないことはないよね。なんか変に自信を持ってそう思える。


『なんで話がこじれる前提よ。エスメーって旧神じゃないの。昔は知ってたかもしれないけど、正直もう覚えてないわ。アンタらに世話になったって言ってるけど、何かしたの?』


「あー、したっちゃした……かな?」


『そ。で、ルクシアの話題になったからちょっと盛り上がっちゃって3時間くらい話し込んじゃったわ。待たせてごめんね』


 ……うん?


「え? 3時間?」


『ど? 3分くらいに感じられた?』


「感じた感じたー」


『そ。あ、エスメーから伝言ね。リリーよ、驚かせてすまなかった、ってさ』


「ひゃ、ひゃい!」


 リリーは、飛び上がるほど嬉しそうなご様子。推しの神に名前呼んでもらったからとかそんな感じ? 伝言だけど。

 そうか、リリーはあの時、エスメーに話しかけられていたのか。それなら、混乱するのも当然だし、僕とイルマが感知できなかったのも仕方ない。僕らより高次の存在に対して、対人間を想定した魔法が通じなかったわけだ。


 それにしても、たった数分に感じたのは3時間か。イルマも驚いている様子だし、人知を超えた力というのを目の当たりにする。

 現代の魔法で再現できる気がしないけど、神専用のスキルとかではないんだろうなぁ……。


『で、三人への伝言。これから宜しく頼む、ってさ』


「……これから?」


『そ。アタシは聞いてるけどアタシから言うと面白くないから、楽しみにね。じゃ、また今度ねー、用があったら連絡するわ』


「ひゃいぃ!」


 僕はぱたぱたと手を振り、イルマはぺこりとお辞儀をし、リリーは裏返った声で返事をする。


 そうして僕らは元居た世界に戻される。

 座標計算はしたけどちょっと不安だったから、転移魔法使わずに済んで良かったよ……。

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