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「皆さんもご存知かと思いますが、来月にはクラス対抗戦があります」


 その日のホームルーム後、ボネ先生は皆に帰らないよう伝えた後、話し出す。

 クラス対抗戦。それは学校内で行われる大規模行事の一つだ。僕らも入学前にシスターから教えられていたので、存在は知っている。


「クラスの中から筆記部門3人、実技部門6人の計9名を代表選出するんですが……一応聞いておきますが、立候補者は居ますか?」


 静まり返る教室。皆、何も知らないから挙手をしないわけではない。

 知っているから、挙手しないのだ。


「……やはり、居ないですよね。では、私から選出します。筆記部門はカルヴィさん、フローレンツさん、ノネットさんの3名にお願いします」


 ボネ先生が3名の名前を挙げると、控えめな声量で、「はい」と3名分の声が聞こえる。代表として選出されたにも関わらず、誰も嬉しそうではないし、誰も異論を唱えることはない。


「実技部門はソロ、デュオ、トリオで別れるんですが……。まずトリオは、エミリオさん、リリーさん、イルマさんの3名にお願いできますか?」


 ううん、やっぱり呼ばれたよ僕。嫌なんだよなぁ……。いや慣れた3人で行うのに不満があるわけではないんだけど。

 出たら目立てるのは間違いないが、


「デュオはベネディクトゥスさんとジルカさん、ソロはダヴィアさん、お願いできますか?」


 ボネ先生が選んだのは、確かにクラス内で実力者を順に並べたらこうなる、といったメンバーだ。

 僕たち三人、ジルカとベネディクトゥスは組み合わせとしての相性が悪くないし、王侯貴族の長女であるダヴィアの実力も折り紙つき。

 故に、これ以上ないほど完璧な選出だ。それは、クラスの誰もが最初に思いつくくらいには。


「1つ、良いですか」


 静寂の教室で最初に手を上げたのは、僕の隣に座っていたイルマだ。


「はい、イルマさん。何でしょう」


「この組み合わせだとBクラスはともかく、Aクラスには絶対勝てないですよね」


 そう、これが問題点。対抗戦の話はボネ先生が今日初めて話題に出す以前からクラス内でも上がっており、クラスメイトと何度か話し合っていたのだ。

 結論として、この面子ではAクラスにほぼ勝てないということが分かった。だから空気が重かったのだ。


「……いえ、絶対というほどでは」


「勝てないですよ。いえ、トリオは勝てます。けど、ソロとデュオは絶対負けます」


 イルマがそう言い切った。プライドの高いベネディクトゥスも、ベネディクトゥスほどではないがマスカール貴族としてのプライドがあるダヴィアすら、それに対して反論をしない。

 相手が悪い。この場合はそう言うしかないのだ。


「大方Aクラスのソロはフェリクスさん、デュオはリューブラントさん達ですよね。……言っちゃ悪いですが、勝てないですよ」


「……えぇっと」


 ボネ先生は、イルマの宣言に否定をしない。

 そう、彼もクラス担任なら、分かっていたのだ。そしてこの男は、「でも頑張れば勝てるかも」みたいな根性論を言うことはない。

 完全な学者肌、勝てるものには勝てると、負けるものには負けると言ってしまうような教師だ。


「ウチのエミリオを三戦全部出せば勝てるかもですけど、ルール上無理なんですよね」


「え、ちょっとウチのって何?」


「そうですね、同じ生徒は他の種目に出ることはできませんので……」


「ねぇちょっと」


「じゃあ、この組み合わせだとトリオだけは勝てても、他は勝てませんよね」


「……そうですね」


「あれ? 僕の声聞こえてる?」


 おっかしいなー、なんかガン無視されてない? なんかクラスメイト数人が僕から顔背けてプルプル震えてるけど気のせい? 僕の声皆に聞こえてるよね?

 ていうかウチのって何? そんな呼ばれ方してたっけ僕? いやイルマは他の教師が居る時は僕のことをエミリオと呼ぶことが確かにあったが、ウチのエミリオなんて呼ばれ方は初めてだった。どういうことなの? もしかして僕が居ないとこだとそんな風に呼ばれてるの?


「どうせ勝てないなら、勝てる可能性のある構成にするべきですよね」


「……一理あります」


「じゃ、ソロをウチのエミリオで」


「ねぇウチのって何?」


「デュオを私とリリーの二人にして」


「ねぇ!」


「トリオでベネディクトゥスさんとジルカさん、ダヴィアさんの3人にするのが良いかと思うんですが」


「ねぇ……」


 なんか僕の意見何も通らない気がするよぉ! ていうかソロは嫌だよマジで!!

 全力で拒否をしたいところなのに、何故か僕の声が聞こえない世界のようだ。悔しい。


「……確かにその構成なら、三勝できる可能性はありますね。ただ、全敗の可能性の方が高いと思いますが」


「一勝二敗が確定してる組み合わせと、もしかしたら三勝できるかもしれない組み合わせ、どっちが良いと思うんですか?」


「…………どちらとも言えませんね」


「じゃ、多数決で。私の意見に反対する人、手挙げてください」


 イルマはクラスメイトに向けてそう言った。

 このままだとAクラスには負ける、そう僕らは結論付けていた。クラスメイトとの話し合いではそれ以上話が弾むことはなく、今回のイルマの提案は、僕が、皆が聞いていなかったものだ。


 確かに、悪い判断ではない。どうせ普通にやって勝てないなら、もしかしたら勝てる方向に向けるのが当たり前であるから。

 しかし問題として、全敗した場合、Cクラスの立場は相当悪くなってしまう。

 ただでさえAクラスという強敵が居る状態で、確実な一勝を狙わずに全敗したと知られれば、僕のスポンサー計画も台無しだ。実力不足に判断ミス。どう解釈されてもおかしくはない。

 負けたけど将来性があるので、と見てもらえる可能性は低い。むしろ、Aクラス生徒のかませ犬になるのがオチだ。


「ダヴィアさん、不満でも?」


「不満も何も……この(わたくし)に、アレと組めとおっしゃるんですか?」


 挙手をし立ち上がったダヴィアは、イルマの案に賛同していなかった。

 むしろ周囲を見渡した感じ、反対したのは僕、ダヴィア、ベネディクトゥスの3人だけだ。


「だって他に居ないじゃないですか」


「えぇ、えぇ、実力順で並べるなら、そうでしょう。不本意ながら(わたくし)の実力ではエミリオさんに劣りますので、ソロの座を譲るのはやぶさかではありませんわ。ですが……」


「お二人、仲悪いですもんねー」


 そう、ダヴィアとベネディクトゥスは致命的なまでに相性が悪い。

それはベネディクトゥスが初日にやらかしたのがいけないとも言えるし、そもそもの性質が合っていないというのもある。

 僕のように、話しているうちにベネディクトゥスの態度に慣れてきた生徒も多いが、ダヴィアは違ったのだ。

マスカール王国の貴族として2000年以上代を重ねた、この国の貴族の中の貴族。王族の血が混ざることも多々ある王侯貴族の長女、ダヴィア・アングラード。

 血統と忠義を何より重要視するマスカール貴族と、実力と結果を何よりも重要視する帝国貴族。それらの相性が悪いのは、必然なのだ。


「我からも、願い下げだな」


 渋々という声だが、ベネディクトゥスも同意する。一方的に嫌っているわけではなく、相互の相性が悪い結果がこれだ。普段はクラスメイトがそれを察して二人をあまり関わらせないようにしていたが、こういう場ではどうしても本人の関係性が表に出てしまう。


「わたくしも、こんな野蛮人と組まされるくらいなら、参加を辞退させて頂きますわ」


「えー、そこをなんとかなりません?」


「ならん!」「なりませんわ!」


「だって、仮に私とリリーの方にダヴィアさんを入れてトリオにするじゃないですか。そうしたら、ベネディクトゥスさんとジルカさんでリューブラントの二人と戦うことになるんですよ? 勝てるんですか?」


「…………」


「あ、無理無理、相性悪いってアレ」


 無言で返すベネディクトゥスと、ハッキリそう言うジルカ。

 そう、結局それなのだ。トリオで勝ったところでデュオを負けるでは、一勝一敗にしかならない。もう一勝を出せるのは、ソロしかないのだ。


「ですよね。だとウチのエミリオがフェリクスさんに勝てないと二勝になりませんけど……まぁ五分ですかね」


「個人的には勝率二割かなって思ってるんだけど……」


 もう、ウチのってところを否定するのは諦めたよ。


 Aクラスのフェリクス。それは、この学校で最も頂点に近いと言われている男だ。

 本名はフェリクス・マスカール。そう、彼は王族であり、現王リュフィレの実の弟である。

 リュフィレほどではないが才能は他の優等生と比べても抜きん出ており、更にそれを限界値まで引き上げるよう、生まれてからここまで完璧な英才教育をされてきた男。

 噂では、魔法適正の平均はSSらしい。毒属性を除く全ての適正がSSSとなっているリュフィレほどではないが、どう考えてもこの国に二人と居ない天才。それが完璧な教育を受けているとなると、そこに生まれるのは化け物で。

 それは知識と研鑽しかない僕では、到底追いつけない存在なのだ。

 それに勝てるのは、シスターのように生きる時間が違う者だけ。同じ時間を生きる僕では、まともに戦って勝てる相手ではない。それを五分と言ってくれるのは嬉しいが、僕はそうとは思えない。

 状況次第なら二割は勝てる、それも多めに見積もって、だ。


「ダヴィアさん」


 生徒の話し合いでは硬直状態になってしまうことをようやく察したのか、クラス担任のボネ先生がようやく口を開き、彼女の名前を呼ぶ。


「何でしょう?」


「あなたにトリオの構成を任せるとしたら、誰を選びますか? ……エミリオさんを除いて」


「わたくしと、…………そうですね、ノネットさんとロズリーヌではどうでしょう」


「分かりました。その三人で、リューブラントさんに勝てますか?」


「……はい? リューブラントさんは……」


「えぇ、大方デュオで出るでしょう。ですが、リューブラントさん達は賢いです。相手に警戒されるのを分かっていて、大人しくデュオに出ると思いますか? 一人混ぜてトリオに出て、そこで確実な一勝を取りに来る可能性がないと言い切れますか?」


 珍しくボネ先生は強気な口調で言う。そう、彼は面倒な性格をしているが、この学校で教師をしている人間だ。ただの学者などではない、教師として有能だから、クラス担任という立場を任されているのだ。

 リューブラントの兄妹(きょうだい)、それはこの学校において、フェリクスの次に有名な二人。

兄のオスヴァルド・リューブラント、妹のアンネリカ・リューブラントの二人は、二人居ればフェリクスにも勝てると言われている実力者の兄妹(きょうだい)なのだ。マスカール王国と同盟を結んでいる小国の王族だ。小国が1000年を越える歴史を持つのは、ひとえに圧倒的なまでの実力を王族が有しているからだと言う。


 ボネ先生の言うことは、あながち的外れではない。リューブラントの兄妹を避けたクラスがデュオを捨てた構成をして来るならば、Aクラスはリューブラントの兄妹(きょうだい)程ではないにせよ、多少強い二人をデュオに置くだけで勝つことができてしまう。

 ソロはフェリクス以外ありえないが、フェリクスとリューブラント兄妹以外で圧倒的な実力を誇る生徒は居ないAクラスが、どういう布陣を敷いてくるかは想像できない。強すぎるカードを複数持つからこそ、彼らには後出しの権利が与えられているのだ。


 先生のその問いに、ダヴィアは無言で返す。筆記試験で満点合格し、定期テストでも常に満点を取り続けている秀才ノネットと、ダヴィアの昔なじみであるロズリーヌ。二人の実力が足りないわけではない。それでも、リューブラントの兄妹に勝つには力不足だ。


「ダヴィアさんとベネディクトゥスさんが居れば、リューブラントさんにも勝てる可能性はあると思います」


 ボネ先生は、イルマの意見に賛同してくれるようだ。

 イルマとリリーなら、デュオでもリューブラント兄妹に勝てる可能性はある。僕を含めたトリオなら尚更だ。

 しかし、僕達三人を除いたメンバーでリューブラント兄妹に勝てる可能性があるのは、ダヴィアとベネディクトゥスの二人だけ。ならば、勝てる可能性が高い構成を選ぶのは、必然なのだ。


「…………分かりました」


「…………了解した」


 しぶしぶ了承する二人の声。どれだけ相性が悪くても、やってもらうしかないのだ。どちらも上に立つ者なのだから、他人に合わせるくらいできてもらわないと平民困るよ。


「えー、アタシの意見は?」


 ジルカがそう声を上げる。彼女はダヴィアやベネディクトゥス、僕ら三人のような、明らかな実力者というわけではない。それでも他人と魔法で争うという話になれば、彼女を選ばない理由はどこにもないのだ。

 それほどまでに、特異な魔法使いだから。


「すみません、ジルカさんは、どう思いますか?」


「リューブラントに当たる可能性があるなら避けたいけど、それが一番勝率高いなら。ていうか、デュオよりはトリオの方がリューブラントと戦う確率低いわけでしょ? じゃあそうするわよ」


「……では、決まりで。ソロはエミリオさん」


「え、誰か僕に意見求めてよ」


「デュオにリリーさんとイルマさん」


「は、はい」「はーい」


 少しだけ緊張しているリリーと、いつもと変わらないイルマの返事。


「最後、トリオはベネディクトゥスさん、ジルカさん、ダヴィアさんの3名にお願いします。他に異論がある方は、いらっしゃいますか?」


 周囲から「意義なーし」との声が複数飛び、対抗戦のメンバーは確定した。

 誰も僕に意見を求めてくれないんだけど、これはアレだよね、嫌がるのが分かってるからだね。フェリクスと戦うとか、公開処刑も良いとこだよ。

 ねぇ僕はたぶん負けるけど、皆は勝ってくれるよね? ね??

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