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僕らが魔法学校に入学して、半年が経過した。
学生としての生活は、ただの通過点に過ぎない。入学まではそう思っていたが、悪くない学生生活だ。
前世では学校に通って楽しいと思うことなどなかったので、毎日の授業が楽しめたというのは意外だった。やはり、興味があることは覚えたくなるものなのだ。
最初の1ヶ月くらいは寮から学校に通っていたが、やはり使い慣れた狭い部屋が良いとのことで、いつしか寮を荷物置き場にして屋敷から通うようになった。しかし成長期を迎えて全員の体が大きくなってきた現状、シングルベッドで三人が寝るのは相当難しい。完全に密着しているレベルだ。
そうなるともう、全員の色んなところが触れてしまう。今はもうくっついてないとどころか、ある程度重ならないと横になれないほどだ。
屋敷の自室には新しいベッドを入れる隙間もないので、シングルベッドで限界まで密着して寝ているが、それでも疲れは取れるので今すぐどうこうというわけではない。というか、大きいベッドなら寮にもあるし、寮の部屋にはベッドが3つもあるのだ。使わないのは損としか思えない。
狭いとは思うが、嫌とは思わない。僕を挟んで寝ている二人が、好きな子だからか。
日中屋敷に居ることがほとんどなくなったが、僕が居なくても問題なく運営できているようだ。元々資金面と活動の方向性を決める以外で関わっている部分はほとんどなかったので、僕が居なくても回るのは道理ではある。少しだけ寂しい気はするが。
そうなるともう、子供達が僕の手から離れていくのも時間の問題だ。
つい先日、屋敷の周囲の土地を買って新しい家を建てた。勿論僕は1円も出資せず、子供達が自分で稼いだお金で、自分達で決めて買ったのだ。事後報告ではなく前々から土地を買って家を増やすという計画を相談されてはいたが、僕はそれを止めなかった。
新しい家を作ったのは、生活スペースの問題だ。子供達も大人になり、4人1部屋で生活するのが難しくなってきたからだそうだ。
僕はそれを想定していなかったわけではなく、子供達が育てば自分達の意思で屋敷を出て生活していくと思っていたが、どうやら現状、子供達は屋敷から離れるつもりはないらしい。
というか、もう子供達と言って良いかも分からない。最年長は20歳を越えているのだ。
もうそのくらいまで育てば結婚して家庭を持つ子も出てくると思っていたが、今のところそういう話はないらしい。共同生活が続いたことにより、子供達は皆を家族と認識してしまったからだと思う。だから外で異性を見つければ、とも思うのだが、それも難しいとか。
以前話をしてくれたジェンナ曰く、ここで生活した男子に釣り合う同年代の女はそこまで多くないらしい。それは、10代前半から会社を立ち上げ大人顔負けの金を稼ぎほとんどを貯金に当て、魔法の扱いもかなり上手い、しかもそれなりの高等教育を受けている集団ともなると、それまで孤児だった過去を帳消しにするほどの良物件となるんだとか。
僕としてはもうちょっと浮ついた話を聞きたかったのだが、学校の休暇に話をしに来ても、今月はこんなに稼ぎましたとか、新しい家の間取りはどうしましょうとか、そういう話ばかりを聞いている。
自立してどうこうという話をする子は全くおらず、それを言われたら寂しくなるのに、全く切り出されないのも少し寂しいと思ってしまう難しいお年頃。
一番関係が進んでいるのは、子供達ではなく、意外なことにヨラヒムとアルの二人だそうだ。
二人は屋敷の創業メンバーであり、年齢は多少離れているが二人とも未婚。
子供達の教育方針などを話し合っているうちに、仲が進んだのだと推測される。今では休暇の日を合わせて二人で出掛けることも多いらしく、子供達から見てもすぐ分かるくらい露骨に仲が進展しているらしい。
元文学少女と強面のオジサンという中々奇妙な組み合わせではあるが、美女と野獣のようなものはこの世界にもある感覚なのだろうか。
子供達のリーダー格であるニッカとラウは、来年にでも新しく孤児院を作るつもりでいるらしい。自分達のような境遇の孤児がこれ以上増えないようにしたいんだとか。
僕はそれを止めるつもりもないし、別に屋敷を使ってもらっても構わないとは伝えたが、1つだけ注意してある。
それは、新しく受け入れる孤児達が、自分達と同じように家族になれるとは限らない、というところだ。
屋敷で生活する子供達は、もう孤児ではない。自分達で生活している、立派な街の住人なのだ。皆を同時に受け入れた結果ここまで家族感覚で生活できたのであって、後から彼らに関わる孤児にとって、ここに住むのは家族でもなければ、仲間でもない。それだけは忘れないようにと伝えたのだ。
彼らの選択が悪でなければ、僕は子供達の自由意志に任せるつもりではある。だから家を建てるのも孤児院を作るのも反対をしなかった。
人は選択することができる生き物だからだ。
子供達をここに連れてきただけの僕が、選択する自由を奪ってはならない。
元々屋敷に子供達を集めたのは、プレイヤーに負けない兵隊を作ることを考えたから。しかしそれは、僕の個人的な欲望でしかなかったと知ったのだ。
実際、屋敷で育った子供達は、魔法使いとして大人顔負けの実力にはなっている。当初の計画と変わってきたにせよ、子供達は自分の命を自分で守れるようには強くなっている。だから、それ以上は本人が思うようにやればいい。僕はそう思い、彼らの前にレールを引くことはやめた。
僕が自分で決めて自分で動くのは、自らに関わることだけ。
リリーとイルマの二人を選んだのも、自らに関わることだから。
二人のことは巻き込むと、僕が選んだのだ。そして、二人も僕に巻き込まれることを選んだ。これは、三人のそれぞれの自由意志だ。
まだ、キス以上の関係に進んではいない。二人には明らかに求められているが、僕の心が追いつかないから、それ以上には至っていない。
その代わり、キスだけは拒まないことを二人が知ってしまったから、キスの回数だけはとんでもなく増えてしまった。流石に人目があるところではしないが、なくなった瞬間押し倒されるとかはザラにある。
もうイルマとか、僕の自動展開障壁がどのくらいの力で反応してどのくらいまでなら反応しないかを完全に理解した上で計算して押し倒してくるもんだから、抵抗のしようがない。
イルマは体属性適正も高く、体を動かすのを苦と思わないようで、肉体強度が僕と比べて段違いに高いのだ。前世顔負けの貧弱体系な僕は全力で拒んでも押し倒され、羽交い絞めにされてしまう。
リリーはイルマと違って強引に迫ってくることもないが、イルマ以外の目がないところでは突然「ん」と言ってこちらを向いて目を瞑り、キスをせがむような子に育ってしまった。ううん、育て方間違えたかな?
イルマの身体はどんどん女らし肉感的に育っていくが、リリーの成長はそこまでではない。種族的な特徴なのかとも思ったが、リリーの両親は普通のヒト種と同じような体型だったらしいので、僕のように発育がちょっと遅れているだけと思われる。
15歳になった僕の身長は平均よりも低く、153cm程度しかない。それでも小柄なリリーよりは大きいのだが、165cmを越えたイルマとは目線が違うし体格も違うので、良いように扱われてしまうのだ。
イルマに押し倒され必死の抵抗も無意味になるたび体を鍛えないととは思うのだが、体を動かすのは得意じゃないし、あまり好きでもない。
最近は体を鍛えず、尚且つ体属性魔法無しで身体強化をする術を模索するくらいには諦めかけているものだ。
元々はスキルレベルの底上げに使うパワーレベリングのつもりで始めた特訓も、スキルレベルが相当上がってきたことや、攻撃、防御に関する魔法が揃ってきたこともあり、実戦形式の戦闘訓練の様相を呈してきた。
それまでは屋敷で行っていた特訓だが、ベネディクトゥス等クラスメイトから参加希望者が出てきたことや見学者が増えてきた現状では、学校の中庭でやることも増えてきた。中庭は相当広いし時間帯によっては使用者が全く居ないこともあるので、使い勝手は悪くないのだ。
学校的にも生徒が自主的に魔法の訓練をするのは悪いことではないと認識しているようで、注意されることといえば「建物や花壇、学校設備に危害を加えないように」と言われる程度で、止められることもない。
一部学校行事に関わる生徒達は入学から半年も経つと忙しくなってきているようだが、僕らには生憎そういう声が掛かることもないので、いつも通りに日々を過ごしている。
授業も退屈なんてことはなく、国内最高峰の教育を受けられている実感が持てるほどに高度で、入学時満点合格だった僕ですら着いて行くのでやっとの科目もあるほどだ。
あぁ、悪くない。
この生活は、悪くないものだ。
ここに至るまで紆余曲折あったが、僕は今、二度目の人生を謳歌している。
そうして、これからも。
人生を楽しもう。プレイヤーがこの世界に来るとか来ないとか関係なく、僕はこの世界で、二度目の生を楽しもうと、ようやく思えるようになったのだ。
ここに辿り着くまでに、僕は15年もかけてしまった。
しかし、僕にはこれから先がある。もっともっと長い時間を、生きられる。
それは、悪くない。
あぁ、楽しみだ。




