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「え、せんせ、ホントに王様に呼ばれてたんです?」


 来賓室から出た僕は、教室に行かず廊下で待っていてくれた二人に合流すると、開口一番そう聞かれた。


「ほんとびっくりだよ。まぁ雑談しただけだったけど」


「……王様と話すこと、なくないです? 知り合いってわけでもないんですよね? せんせのことだから昔からの友達とか言われてもちょっとしか驚かない自信はありますけど」


「ないない。もっと驚け」


「やー、もう感覚が麻痺してるって言うか、私からしたらせんせがカプレさんの知り合いってことのが驚けるくらいなので……」


 若干引きながらそう言うイルマ。

 ほんとイルマ、シスターへの感情が複雑すぎるんだよね、イルマの師匠がシスターの孫弟子だったようなので、イルマからしたら3代前の師匠で、自分の師匠でもある。

 いくら超長命種とはいえ、そこまで古い人の存在は大きくなってしまうのだろうか。僕からしたら長生きだなぁくらいにしか思えないのだが。


「判定緩すぎるだろそれ、シスターには3歳で会ってんぞ」


 今のシスターに会うのは5歳の時だが、老婆モードになら3歳から会ってるのだ。

 あの頃は優しそうなお婆ちゃんだと思ってたシスターが、今となっては鬼の類にしか見えないのだが。


「3歳のせんせ、さぞ可愛かったんでしょうね~」


「話し方も今のままだし、孤児院では気味悪がられてた気しかしないけどね……」


 うぅ、自分でこれ言って当時のことちょっとだけ思い出して辛くなったよ。

 距離感測るのが上手いはずの子供達も、僕とどう接すればいいのか分からなかったようで。普段から本しか読んでなかったし、皆と遊ぶことなんてほとんどしていなかったから、避けられていたというか、避けていたというか。まぁあまり馴染んでいたとは言いがたいかもしれない。


「うわ、それはちょっと気持ち悪い。なんか……もうちょっと……子供っぽく……いや、私もそんなもんだった気がするんで、人の事言えないですね。2歳くらいから迷宮入ってましたし」


「……怖っ! どんなスパルタ教育だよ」


 えっ怖い。流石の僕でも2歳児を連れて迷宮に入るとか正気とは思えないよ。。

 僕自身が迷宮に入れるくらいまで育ったの、6歳くらいの時かな? それでも足手まといにしかならないと思うしリシャール周辺には迷宮なかったから入ることはなかったけど。


「せんせよりはマシじゃないですか……? けどまぁ、私もリリーもせんせも、まともにここまで育ってないから……」


「けど、私は私だし、イルマちゃんはイルマちゃん、エミリオ君は、エミリオ君だよ?」


「「知ってるよ!」」


「ご、ごめん……」


 謝りながら小さくなるリリーを抱き締め撫でる。うん、やっぱりリリーがないとね。食欲性欲睡眠欲リリー欲は僕の四大欲求だよ。


「あのお二人さん、もう教室着いてるんですけど」


 イルマにそれを言われて思い出した。リリーから離れ、教室を見る。

 日本の学校のように廊下側に窓はなく、離れたところに出入り口用の扉が2枚あるだけだ。

 ……ちょっと2枚の扉が離れすぎてる気がするが、同じ部屋の扉ではないのか? けど表札が付いているのはここだけなんだよね。先の方に1-Bの表札が見えるので、並びからしても間に他の教室があるとも思えない。


「ちょっと遅れちゃたけど、大丈夫かなぁ」


「何時に次のとは言われてなかったから、問題ないとは思いますけど、まぁ普通は直接来ますもんね」


「まさか寄り道する生徒が居るとは思われてない感じかなぁ……ま、なるようになるでしょ」


 満点合格しているのだ。ちょっとくらい多めに見てもらうことくらいできるはず。

 僕はそんなことを考えながら教室の扉に手を掛け、そして――


「あ、せんせ、ちょっとマズ――――」


 イルマの声はそこで途切れ、僕の視界も暗転する。







 転移魔法と似た感覚。

 しかし、転移魔法による移動は一瞬だ。時を感じる暇すらなく、目的地に到着する。

 これはどうだろう。視界が暗くなり、目的地にも到着していないのに、僕には明確な意識がある。

 視界にあるのは暗闇、そして、先に見える一筋の光。

 僕の身体が勝手に光に近づきそして触れると、暗闇は晴れる。そこにあったのは玉座だった。


 僕は理解する。教室ではない場所に飛ばされた事実を。

 床には真っ赤な絨毯。外から見た教室とは比べ物にならないほど、広い部屋。

 壁一面には、魔道具であろう物や武具や鎧が並ぶ、悪趣味な大広間。これは教室では断じてない。どこか別の場所にある空間だ。


 しかし、一番目立つのは、その空間の中心だ。

 玉座を思わせる背の高い椅子に、1人の少年が座っている。その隣には手を背に回して立つ3人の少年。


 椅子に座るのは、血ほどに赤黒い髪の毛を、天に向けて立てた少年。

 この空間へ、少年達4人の中の誰かに飛ばされた。自身を移動させる転移魔法とは全く違う、これは――


「空間歪曲、かな?」


 先程までと同じ立ち位置、僕の少しだけ後ろに立つリリーは目が見えない分、転移に対して状況を理解するのが僕らより少しだけ遅れる。

 僕は真っ先にリリーの手を取り引き寄せて、その予想を口にした。


「あー、やっぱり扉に触れるのが始動の合図だったみたいですね。一瞬だけ循環式が見えたけど何か分かんなくて、せんせ止めるの間に合わなかったです、すみません」


 イルマはそう言いながら、僕の握っていない方のリリーの手を握る。


「え、あれ? エミリオ君、イルマちゃん、ここは?」


 リリーは周囲を見渡すことなく、僕とイルマを交互に見る。

 冷静になれば、リリーにも周囲が見れるのだ。ただ目が見えない分、こういう突発事象には強くない。


「たぶん、空間歪曲の魔法。転移魔法と似てるけど、ちょっと違うかな」


「うーん、大雑把に説明すると、術者がその場に居なくてもできる転移魔法……的な? せんせもできないですよね」


 イルマが補足してくれたが、その言葉はグサリと突き刺さる。


「出来ないなぁ、門系統には空間歪曲無いし……」


 たぶん覚えようと思えば覚えられるのだが、最近は勉強漬けだったし、以前からもあえて使おうとはしなかった。一人から三人までなら別に門系統の転移魔法だけで十分事足りるからだ。


「私もそうですねー。移動なんかに魔力のリソース使ってらんないっていうか」


「あ、分かるわー。最悪足使えば良いからね」


「そうなんですよねぇ…………で、あの人たちは?」


「……さあ? 誰だろ」


「暑そう、だよね……」


 僕とイルマは普段のノリで話していたが、この場で待っていた4人は相当苛立っているようだった。

 それもそうか。明らかに4人のうち誰かの仕業なのに僕らが彼らに対し何も言わないのは、プライドが傷付くか。

 し、知らねぇー。けど実際この場所が分からないと転移で戻ることもできないし、一応話しておかないといけないか。

 リリーとイルマを後ろに下げ、僕が盾になれるよう位置取り、ようやく彼らに声を掛ける。


「僕はエミリオ・ブランジェ。相手ならしてあげるから、とっとと温度下げなよ。隣の部下達、死にかけてるよ」


 一番偉いのは、玉座に座る赤い彼。

 この部屋は明らかに熱い。それは彼の座っているあたりから、猛烈な熱気が放たれているからだ。

 それを直近で食らう3人の少年はたまったものではないだろう。相当我慢しているようだが、どう見ても限界だ。滝のような汗を流し続け、足は小刻みに震えている。熱中症寸前か。このまま放置しておくと、最悪の自体が考えられる。入学初日から人死になんて見たくないんだ。


「その度胸に免じて無礼を許そう。我が名はベネディクトゥス・ベルザリオ、貴様の上に立つ者の名だ」


 玉座の彼は、口を開く。

 知らない名だ。しかし、その言葉には圧がある。この距離でこの声量ならはっきり聞こえるはずもないのに、耳元で言われたかのように錯覚する。

 この広い空間全体を包み込むほどの、サウナのように高くなった温度、そして生み出される熱気に熱風は、全て彼、ベネディクトゥス・ベルザリオが生み出したものだ。

 この熱は攻撃ではないので、僕が常時展開している障壁では防げない。ただ純粋に、尋常じゃないほど暑くなっているだけなのだ。無論障壁のプログラムを変えれば良いのだが、今はその時ではない。


「……え、誰?」


 まぁ名乗られても知らないものは知らない。

 リリーとイルマの方を見ても、二人とも首を横に振る。そりゃ知らないよね。どう見ても貴族さんだけど、僕に貴族の知り合いなんてほとんど居ない。

 王族の知り合いの方が多いくらいだ。ほら、今の王様とそのお兄さんには会ってるし。


「「「「………………」」」」


 あ、なんか四人共呆れて黙っちゃった。もしかして有名人だった? 残念ながら僕らは平民なので、貴族と面識はないのです。


「えーと、何したくて僕らをここに? 用ないなら戻してもらいたいけど」


 一応言ってみたが、流石に用件も無しに空間歪曲魔法なんて大それた魔法を使うことはないだろう。何かしらの理由があるのだ。教室ではできないような、理由が。


「あ、主は! 決闘をご所望ですっ!!」


 横で控えていた熱中症寸前少年Aが、大きな声でそう言った。

 ごめんね、君らの名前を聞く気は今のところない。忘れそうだし。一応僕らと同じ学生服を着ているから生徒ではあると思うのだが、同級生か先輩かも分からない。

 試験とか入学式にこんな人達居たっけ? 全く覚えてないよ。


「決闘? ルールは?」


「帝国式決闘3型、ご存じですか?」


「いいや、知らない。へぇ、帝国ねぇ。余所の貴族様だったか」


 なるほどなるほど、知らないのも当然か。

 帝国。この大陸でその名を口にするとき、表されるのは一国のみ。

 マスカール王国よりも広い国土面積を持ち、長年周辺国との戦争を続けていた大国、アストルム帝国。

数千年前からあるマスカール王国と比べると新しい国ではあるが、歴史のほとんどが血塗られている大国だ。

 王の血族など何度も途絶え、内戦のたびに頭は代わり、そして再び内戦が起きる。それと並行して他国と戦争をして侵略しているような、戦争中毒者の国。それこそが、大陸において唯一帝国と呼ばれる国。


「あれ、帝国ってちょっと前戦争に負けてませんでしたっけ?」


 すーぐイルマはそうやって人を煽るようなことを言うー!

 なんか明らかに部屋の温度上がってない? これ絶対怒ってるでしょ!?


「アルビオン共和国に負けた帝国の貴族様が、こんなところで平民相手に決闘ですか」


 このままだと怒りの矛先がイルマに向かっちゃうので、僕も一緒になって煽ることにする。

 あ、イカンわコレ。もしかして地雷だった? 部屋の温度上がりすぎ上がりすぎ! もうサウナなんてレベルじゃないよコレ!


「……良い度胸だ。ジルド、説明してやれ」


 彼がそれを言うのと、僕が障壁のプログラムを変更して後ろの二人に熱気が行かないようにしたのは、ほとんど同時だった。

 ある程度の魔法使いなら僕が障壁を使ったことくらい分かるはずだが、別にその行為自体を咎めるつもりはないらしい。


「は、はい! ルールを説明します!」


 玉座の隣に座っていた少年Bが、大きな声で説明を始める。別に近づいて来れば良いのに、離れたところから叫ばないでもとか思ってしまうが、流石にそれを口には出さない。


「まずはお互いの胸に一つ、特殊な石のついたバッジを取り付けます。石は一定以上の攻撃性魔法に当たると発光し、敗北を知らせます。先に相手のバッジを発光させた方の勝利となります! 質問はありますか?」


「んー……一定って、どのくらい?」


 ルール自体は理解した。ただ気になるのは、どこまでが攻撃性の魔法にカウントされ、どのくらいの出力が一定かというラインだ。

 極端なことを言えば、魔力を込めて素手で殴っても光るのか、ということを知りたい。


「……申し訳ないですが、そこまでは分かりません」


「おっけ、じゃ1個貸して。試してみるから」


「え? ええっと……宜しいですか?」


 ジルドと呼ばれた少年Bは隣に立つ主に問いかける。彼が「構わん」と一言だけ言うと、少年Bはこちらに向けてバッジを放り投げてきた。あ、それも直接渡しには来ないのね。


「リリー、C40」


 僕は、飛んでくるバッジを見ながらそう呟いた。直径5cmもないくらいの、丸型のバッジだ。


「うん」


 リリーはすぐに意図を理解し、得意の魔法を使う。

 彼女にしか使えない、彼女だけの攻撃魔法。


 弧を描いて飛ぶバッジは。僕と少年達の丁度真ん中あたりに差し掛かったところで、粉々になって砕け散った。


「え、今の光ったの? 光ってないの?」


 わっかんね。

 リリーが使ったのは、レビテーションスキルと風魔法のハイブリッド。砂ほどに小さな粒を風魔法で覆い、それを射出するだけのシンプルなものだ。

 射出速度の目安としてAからF、風魔法に掛ける魔力割合を数字で示し、使いやすくしてある。Cの40だと、大体中くらいの速度で、中くらいの威力、と言ったところか。

 ただまぁ飛んできたバッジは光る前に砕け散ってしまったので、オーバーキルだったわけだが。思ったより脆かったんだよアレ。


「「「……」」」


「いや、どっちか教えてよ」


「「「…………」」」


 少年達3人の沈黙が痛い。

 この距離では表情を読み解くのは難しい。あまりの気温の高さに視界が歪んで見えるほどだ。


「あ、主、この場合は……」


 少年Bが、小さな声で主に助けを求める。

 まぁ、それもそうか。正直彼らの行おうとしている決闘だと、僕らにとって戦いにもならないのだ。仮に主であろう赤髪の彼が余程の実力者だったとしても、このルールでリリーに勝てる者など想像できない。


「1型に切り替えるか」


 彼らの主の判断は、それだった。

 少年達3人が慌てるが、主はそれを手で制す。


「で、それのルールは?」


 僕としては何でも良いのだが、こんなところで時間を潰している暇はないのだ。僕らはただでさえ遅刻しているのだから、早めに教室に戻っておきたい。


「簡単だ。どちらかが負けを認めるまで――」


「あー、そういうのね、オッケーオッケー。じゃ、とっとと始めない? 茶番に付き合うの面倒だし」


「……茶番だと?」


「茶番だよ。こっちは別に、御山の大将になりに来たわけじゃない」


 彼は少年達を部下のように扱い、そしてここでもその勢力を広げようとしている。まったく、貴族様の考えそうなことだ。

 僕らは勢力争いをしにきたわけでも、今後のための政治活動をしに来たわけでもない。


「何を言っている。誰が一番優秀か、貴様もそれを調べに来たのだろう?」


「ハァ? ――んなもん、僕が一番優秀に決まってるでしょ」


 自信を失わないこと。それは、魔法使いにとって最も必要とされること。

 だから僕は、ハッキリとそう言った。

 ここは、踏み出した一歩目に過ぎない。目的地などではないのだ。

 僕はここに居る全員を踏み台に、先に進む。自らの目的の為に。


「さぁ、始めよう」


 たまには二人にも、カッコいい姿を見せてあげないとね。

 想像してたより弱かったなんて、思われたくはないんだよ。

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