表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/133

3

 私には、迷宮探索の経験がある。

 流石に職業探索者よりは少ないだろうが、16歳という年齢にしてはかなり多い方だとは思う。

 その全てが12歳までの記憶だが、フィールドワークとして頻繁に迷宮に入っていた師匠と共に、数え切れないほどの迷宮を攻略した。

 師匠が私を拾ったという迷宮にも入ったが、怨霊に襲われるとか両親の霊を見るとか、そんなことは全くなかった。まぁ顔も知らないから見ても誰か分からないんだけど。


 情報が全くない迷宮に入ったことも、少なからずある。

 その筋では有名だった師匠は新しく見つかった未踏の迷宮探索を頼まれることもあり、それに着いていく形で私も入ったのだ。

 情報が全くない迷宮に入る場合、周辺の地質や植物、伝承などを調べ、情報を集めるだけ集めて相応の準備を整えてから入るのが定石とされる。


 ……それなのに。

 私の好きになった彼は、試験の減点逃れの為によく分からない教師に頼まれ、準備も無しに迷宮に入ったのだ。勿論、私とリリーも巻き添えで。

 迷宮に入るのを即決したことよりも、準備も無しにというところに私は驚いて、しばらく声が出なかった。入ってからも準備不足について彼は何も言わないので、もしかして私の感覚がおかしいのかも? と思ったが、たぶんそんなことはない、はず。

 だって普通、何日かかるかも分からない迷宮探索を、食料も無しで試そうと思うか?


 迷宮に転送されてしばらく三人で座ったまま目を慣らし、ようやく目が慣れたところで立ち上がって歩き出す。明かりを付ける魔法もあるが、どれだけ続くかも分からず咄嗟の魔法行使も求められる迷宮において、明かりはランプ等を持ってきて対応することが多い。

 私達には道具が何もないので、まず目を慣らすところから必要だったのだ。


「じゃ、僕が前行くからリリーは中、後ろはイルマでよろしく」


「うん!」


「はーい。マッピングどうします?」


 未踏破の迷宮には地図などないので、自分達で地図を作る必要がある。そうしないと迷って出られなくなってしまうからだ。

 彼はやけに慣れているようだが、迷宮探索の経験はあるのだろうか。この年で? 私が言えることじゃないけど、私は育ちが育ちだし。


「んー……ちょっと僕気になることあるから、イルマやってもらえる? やり方分かるかな」


「お師さまのとこで経験ありますよー。で、気になることって?」


「や、何かここの迷宮おかしいんだよね。異相門使って魔力の流れから階段を探そうとしてるけど、なんかルゴスに接続できないみたいで。何でだろ?」


 いや、そんなことを聞かれても、全然分からない。

 ええっと、そもそもルゴスって誰だっけ? よく名前出るから神様ってことくらいは分かるけど、誰か覚えてないや。

 なんか神知識は中々頭に入ってこないんだよね。私の魔法には全く関係ないからなのかなぁ。


「え? ルゴス様に?」


 あ、このリリーの反応で思い出した。

 確かリリーが好きで、彼が会った事ある神様だ。でも接続できないって、どういうことだろ? 門属性の魔法は全く使えないから、さっぱり意味は分からない。


「うん。これまでこんなことなかったから、迷宮のせいかなぁ」


「人造迷宮なんで、変なプロテクト掛かってるのかもしれないですねー。一応、あの変な人の平行世界に入ってることに……なるはずですし?」


 門魔法のことは分からなくとも、迷宮知識によってなんとか搾り出してそう言った。

 いや何でいきなり驚いた顔で私の方見てるの。そのくらいは分かるって。


「あー、平行世界。そっか、そういうもんかぁ」


 何を納得してるんだろ。わかんないや。

 魔法使いにとっての“平行世界”という言葉は、言葉とは違う意味があるものだ。私にそれを認識することは適わないが、それを見ることのできる人は、「ここと全く同じだけど、人や動物だけが居ない世界」と表現することがある。

 そのあたりの知識はさっぱりなので、知っているのは人伝で聞いたその程度のものだ。


「なら、別の方法でやろっか。ちょっと、大きい音鳴らすから気をつけて」


「え? はーい」


 そう言われたので、私は一応耳を塞いでおく。

 上下階層に分かれた迷宮において、階段を見つけるのは最優先とされることだ。階層が切り替わる階段部分にはモンスターが寄り付かないことも多く、一種のセーフティエリアとして機能することもある。


 彼の手から、キーンと小さな高い音が鳴り響く。その音は段々と大きくなり、たまに小さくなり、そしてまた大きい音になり。

 私には規則性の分からない音の響き。見るとリリーは耳を抑えてもいないので、音自体はそこまで大きくないかもしれない。


「えーと、こっから7時の方向に下への階段。あれ、その裏あたりに上への階段もある気がする……リリー、分かる?」


 音を止めると、彼はそんなことを言い出した。うん? どういうこと?


「5段くらいの階段で……上は小さな部屋になってるみたい? そっちはそれで行き止まりみたいだけど……」


「んー、上にも何かあるのかな? たぶん行き先は下で良いと思うけど、地下7階か地上7階か聞いとくんだったなぁ、やっちゃった」


「え? え? お二人、何言ってるんです?」


 あれ、おかしいな。二人が何言ってるか全然分からない。

 完全に私だけ置いてけぼりだ。何か私の知らない暗号でも使われているんじゃないかというくらい、何も分からない。たぶん今の私は、相当馬鹿っぽい顔をしていることだろう。


「「反響音からここの構造を……」」


「……ハァ!??」


 え、え、何それ。二人は顔見合わせて声揃えて何言ってるの?

 反響音? 確かにさっきの高い音を閉じた迷宮で鳴らせば音が反射くらいするだろうが、それで道が分かる道理が分からない。


「いやいやいや、百歩譲ってリリーは分かるかもしれないけど、せんせはどうして!?」


「え? 僕? 反響までにかかる速度が一番遅いとこが階段だって思ったくらいだけど……」


「分かんないでしょそんなの!? なんの魔法ですかソレ!?」


「障壁魔法ですけど!」


 そう言って彼が見せてくれたのは、手のひらサイズまで縮小された、可視状態の障壁だ。さっきまで見えていなかったから、基本は術者以外には不可視の設定をされているか。


「え、えーと……音に対する障壁ですか?」


 『術式解析』スキルを使用し、彼の障壁を視る。

 3年も一緒に住んでいれば彼の癖から大体の構築の仕方は分かるようになってきたので、今発動している魔法がどういう類のものかくらいは多少は分かるのだ。


「そうそう。基本障壁にも使ってる“高音に対して反応する障壁”だけど、ちょっと設定弄って反響測定に使えるようにしてあって、それが今の反響音をキャッチしただけだよ」


「だけって……今、基本障壁何枚貼ってるんですか?」


 ちなみに、普通は2か3枚だ。私はそう教わっている。

 物理障壁と魔法障壁に分けて1枚ずつ展開するのが一般的で、もう1枚追加するとしたら死角からの攻撃に対する障壁や、火属性魔法を得意とする人は、自分の使用した魔法によって生じる有毒ガスを吸い込まないように展開する障壁などがある。

 あまり枚数を増やすのは魔力の無駄な消費に繋がるし、一枚一枚に掛けられる魔力も少なくなってしまうので、悪手と言えよう。


「37枚だけど……」


「……3枚じゃなくて?」


「37だよ37」


「……そんな貼る必要、あります?」


 何言ってんだろこの人。私より魔法の扱いが上手いはずなのに、たまに本当に世間知らずなことを言う。

 魔力効率が悪いのを知らないはずはないのに、それを続けるメリットはあるのだろうか。


「迷宮用はこのセットかなぁって。普段は20枚しか使ってないよ」


「いやそれでも多すぎるんですけど!? 今も普段も私2枚ですよ!?」


「やー、だって、攻撃って食らってから対応することになるでしょ?」


「まぁ、その為の障壁ですしね」


 自動展開する障壁は、不意に放たれた攻撃性のある魔法などに対して反応して防御するよう、魔法使いが常に使い続けているものだ。

 勿論誰しもが使っているわけではなく、外敵の居ない生活をしている人や寝る時には使わない人も居る。私は屋敷に居る時はほとんど使っていないので、そういうものだ。


「その攻撃にどの障壁が反応したか分かれば、強化するのはそれだけでいいことになるでしょ?」


「……いやそんなの、障壁で受けてから考えれば良いじゃないですか」


 私変なこと言ってるかな? 魔法障壁と物理障壁で分けておけば、反応した方の障壁に魔力を注げば良いのだ。

 彼が言っているのは、それをもっと細分化したもの。

 火属性魔法に反応する障壁、水属性魔法に反応する障壁、風属性魔法に反応する障壁をあらかじめ分けておいて、反応した障壁だけに魔力を注ぐということだ。


「何を食らったか考える時間を無駄にしない為に……かな?」


「……言ってる意味は分かるけど、それを実現する意味が分からないですね!」


 うん、駄目だ話が通じないよ! もしかしてこの人結構馬鹿なのかも!?

 確かにその障壁展開方法なら理論上は攻撃を食らってからの対応速度は上がるけれど、その為に常時全ての障壁に魔力を流し続けるとか常人が考えることとは思えない。

 一歩間違えたら死ぬ威力の魔法を打ち合う特訓とか、反応するまでの効率が悪すぎる障壁とか、読めない言語で書かれた循環式とか、普通の魔法使いでは絶対考えないようなことがどれだけでも出てくる。

 やっぱり、一緒に居ると飽きないなぁ。これが好きという気持ちと知れて、本当に良かった。


「とりあえず、せんせの謎障壁は置いといて、下に降りる前に上の小部屋を確認するってことで、良いんですよね?」


「そんな感じで、良いかな?」


 どこからか飛んできた火の矢を、そちらを一瞥もせずに不可視の障壁で受け止めながら、彼が言う。


「私は、どっちでも?」


 彼が障壁で受け止めた矢が突然向きを変え、元来た方向へ向けて弾けるように飛んでいった。リリーのスキル、レビテーションの力だ。


「じゃ、そんな感じで。」


 うーん、私やることなくない?

 初見の魔法だろうが物理攻撃だろうが平気な顔で止める彼と、初見の魔法使いならほぼ確実に蜂の巣にできるリリーの組み合わせ。

 私何してればいいんだろ? マッピングはするけど、さっきの音響測位見た後だと地味だよね、地図作り……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ