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特訓は、それから3時間ほど続いた。
魔力効率を考え、イルマとリリーが5分ずつ攻撃をし、10分間の休憩を挟み、再度イルマとリリーの順で攻撃を繰り返す。
短時間で魔力を大量に消費して大量に回復させるのはそれなりに身体へ負担を掛ける行為ではあるが、それにより魔力値の上限が上がりやすく、魔力の回復速度を強化するスキルなども手に入る。後遺症が残るほどではないから、パワーレベリングとしては、充分な成果が得られただろう。
疲労困憊なのはなんとか誤魔化し、昼前には料理人の面接が始まった。
まずは一人目。35歳で未婚の男性。王都のレストランで2番手という肩書があり、実力に嘘はないかもしれない。性格も明るく子供当たりも良さそうだったが、レジーナを見る目に雄を感じたのでナシ。
自由恋愛なら構わないが、20歳も歳の離れた男に無理矢理手籠めにされるのは避けたいのだ。
僕はこの屋敷に住む子供達を監督する義務があり、そして守る責任もあるのだ。
二人目は、50代の男性。元々は自身で店をやっていたが、数年前に資金難で閉店。以後は色々なレストランの厨房で働いているらしい。
既婚で子供もおり、貫禄もあるのだが、子供と一緒に働くことになると伝えると「俺一人で作った方が早い」と言われたのでナシ。
厨房で働く子が嫌々やっているのならそれでもいいかもしれないが、皆料理が好きだから厨房に入っているのだ。その子達にとっては厨房が働く場所であり、戦場でもある。
それを奪うことはしたくないから、お断りすることにした。
三人目は、48歳の女性。レストランの厨房で働いた経験はないが、30年以上家庭で料理を作り続けており、主婦友を集めて料理教室などを開くこともあるようだ。
子供は6人もおり、自身の両親とも一緒に暮らしているので、毎日10人分の食事を作っているとか。
レジーナの反応も悪くないので、二次面接へと移行。厨房にある物で20人分の昼食作ってもらう。
「ところで、質問なんですが……」
「はい、どうぞ」
「……お二人は、手伝ってくれるのかな?」
彼女の言うお二人とは、面接を横で聞いていたレジーナとレナータの姉妹のことだ。
元から厨房で料理を作っていた子供として、最初に紹介はしていたし、面接にも同席してもらっていた。
二人は無言で僕の方をじっと見るので、うんと頷く。
「「はぁい!」」
「ありがとね、宜しく頼むよ」
うん、子供相手の対応も悪くない。自分の子供にも料理を教えていたそうだから、子供に教えるのも慣れているのだろう。
料理人としての肩書よりも、この場では主婦としての経験の方が強いのだ。
三人を厨房に送り出して1時間ほど待っていると、良い香りが漂ってくる。
勉強していた子供たちも続々と食堂に集まっていくので、僕も会議室から移動する。
食堂は、料理も出ていないのに屋敷に居る全ての人間が集まっており、料理が出て来るのを今か今かと待ちわびている。
それから20分ほど待っていると、料理が少しずつ揃ってくる。
ボリュームのある肉や魚料理だけではなく、根菜の煮物とサラダ、鳥肉を使ったスープが出てきた。一人一人盛り付けするではなく、全て大皿料理だ。
別に指定したわけではなかったが、レジーナが言ったのだろうか。
レストランで出るような色とりどりの料理ではない。家で出るような、全体的に茶色い料理。
子供たちからの評価は、満点だった。
そもそも家庭料理というものを食べたことがない子も多いし、子供達はレストランでのコース料理のような少量の品が沢山出て来るより、美味しいおかずを沢山食べたいものなのだ。
需要と供給がマッチした結果、大皿はすぐにカラになってしまった。子供達の食べっぷりを見て追加の料理も出てきたので、心遣いもありがたい。
結局追加で来た料理もあっという間になくなり、洗い物を子供達が皆でやると言うので、僕は面接に来た主婦デニサとレジーナの二人を連れ、会議室に戻り、面接の続きもとい契約手続きを行うことにした。
「この勤務時間なんですが、早く終わった場合はどうなるのでしょう?」
契約書類を見ながら、デニサはそんなことを聞く。
「はい。労働時間は1日8時間と書かれていますが、それより早く終わっても給料は満額支払います。昼は大体20人分くらいで、夜は30人プラス大人が数人。今日の手際を見る限り、よほど超過することはないと思いますが……」
1時間半程度で昼食を完成させたのだ。材料が揃っていたとはいえ、手際が悪かったらそんな時間で終わらせれるとは思えない。
「ええ、買い物の時間を含めても余裕で足りますね。ではこの休暇の規則に書かれている週休2日というのは……」
「はい。週2日は休んでもらいます。来てもらっても給料を支払うことはありませんので、そこは休んでいただけたら」
「私が休んでいる間の食事は、どうなるのでしょう?」
「……まぁ、皆でなんとかしますよ」
レジーナとレナータには申し訳ないが、別に料理を作っているのは二人だけではない。人手が足りない時は、空いてる子が皆で手伝って作っていたのだ。
だから、デニサが1人居なくなったところでただちに問題があるわけではない。
「そうですか。それだと……」
「それだと?」
「二人の負担を思うと、ちょっと。休めと言われるなら休みますが……そこで、1つ相談がありまして」
書類を置いたデニサには、提案があるようだ。
「……はい? どうぞどうぞ」
「私の娘を1人、お手伝いとして雇うことはできますか?」
……予想していなかったわけではないが、もう1人を雇うつもりはあまりなかった。給料の面もそうだが、あまり外から来た人間だけで成り立たせるつもりはなかったからだ。
子供達にも自活する力を身に付けさせるには、何でもかんでもお手伝いさんを呼ぶわけにはいかないと常日頃思っていた。
明らかに回っていないところは仕方ないが、出来る限り子供達にも屋敷のことをしてもらいたいのだ。
「……それは、従業員としてですか?」
「いえ、お手伝いとしてで構いません。娘への給料は私が支払いますので、厨房に入れてもらう許可を貰えたらと思うんですが」
「うーん……」
どうするべきか。給料がかからないのは悪いことではない。
問題は、いくつか。デニサやその娘としてはお手伝い感覚だが、僕としては屋敷で雇う従業員と同じということ。
僕が経営者として雇うのなら、給料を支払わなくてはいけない。デニサが自身の給料から差っ引いて渡すつもりだとしても、それはなあなあにはしていけないことだと思っているからだ。
金をかけずに人を雇うと、いつ逃げられるか分からない。そうやって崩壊していくシステムを、昔はどれだけでも見たから。
休暇と給料、それだけは充分に与えなければ、崩壊への道を進むことになってしまう。
しかし、子供達としてはどうだろう。僕の勝手な思い込みで、やりたくないことを強要していることもあるかもしれない。
子供達の負担を減らそうと思えば、厨房にもう1人入るのは良いことだ。デニサの性格なら娘を入れたところで子供達は手伝いをしなくてもいいと言う事はしないだろうし、ううん……。
「分かりました。週どのくらい入ることができますか?」
「そうですね……娘は定職には就いていませんので、私と同じように入れて貰えればと思います。休暇を被らせないようにしますので、いかがでしょうか?」
「……では、それでお願いします。ただし給料はこちらから支払いますので、デニサさんが払う必要はありません」
雇うにせよ、これだけは譲れない。
給料を支払わずにずっと雇っていて、居るのが前提となったところで辞められても困るのだ。
それを防ぐには、最初から正規の給料を払い続ける必要がある。目先の節約のために今後の予定を失いたくはないのだ。
「……ありがとうございます。給料は、エミリオさんに決めて頂いて構いません」
「分かりました。近いうちに雇用手続きをしたいので、一度連れてきてもらえますか? あと、デニサさん自身はいつから働けるでしょう?」
「家族への説明もありますので、来週頭からにしてもらえると。娘は明日にでも連れてきますので、宜しくお願いします」
「ええ、今後とも、宜しくお願いします」
人柄採用となったが、彼女の娘ならば問題はないだろう。
身内をコネ入社させる場合、自身の評価を落としたくないので変な人は連れて来れないものなのだ。
予定外のこともあったが、これで子供達にも少しは余裕ができるかもしれない。
料理人、ゲットだぜ!




