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ん、良い朝だ。
窓から差し込む朝日が心地よい。……窓の位置からして、日が差し込むのが早朝だけなのは悲しいが。
僕の左右には、美少女が1人ずつ。ちょっと寝巻がはだけてる。うん、見てないよ、見てないよ。
ていうか、動けないよ!左右の2人が僕の腕を抱き枕代わりにしているからか、僕の可動域がほとんどない。僕の両足はイルマが足で挟み込んでるし、リリーは僕の上半身を抱きかかえるようにくっついてるので、まともに動かせるのが頭くらいだ。うーん、どうするべきか?
1、二人の寝顔を鑑賞する
2、起こす
3、男だろ?
………………よし! 1だな!
というわけで、しばらく美少女を鑑賞していよう。……リリーは寝顔も可愛いなぁ! イルマ? うん、可愛いと思うよ? この寝顔を見たら普通の男子ならイチコロだろうな……って思うくらいには可愛いと思うよ!
ええっと、あとは……リリーよりは胸があるね! いやリリーのことぺったんことか言ってるわけじゃないんだけど、そりゃ年がね! 年が違うからね!
ていうか僕、イルマに胸押し付けられてない? 気のせいか……? 当たってはいるんだけど、当たっちゃってるだけかな? こんなくっついてたらそりゃ当たるよね、うんうん。
イルマより密着しているリリーの可愛らしいお胸が当たってる感覚は、残念ながらそこまでない。胸というよりは、骨……?
ううん、胸のサイズとか関係ないから。僕はリリーのことをそんな安っぽい尺度では測ってないからね!
寝顔鑑賞は、それから1時間にも及んだ。
◇
朝起きて早々、少しだけ機嫌が悪いイルマに「いくじなし……」と呟かれたのはまぁスルーして、半分眠った二人を寝巻から着替えさせて食堂に連れて行く。
この屋敷の朝食は、基本的にパンとスープだけだ。
このあたりのパン屋には毎日焼き立てパンを届けてくれるサービスがあるようで、それを利用している。菓子パンや総菜パンなど様々な種類のパンが届くので、子供達からも飽きたという声を聞くことはない。
育ちざかりの子供達なので、消費量も馬鹿にならない。毎食ここで作っていたら時間がどれだけあっても足りないからだ。
スープも寸胴鍋で作られたものが毎朝届く。ありがたいサービスだよ本当に……。
朝は港に向かう子と屋敷に残る子で生活時間に差が出るので、好きな時間に食堂へ行って、好きな時間にセルフサービスで食べることになっている。とは言え皆焼き立てパンが温かいうちに食べたいので、早朝の食堂には大勢の子供達が集まっている。
子供達には「おはようございまーす」と声を掛けられるたびに挨拶を返しているが、30人も居ると誰に挨拶して誰に挨拶してないか分からなくなるよね。向こうから来てくれるから良いのだが。
「せんせ、私今日は甘いのが良い」
「私も!」
「はーい」
3人分の席を確保すると、着席した2人からそう頼まれる。
当然のように二人にパシらされているが、まぁなんかいつものことな気がする。
リリーはいくら赤外線探知で仮の視覚を手に入れたとはいえ、物の形が分かる程度だ。僕からしたら一目見て甘いと分かるパンでも、リリーにとっては形状と匂いでしか判別できない。なので僕が要望を聞いて取りに行き、ついでにイルマにも頼まれるのが日常となっていた。
少し離れたところからジェンナが「またやってるよ……」と呆れた目で語っているが、もういいもん。僕とリリーのついでだからね。
金時豆のような甘く煮た豆が入っているパンを2人に、自分の分でいくつか物色していく。今日のスープは具沢山のミネストローネだ。子供達の栄養面を思うと、野菜多めのスープをいつも作ってくれるのはありがたい。味に飽きないようにソーセージや鶏肉の小間切れなどが入っているのも嬉しいところだ。
僕も一応体は成長期の男の子だからね、一応はね……。
学校給食作ってる人、相当大変だったんだろうなぁ……と、ここに来て何度も思うのであった。
だって、栄養面の偏りとか心配にならない!?色々食べさせてはいるんだけど……。
もしゃもしゃと無言でパンを食べながら、今日の予定を考える。
今日は面接が3件入っている。屋敷専属の料理人を雇うためだ。
アルの時にやらかしたのを反省とし、給与には相当気を使って斡旋所に求人を出してみた。……そうしたら、1日で3件入った。たぶんまた設定失敗したよね。1日で求人は下げてもらい、とりあえず3人の面接をして、微妙そうだったらまた求人を出してみることにしたのだ。
ちなみに料理人を雇っても、早朝のパン配達だけはやめるつもりはない。広い厨房があるとはいえ専用のオーブンがあるわけでもないので、毎朝人数分の焼きたてパンを用意することはできないからだ。
好評な部分を変えるのは避けたいよね。目下変えたいのは、昼食と夕食。昼食は港で働いている子はラウやニッカに任せ、屋敷に残っている子は作ったり買い物ついでに買ってきたりとその日によって違う。夕食だけは食材を買い込み、料理の得意な子供達が作っている。
料理が得意とはいえ、料理店で働いたことがあるわけでもない子供達だ。30人分の準備をするのに毎日数時間かかってしまっているので、負担を小さくしてあげたいのだ。料理人として雇うのは多くとも2人、まぁ1人でも問題ないかもしれない。
「それ、今日の予定?」
リリーが両手で持ったパンをちょびちょびと食べながら、僕にそう質問する。
「そうそう。料理できる人を雇いたくてね」
「大変そうだもんね……」
「なんだよねぇ……」
料理の配達と、料理人の雇用は話が違う。すぐに子供達に馴染んだヨラヒムやアルのような大人ばかりではないのだ。職人堅気の料理人は、技術はあっても子供達と馴染むのは難しいかもしれないし、技術よりも人柄採用をした方が良い可能性がある。
まぁ人手が欲しいだけと言えばそうなので、厨房に大人の監督役が居るだけである程度は解決すると思うのだが、子供達と一緒に調理をさせることになるので、俺一人が全部やればいいタイプもダメ。雇用条件は結構厳しいのだ。
「あ、料理人の話?」
トコトコと近づいてきたのは、厨房担当のレジーナだ。最近15歳になった女の子で、ラウやニッカのグループに所属していない居残り組。
妹のレナータと一緒に、毎日厨房で皆の夕食を作ってくれている。
「うん、どんな人が良いとか希望ある? 一応面接も立ち会ってもらう予定だけど」
「んー…………良い人そうなら別に?」
「そう? なんか他の希望とかは?」
「怖い人じゃなければ良いかなぁ」
ほんわかとしたレジーナは、いつもの雰囲気のままそんなことを言う。同僚が増えるのは結構気を張ることだと思うのだが、あんまり気にしてなさそうだな。
「おっけ、性別は? 男2人女1人で入ってるけど」
「どっちでもオッケーよー。今からちょっと買い出し行ってくるけど、面接は昼頃?」
「うん、面接の後に試しに昼食作ってもらおうと思ってるから、適当に食材増やしてくれると嬉しいかな」
「オッケーオッケー、今日のお昼は作らないで良いってことね。じゃ、レナータ買い物行くよー」
皆に「行ってらっしゃーい」と見送られ、レジーナとレナータは食堂を出て行った。
それからも港に向かう子とアルの授業に向けて予習を始める子で席は段々と空いていき、食堂に着いて30分もすると残っているのは僕ら3人だけになっていた。
「で、人が居なくなったとこで聞きますけど」
深刻そうなトーンでイルマがそんなことを言ってきた。うん、イルマがこのテンションな時は、ロクでもないことを言う時だ。
「せんせ、どうして美少女2人と添い寝して手を出さなかったんです? ねぇ、リリーもそう思うよね?」
「え!? わた、わたし!?」
「そこ興奮しないー」
「してないよぉ!」
ほらやっぱりロクでもないこと言ってきた!
ていうか自分で自分のこと美少女って言うの、中々強いな? お前……。
リリーはいつも通りあわあわしてるし、イルマも自分で言っておきながらちょっと恥ずかしくなったのか、少しだけ頬を染めている。
これの返答は決まってる! そう、無言であることだ。
こういうの、何を言っても失言になるって学んでるんだよ、僕はね。
僕は無言でじーっとイルマのことを見つめる。おい何で顔赤くしてんだイルマよ。自分で言ったんだろそれ。
無言の視線攻撃を1分も続けると、イルマが「ちょっと、もう無理」と言って目を逸らしてきた。勝ったな! 今後の対応はしばらくこれで行こう。
リリーは何も言わず僕の手をぎゅっと握ってきているが、ううん、心なしかいつもより手が熱い気がする。
…………よし!気分転換しよう!
「2人とも、今日はアルの授業受けないよね?」
「魔法学の基礎なら10年くらい前から叩き込まれてるんで、パスで」
「私も、エミリオ君が教えてくれてるから……」
二人はそうして平気でアルの授業をサボる。誘った僕が言うのも何だが。アルも「別に、知ってる子にも教えるつもりはないっすからー」と適当なので、サボタージュはそこまで気にしていないようだ。
「はい。ってわけで今日は個人的に魔法の特訓をしようと思うけど、二人はどうする?」
「じゃ、そっちには参加でー」
「エミリオ君と一緒なら、やるよ?」
はい、てわけで決まりました魔法の特訓。特訓って言っても何やるの? って話だが、昼に予定が入っている以上そこまで遠出はできないので、舞台は屋敷の庭だ。
もうちょい庭拡張して外で色々できるようにしたいなぁとは思うが、予定は未定。今はあんまり外でやることもないからね。
食器類を片付け、そのまま二人を連れて外に出る。
リリーはともかく、なんでイルマまで僕の腕に手を絡めてるんだ?目見えてんだから一人で歩きなさいって、全く。




