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「やや、リリーが言ってたんですよ。王宮でせんせが変なシスターっぽい人と話してたー、って。王宮に居るシスターってカプレさんしか浮かばないんですけど」
変なシスター、正解すぎる!
確かに修道服を着ているだけでどう見ても聖職者ではない滅茶苦茶変なシスターだが、あの時のリリーは目が見えてなかったはずだ。どうしてそれを?
「あ、……ひょっとして、まずかった?」
リリーがハっとして僕に聞いてくる。ちょっと申し訳なさそうにしてるのも可愛い!
「ううん。よくあれがシスターって分かったねって……」
「うん? だって、足首まで隠れる服着てて、頭にヴェール付けてて、金属のアクセサリを首から下げてたから、そうなるとシスターかなって……」
「……え、音だけで分かったの? それ」
「う、うん。違った?」
「合ってるよぉ……リリーは凄いなぁ……」
なでなでなでなで。感動のあまり撫で回す。
音の情報量が凄すぎる。普通に見えてる僕ですらそんな意識したことないのに、目が見えてないリリーがそこまで視えていたとは驚きだ。もうちょっと大雑把なものだと思ってたよ……。
「で、で、カプレさんの弟子なんですか? それともただの知り合い?」
僕がリリーを撫で回していることはスルーしてイルマからの再度の質問。
うーん、どうやって返せば良いんだろ? 口は堅そうだし別に言っても良さそうだけど……。
「うーん、弟子……弟子かなぁ……。弟子ってことになってるけど、弟子入りは断られた的な……?」
「知り合い以上弟子未満、的な?」
「あ、そんな感じ!」
うんうん、それが適切だ。一応ベルトランの後代ではあるから知り合い以上だし、襲名している以上弟子みたいなものだし、うんうん。嘘ではないな!
「お師さまがカプレさんの孫弟子だったらしくて、昔から話は聞いてたんですよねー」
「なーるほどなぁ……」
「ま、孫弟子? あのシスターさん、そんな歳取ってるの……?」
「300歳は超えてるって言ってたね……」
いくつだっけ、310くらい? あれからしばらく経ってるし、もう320くらいになってるのかも。
女性の年齢は気にしてはいけないような気はするが、流石に300も超えてたら良いよね? ……良いよね? オリエみたくババァとか言ったら半殺しにされそうだけど。あっ寒気が。
「やっぱ人じゃないんですねカプレさん……昔から外見が変わらない人だって言ってたけど、そこまで生きてるとは……」
「す、すごい長生きなんだね」
二人のリアクションももっともだ。直接会って話している僕ですらあんまり信じられないし。
ニンフという種族柄、外見が変わらないのは普通なのかもしれない。ニンフにとってのマテリアル体は後付けだから? 他に例を知らないので、そのあたりの知識はない。
「……僕もちゃんとした師匠欲しいんだけどなぁ」
そんな呟きが漏れてしまう。
自己流の学習法やトレーニングではどうしようもないことはある。ちゃんとこの世界で生きている魔法使いに師事すれば、もっと効率的にスキルを育てられるとは思うが、生憎ツテがない。
アルは教師だからなぁ。教師という職業だと、必要なのは実戦能力でもスキルレベルでもない。ただ単純に、他人に教える技術が必要とされるのだ。
僕の知らないことを知っているから、知識にはなる。しかし、それを聞いて今更僕が強くなれるかと言うと、微妙なところ。
ただスキルレベルを上げたいわけではなく、僕は強くなりたいのだ。プレイヤーにも負けないくらい強くなって、あの日を迎えなければならない。うん? シスター? 20年ぽっちでシスターより強くなるのは無理無理。それは諦めてるんで大丈夫です。200年は要るんじゃないか? いや魔法適正がある以上200年分強くなれるわけでもないのだが。
「あー私も欲しいですねー」
そんなことを漏らすイルマは、ここで「弟子入りさせて下さい!」とか言わないだけちゃんとしてるよね。僕は師匠として適任なわけではないし、教えることのできることもそこまで多くはない。
「わ、私の師匠はエミリオ君……?」
「いつの間に弟子入りしてたの!?」
リリーのその言葉には、僕の代わりにイルマが驚いてくれた。
弟子入りさせた記憶はないよね? 確かにレビテーションスキル覚醒させたり火属性スキル委譲したり日常的にずっと一緒に居たりしているが……弟子と師匠って感じではない、よね? うん。
「弟子では……ないんじゃない?」
一応、否定しておいた。もうちょっと良い言葉を見つけないと傷つけそうだなぁ……。
「そ、そっか、違うんだ……」
露骨にショックを受けるリリー。ごめん、ごめんよ……だって弟子と師匠てこういうのじゃ、なくない?弟子入りしたことないから知らないけど……。
「どっちかと言うと、夫婦じゃないですか?」
「ふぇっ!?ふう、ふうっふ!??」「ハァ!?」
イルマの爆弾発言に、まずリリーがレビテーションを暴発させて飛び上がってずっこけて、僕も椅子から転げ落ちた。
床、痛い! 回転椅子やめよっかな!?
「いやなにその二人の慌て方!ちょっと冗談言っただけなのに!」
「じょじょじょ、じょうだん、なの?」「言って良いことと悪いことが……」
「なんか……ごめんなさい……」
リリーを抱きかかえて起こしながら、素で謝るイルマを睨む。うう、リリーにそういうのはまだ早いよ……タンコブとかできてない?大丈夫?
レビテーションスキルが暴発すると、平衡感覚が急になくなるから盛大にすっ転ぶんだよなぁ、そういうの見たことあるよ……。
「……個人的には、これでまだ二人がくっついてないのが信じられないんですけど……」
「く、くっつ!?」「信じてよ!?」
「その必死の否定が怪し……いや、まぁもう何も言いません……」
ちょっとだけ反省の色を見せるイルマ。そうそう、そうだよ。
僕がリリーのことを好きなのはそりゃ見れば分かるだろうが、リリーは懐いてるだけだからね。嬉しいけどね! そういうのじゃないよ!
この認識がイルマだけではなく他の子にも思われてるなら、皆の見てるとこでもずっとリリーと一緒に居るのは問題……って、リリーが僕の部屋で寝てるってことは皆知ってるんだよなぁ……。
うん? 誤解の原因そこじゃない? 自分の部屋で寝かせれば良いのでは?
「……リリー、今日から自分の部屋で寝る?」
「や!!」
「……はい」
「せんせ、将来絶対尻に敷かれるタイプですよね……」
「しょ、しょうらい!?」
「はいはいお花畑リリーちゃんはそこで興奮しない」
「してないよぉ!」
ううん、交渉失敗。
いやね? 僕の部屋に来るようになった最初の頃は、ベッドにリリーを寝かせて僕は椅子で寝てたんだよ?
けどね、回転椅子でリクライニングもないからさ、ある日寝てる最中に椅子から転げ落ちちゃってね。結構な音立てて床を転がったみたいで、飛び起きたリリーに「もうそこで寝るのはやめて!」って怒られてしまったのだ。
ベッドを二つ入れるほと隙間はないし、大きいベッドを入れる隙間もないしということで、今は二人でシングルベッドを使って寝てる。
幸い二人とも子供だからシングルベッドを二人で使ってもそこまで狭くは感じないが、心苦しさはあるよね。
……手は出してないよ? 鋼の自制心で何もしてないよ? 据え膳食わぬは男の恥? うるせえ! 12歳に手を出したらそれは……犯罪だろうがッ!! ていうか据え膳でもねえよ!
「じゃ、私も毎日ここで寝るかなぁ。したら変な誤解とか生まないと思うけど?」
「……流石に狭くない? ていうか誤解を別な誤解で上書きしてるだけよねそれ?」
「あ、バレた?」
「イルマまで来るなら二段ベッドの導入を検討するけど……」
天井は余ってるから、二段にすることくらいはできると思うんだよね。ただリリーの浮いていられる空間が狭くなるからあんまりしたくはなかったのだが。
「や!!」「いやそれはイカンでしょ……」
「……なんでや」
「なんでもです!」「せんせは馬鹿なの……?」
なんで僕がボロクソに言われるの!?なんかおかしくない!?
二段は……そう! イルマとリリーを一緒に寝かせればええやん! 違うのか!?
いやそれするくらいなら自分の部屋でって話? それもそうだけど!! 部屋まで歩いて1分もかからんでしょ!?
「試しにホラホラ、私の隣、空いてますよ」
イルマが手招きをするのを、じっと見つめる。
うーん…………? あ、悩んでる間にリリーが壁際にホイホイされてしまった。
行くか……? いやでも……?
「……ていうか僕の隙間、なくない?」
言ってみたものの、ある……あるっちゃ、ある。
ううん、両端に柵とかないから落ちない?
手前側に寝転んだイルマを中央に押しのけ、横に――
「「そっちじゃないでしょ!」」
「はい……」
なんで僕が怒られてるの? 罠とかじゃないよねコレ? 二人が僕を見る目が怖いんだけど……。
大人しく中央の隙間にイン。うん、子供だから普通に入れたよ……。
12歳2人と、13歳1人だ。シングルベッドでも、まぁ横にはなれるよね。
両サイドを固められてるから寝返りも打てないんだけど……。僕、寝相そこまで良い方じゃないと思うんだけど……。
「ほら、大丈夫じゃないですか!」
「うんうん、大丈夫大丈夫」
「僕が大丈夫じゃなくない?コレ」
「「大丈夫です!」」
「はい……」
なんで僕が注意される側になってるの……? 一応、ここのオーナーなのに……。
この二人と居ると、自分がただの子供であるかのように錯覚してしまう。いや、ただの子供なんだけど!
なんか他の子と違って、この二人は僕との距離感がこう……おかしい気がする。
今1mmも離れてないしね!? 二人ともあえてくっつこうとしてない!? 何の競争心だよ!
この距離で見ると、リリーが超絶可愛いのは当たり前として、イルマも美少女なんだよなぁと再認識してしまう。
少しだけ癖っけのある綺麗な黒髪に、ちょっとだけ生意気そうな目、八重歯の除く笑顔は、この距離で迫られたら男の子は即落ちだろうなと思う。……僕は大丈夫だよ! 逆隣に本命が居るからね! あっリリーから良い匂いがするよ……。
「はい消灯ー。夜も遅いしおやすみなさーい」
イルマがそう言って部屋の電気をオフにする。今魔法使ったね? 空気弾的なの指から飛ばして、電気スイッチ切ったよね?
なんて器用な……あっ暗くなると眠いわコレ。いつも寝る時間よりは早いが、日頃の疲れからか、すぐに眠ってしまうのであった。




