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ヤクと魔法のファンタジー  作者: 衣太
生活基盤
44/133

8

 アルを雇ってから、2か月が経過した。

 今はアルしか入居希望者の居ない寮も完成した。3階建てで、計9室の居室を設けてある。トイレと浴室は共有部にあるが、一応男女別に分けておいた。

 あらかじめ「男も寮を使うかも」とは伝えておいたが、そのあたりの自衛は自分でするとのこと。給料を知ってから、露骨にアルの態度が変わったよね。


 防衛戦力は足りないので、親会社の『オリエ・ルージュ』からはヨラヒムを出向社員として雇っている。短期ではなく後釜が見つかるまでの長期雇用となるが、『オリエ・ルージュ』内の戦力は大丈夫なのかと聞くと「イザークが居れば大丈夫」と返されてしまった。

 どうやら、ヨラヒムが戦力ナンバー2なのは、イザークが居ない期間限定だったようだ。


 一度だけイザークに来てもらったこともあるが、翌日子供達から評判を聞くと「なんか怖い」「何考えてるのか分からなくて怖い」「優しそうだけど絶対怒ると怖い」と散々だった。子供は分かるんだね、そういうの……。


 というわけで、屋敷の防衛戦力兼買い物時の護衛等はヨラヒムに一任してある。しばらく通いになるなら寮の部屋を使うか聞いてみると、「実家から通うから問題ない」とのこと。

 そういえば元々は王都で貴族だったんですねアナタ……そりゃ、家族が生きてりゃ家もあるよね……。

 往復1時間くらいの道らしいが、通勤手段がなんと馬。馬車ではなく、裸馬に直乗りだ。鞍も鐙も無しでどうして普通に馬に乗れるんだよお前は。


 突然馬に乗ってやってきたヨラヒムを見た男の子が目を輝かせ、馬の乗り方を教えてとせがむシーンもあった。

 防衛戦力として屋敷には居て貰っているがやることがなく相当暇とのことで、最近は自主的に子供たちに勉強を教えている。

 アルの授業がない日や夜に、一般教養や貴族社会について、騎士という職業についてや、これまでの経験などを語っている。男の子達からは途轍もなく評判が良いので、もう教師枠で雇った方が良くないか?とか考えるレベル。

 手の空いた子には体属性魔法のレッスンもしているようで、それを聞いて給料アップを約束した。

 アルは学問として魔法を教えているので実践派のヨラヒムとは考え方からして全く違う。

 机にかじりついて勉強するより、外で体を動かしながら覚える方が向いている男の子は多いようだった。

 アルの授業では寝てしまう子もヨラヒムの授業だと目を輝かせて聞いていたりもするので、それは適材適所というやつだ。

 負担が軽くなってアルも喜んでいた。やっぱり、教師は複数必要だよね。


 サロート運輸は起業から半年経ち、相当落ち着いてきている。

 最終的に16人の子供達が働くことになり、収入も相当なものだ。実は生活費を軽く超える金を稼いでいるのだが、「先生に出してもらった屋敷代も稼ぐぞ!」と意気込んでおり、労働意欲が削がれることはないようだ。

 うん、いくら稼ぎが多くとも、屋敷代に辿り着くには5年か10年はかかると思うよ……。

 日々の生活費を貯金から出さないでも良くなったことで、僕の貯金は再び上昇傾向を見せている。使う予定はないから、とりあえずそのままキープ。しばらくは会社収入でやっていけそうだ。


 港で働く人や水夫にも子供達は評判が良いようで、自分の子供くらいの歳の子が立派に働いていることに涙する大人も居るとか。

 エアクッション艇は通常の中型が8隻、操縦に追加で2人必要な中大型艇も完成し、小規模の荷物や人だけを運ぶ用に、高速小型艇も2隻用意した。

 ニッカ曰く、最近は高速の小型艇で運河を一周するだけというお客さんも増えたらしい。あ、観光地で湖を走るだけの高速ボートとか僕も日本で見たことある! それか! と驚いたものだ。

 運輸会社ではあるが、別に観光事業に関わってはいけないわけではない。港湾課からの商売許可は多方面に有効なようで、問題はないようだ。そもそも観光地化されてるわけでもない港だから、関係者と住んでる人くらいしか居ないからね、ここ。

 小型艇は荷物を運ぶことを考慮していない分高速で、最も操縦に慣れたラウが乗れば、100km以上は出ていると思われる。完全にアトラクションだ。

 クチコミ効果もあり、小型艇は毎日のように利用者希望者が訪れるようだ。本業の手が空いている時限定ではあるが、そちらの収入も馬鹿にならない額になっている。


 利用者数も安定してきたので、毎日港に行くのは12人までとし、4人は屋敷に残り、勉強や休息にあてるようにしている。勤務シフトの調整は全部ニッカがやってくれているので、僕はノータッチ。今の処は問題なく回っているようだ。

 働きたくないという子は少ないが、「それより勉強がしたい」とか、「それより魔法を覚えたい」という子が屋敷に残り、アルやヨラヒムの授業を聞いている状況だ。

 全員を同じように扱って勉強を教えるのではなく、まずはやりたいようにやらせていることで反発も少なく、本人も楽しく生活できているようで、一応方向性が間違ってはいないようで何より。


 部屋割りも多少変化があった。元々は割と適当に決められていたのを、生活時間が被りやすい者、仲の良い者同士を同部屋にすることで落ち着いている。

 子供たちの私物はほとんどなかったから、部屋の移動は簡単だった。


 その中で最も変わったのが、うん、僕の部屋です。

 僕の部屋ね、居室というか寝室なの。階段下にある為縦には多少広いが、横の空間は、4人で使える子供部屋より相当狭い。小さめの机に椅子、本棚一つに、ベッド一つが置いてあるだけである。他に何も置かないのではなく、狭すぎて置けないのだ。


「せんせ、このスクロールの原文知ってる? 書いた人の主観が入りすぎて気持ち悪いんだけど」


 僕のベッドに横になり、足をバタバタしながらスクロールを眺めているイルマ。


「エミリオ君エミリオ君、明日行ってみたいところがあるんだけど、良い?」


 ぷかぷかと空に浮かびながら本を読み、僕に話しかけてくるリリー。


 ……うん、つまりそういうことだ。


「二人とも何でいつも僕の部屋使うの……?」


 この二人にも、ちゃんと部屋を用意してある。4人部屋が多い中で、2人部屋だ。狭いはずはない。自室1人分のスペースでも、この部屋よりずっと広いはずだ。

 イルマは寝る時には自分の部屋に戻るのだが、リリーは最近はずっと僕の部屋で寝泊まりしている。

 ……どういうことなの?いや、嫌われてるわけではないのは良いことだとは、良いことだとは思うのだが。

 ううん、懐かれてるのは間違いない。リリーはまぁ良いとして、イルマまで来るのはどういうことだ。


「せんせの傍のが質問しやすいし?」


「この部屋にエミリオ君が居るから……?」


「それでもなぁ……」


 確かにイルマは最近よく僕に魔法のことを質問してくる。僕よりアルの方が詳しい分野に関してはアルに聞いているようだが、そうでないものや判断できないものに関しては全部僕のところだ。

 最近は光属性、それも幻惑系統についての質問が多く、それは割と得意分野なので問題ない。


 問題なのは、僕が常に少女を二人部屋に連れ込んでいることだ。

 イルマはふらっと来てふらっと自室に戻るのでそこまで気にされていない気もするが、リリーに関してはもう完全に僕と付き合っているような扱いをされている。懐かれてるだけだと言っても「またまた照れちゃっ てー」とジェンナに返される始末。そういうの止める役目じゃなかったの! アナタは!


「うっし、行けそ」


 ぷかぷか浮かぶリリーの頭を撫でながら考え事をしていると、突然イルマがそんなことを呟いた。

 独り言だろうとタカをくくっていると、イルマが魔法の詠唱を始めた。え、ここで?

 いくつかアレンジを利かせているが、その詠唱は光属性の探知または看破魔法だと思われる。うんうん、 ……何を?


「――人を惑わす悪鬼羅刹、その御姿を晒し出せ。《ペネトレイト》」


 アレンジにも程があるな。たぶん、スキルか何かを活かす為に看破対象を悪鬼と認定し、悪鬼に対する魔力値ボーナスを狙っている感じかな。

 何に対する看破? という疑問は、イルマの目が僕を見ていることで理解した。


 ……あ、まずい?


「あーーーーーーなるほどーーー!!!!!」


 イルマは僕の全身を舐め回すようにじっと見、そう叫ぶ。

 うんうん。なるほど。


「人のこと悪鬼とか言ってんじゃないよ!?」


「やっぱりせんせ、あん時のエミリオ君じゃないですか!!!」


 はいバレましたー!!!

 なんで最近幻惑系統の魔法ばかり勉強しているのか、ようやく理解した。

 イルマは僕の使用している幻覚を解除しようとしていたのだ。その方法を、僕自身に聞いていたのだ。

 うん、僕も馬鹿だな。もうちょっと警戒しとくんだった。いやまさか同年代の子に高次幻覚を看破されるとは思ってなかったからね……。


「え、やっぱ見えてんの」


「見えてる見えてる。偶然同じ名前だから先生を名乗ってるって言ってたけど、違うじゃん! 本人じゃん!」


「本人ですけど!??」


 もう逆ギレレベル。警戒してなかった僕も悪いが、僕の青年モードを幻覚と認識した上でそれを解除しようとする子が居るとは想定していなかったのだ。

 そういえばイルマ、光属性のスキルは元々育ってたんだよね……。最初に気付かれるのはイルマかもと思ってはいたが、すっかり忘れていたよ。


「なるほどー!リリーが懐くわけだ!!」


 なるほどなるほどと連呼するイルマ。

 視覚情報を参考していないリリーには見えていて、自分達には見えていないもの。そう考えれば、僕が使用するとしたら視覚から作用する幻覚と断定するのは簡単だ。……それを教えたのも僕なんだよなぁ。


「……え、イルマちゃんにもエミリオ君が見えてるの?」


 ぷかぷかしていたリリーは驚いて着地し、イルマの方を見た。

 ところで最近、僕の部屋に居る時、リリーはよく浮いている。

 もう一つ椅子も増やせないくらいの狭い部屋だから椅子要らずなのはありがたいことなのだが、疲れないのだろうか。レビテーションスキルを成長させることで持続時間や魔力効率が良くなるので、四六時中浮いているのは悪いことではないのだが。僕も同じように魔法スキル育ててるからね。


「見えてるよぉ! もうしっかり! エミリオ君の姿が!」


「……皆には言わないでくれるよね?」


「や、言いふらすつもりはないけど……。会った時からずっと気になってたんで、ようやく看破できてスッキリしたぁー!」


 うん?会った時から?


「えぇ、そんな前から気付いてたの……?」


「魔力循環式が綺麗すぎてこれまでは歪みにアクセスすることできなかったんだけど、リリーの態度から考えるに視覚系幻覚って決め付けて、後は悪鬼ブーストでギリギリレジストできた感じ……?」


 とても同年代とは思えないことをサラっと言ってのけるイルマ。

 ううん、難しい。魔力循環式はとあるスキルを使用すれば視界に映すことのできるものだが、実用性に乏しいものだ。循環式は本人の癖によって相当に違うので、それを見ただけで何をしようとしているのかすら普通は分からない。魔力が動いている以上、何かしらの魔法を使っているんだなと思う程度だ。

 何度も何度も繰り返し見続ければ同じ魔法を見分けることくらいはできるようになると思うが、その程度。 ゲーム時代は、レイドボスと戦う時のタイムキーパー役が使う程度のスキルだったのだ。

 まさかそんなスキルの習得条件を満たしており常用している子が居るなんて思っていなかったよ。


「うん? 私?」


 キョトンと首を傾げるリリーも可愛いね! レビテーションスキルを解除して着地したことで頭が手ごろな位置になくなってしまったので、頭を撫でようとした手が迷子だ。


「そうそう、リリーの性格で初見の人にこんな懐くか? って思って、たぶん知り合いの誰かなんだろうなーとは思ってたけどなるほどなぁ……」


「……イルマ、ホントに13歳?」


「いやそれ言われるとせんせのがおかしくない!? エミリオ君だと、私より若いくらいよね!? それも幻覚だったら流石に看破できないけど……」


 うっそれ言われるとぐうの音も出ない……ッ! 流石に看破されても良いように幻覚に別種の幻覚を重ねるなんて、今の僕では不可能だ。シスターとかならやってそうだけど。

 火属性スキルは委譲しちゃって以来ほとんど育てていないから仕方ないが、委譲する前でも幻覚魔法を使える煙系統のスキルは全く触れていなかったし。


「まぁ……色々あるんだよ」


「色々……色々かぁー!」


「話したくなったら話すけど、当分は知らないで貰った方が良いかなぁ……」


 ううん、僕が別の世界で生きていた普通の人間でした、異世界に転生してきましたなんて、普通は信じない。

 これまでそれを話したのはシスター・エリーズとリリーの二人だけだ。シスターはシスターだし、リリーは神知識があまりに豊富だったからそのような現象を理解できただけに過ぎない。

 普通は絶対信じないでしょ、そういうの……。イルマは信じたとしても、説明がとんでもなく難しい。だからとりあえず、今は説明を避けておきたい気持ちだ。


「せんせの秘密、リリーは知ってるの?」


「……私は、知ってる、よ?」


 リリーは言って良いものなのか少しだけ悩んだようだが、正直に答えた。


「なるほど! つまり私もせんせとエッチなことすれば教えてもらえるってことかな!?」


「え、えっちなこと!?」「してねえよ!????」


 一瞬にして茹ダコのように赤く染まるリリーはやたらと可愛いが、とりあえずそれよりこの誤解を解かねば。なんだそれ。僕はまだ何もしてないよ!


「え、むしろ何もしてないの?」


「し、してないよ!」「してないけど!!???」


「うわ、声揃えて必死に否定するの、あーやしー」


 駄目だこれ! 何を言っても裏目るかも! これイルマが勘違いしてるだけなのか、屋敷の子供達共通の噂なのかどっちかを突き止める必要があるよな!?


「まだ私、何もしてもらってないからね!」「まだ何もしてないよ!!」


「……まだ?」


 二人で全力の否定をすると、イルマの瞳がギラリと光る。うっ……これはまずい雰囲気。


「……失言でした。何もしません」


「えっ、何も、しないの……?」


 今度はリリーがそれを言うと、二人の目が僕に突き刺さる。あれ、リリーの目は見えてないよね? 視えてはいるだろうが、何故か視線を強く感じるぞ! 気のせいかな?


「いやそもそも、12歳でそんなことしなくない?」


 どうよこの理論的な返し! いけるか!?


「せんせは違うでしょ?」「しないの……?」


 あれ? おかしいな? なんか僕何言っても失言になりそうじゃない?


「……この話やめない?」


「やめない!」「やめません!」


「なら試しにイルマに聞いてみるけど、ルクシアとか言われて誰か分かる?」


「せんせの愛人ですか?」「違うよ!!」


 僕よりリリーの否定の方が早かったよ! 13歳ってこんなマセてたっけ? 日本で13歳だった頃の僕、異性とか気にせずネトゲしてただけだよなぁ確か……。


「これで説明しても絶対通じないって! 絶対!」


「えー、言ってみないと分かんないじゃないですか」


「ルクシアに転生させて貰いました! 終わり!」


「あっ! なるほど! あれ、転生ってアウフ……なんとかさんじゃなかったですっけ?」「アウフスタインね!」


 神トークになるとリリーが突然ハイスピードリアクションの子と化すな! ちょっと怖いよ僕! まぁオタクが自分の趣味の話されたら饒舌になるからそういうことだよ、ね?


「そんなこんなで色々あって転生してるから、同い年の子よりちょっと大人びてるってことで、一つ収めてもらえると」


「「ちょっと……?」」


「ちょっと! ちょっとだよちょっと!」


 必死の弁解が痛すぎる! 正直に言ってもこれだよこれ! だから言いたくなかったんだよ! イルマは僕に疑いの目を向けてるが、リリーの反応を見て「えー本気っぽい……」とちょっとショックを受けている。

 納得できないながらも理解はしたのか、黙って考え事をするイルマ。

 転生するという事実自体は、この世界では至極一般的な思考なのだ。人から人への転生も例がないわけではないし、歴史上に名を残す偉大な人が転生しているという伝説が残っていることもある。

 アウフスタインがどうやって人を転生させていたのか知らない以上、「有りうるんだろうな」くらいにしか思えないし。


「だからちょっとオッサン臭いと……?」


 ハッと何かに気づいたのか、イルマが突然そんなことを口走る。若干ショックを受けてフリーズする僕の代わりに秒で否定したのはリリーだった。


「え!? エミリオ君は良い匂いだよ!?」


「や、そうじゃなくて! なんか言動が若者とは思えないなーって。お師さまみたいだし……?」


 うん? ちょっと引っかかるワードが出てきた。

 お師さまって言ったけど、イルマは孤児だったよね?……アレ、ちょっと待て。そういえば脱獄組だから孤児だと決め付けていたけど、イルマからそんな話聞いてなくない?


「……うん? イルマって師匠居たの? それって魔法の?」


「ですよ? あとは一応育ての親的な……?」


 一応て、的なってなんだ的なって。それは自信を持っていってやれよ。可哀想だろお師さまが!


「会いに行かなくて良いの? そんな話してなかったから天涯孤独なのかと」


「やー、もう死んでるんで無理ですよ。5年くらい前かなぁ、反魂失敗してポックリと」


「……なんかごめんね」


 複雑な家庭事情な子は多いよね、そりゃ……。それは両親とかではないようだが、育ての親ではあるのだから。デリカシーないこと言っちゃったと少し反省。


「いやいや! 自業自得なんで気にしないで下さい! 滅茶苦茶遺産残してくれたからそれで豪遊してたら変な犯罪者に狙われちゃって、返り討ちにして遊んでたら捕まっちゃって……? 家自体は残ってるかもですけど、中に入ってた魔導書とか金目の物はとっくに空き巣にあってるだろうから、別に……?」


「……そっかぁ」


 まぁ、それもそうか。イルマは2年くらいはあの監獄に居たと言っていたから、それだけの期間、家を放置していたら空き巣には数え切れないほど入られるだろうし、金目の物が残っているとは考えづらい。

 反魂で死んだということは、光属性による蘇生魔法か、闇属性による死霊系統の魔法か。どちらにしろ普通ではない。

 青年モードを看破されたのはイルマが初めてではあったが、なるほど元から魔法使いから英才教育を受けた変な子だったってことだな! それならよかったよ! ショックも小さく済むね!


「……ところで、誰を反魂させようとしてたの?」


 純粋な興味として、聞いてみる。話題逸らしとも言うね。


「リュシアン・ルシュールって人ですよ。私は知らないけど、せんせなら知ってる? なんか偉人らしいんですけど」


 ……うわ、うわーーー!

 知ってる!その名前知ってるよ!

 僕の育った孤児院のある、リシャール出身の魔法使いだ。後世ではスキルメイカーと呼ばれ、スキルという概念を人間に植え付ける魔法を開発したとされている。

 偉人も偉人、歴史書なら絶対書いてあるくらいの人物だ。リリーもキョトンとしているところを見るに、2人は知らないようなんだが。


「……ひょっとしてイルマの師匠、エリク・オブランって名前だったり、しないよね?」


 一応、一応ね! 聞いてみる。

 エリク・オブランとは、ゲームの中で最も有名な死霊だ。そう、死霊、つまりエネミー、モンスターだ。

 人語を話せ、それどころか円滑なコミュニケーションを取ることもできる好々爺。ストーリーには度々登場するが、3周年目のイベントまで死霊ということを誰にも知らせなかった老人だ。「ちょ、ちょっとタンマ! ワシ死霊だからリバイブ喰らうと死んじゃう!」と叫んだことで、プレイヤー全員を「ハァ!??」とさせたNPC。夜にしか出ないとか得意なはずの光魔法を全く使わないとか所々に伏線はあったらしいが、正直そこまで重要な設定と思われていなかったので、その台詞を聞いた皆が衝撃を受けたものだ。


 彼の死因が、リュシアン・ルシュールの精神体を自信の肉体に転生させようとして失敗した結果というのは、それから語られることだ。なので一応、聞いてみることにした。


「えっそうですけど、せんせはお師さまと知り合いだったりします?」


「……まーじでー」


 ううん、そういえば可愛い弟子が心配だのって割と頻繁に言ってたような気がするなぁ。それイルマのことだったのかなぁ……。


「知り合いではないけど噂は知ってる程度、かな。弟子ってイルマ一人だけ?」


「うーん……だと思いますけど、私拾う前には居たのかも? なんか言ってたんです?」


居たとしても結構前っぽいな。つまりこれ、爺の語っていた弟子ってイルマのことで間違いなさそう。うーん、死霊になって生きてるよって教えるのは簡単だが、死霊は死霊だもんなぁ、生きてはないしなぁ。どうやら死んでから一度も会えていないようだったし、変なことは言わない方が良いかな。


「や、気にしないで。そっか、あの人の弟子かぁ……」


 感慨深いものがあるなぁ。イルマは成長後もゲームのストーリーに関わっていなかったとは思うが、僕の記憶に残っていないだけでNPCとしては出てきていたのかもしれない。昔の話だし、よほどインパクトが強くないと覚えてないんだよ……。


「なんか気になるなぁ……ま、死んだお師さまはもう良いんですよ」


「あ、ひょっとして術式解析とかも貰い物?」


「ですよー。こんな使い勝手悪いクソスキルしかくれなかったの今でも思い出すと腹立つんで、今度会ったら絶対ぶん殴ってやりたいけど、死んでるからなぁ」


「そうね……」


 うわ、言いづらっ。会う機会あるかもよって言っちゃうと、イルマの方向性が変わりそうなのでナシ。

 術式解析は自然習得不可能なスキルなので、クエスト報酬等で他者から貰わない限り得ることはできないスキルだ。魔力循環式を視界に映すことができるだけで、チート能力があるわけでもない。魔力の流れくらいなら解析スキルを使わずとも認識することは不可能ではないので、スキル枠をそんなので埋める必要はないと言われていた。

 まぁ確かに、よほどの達人でもない限り必要がないものだろう。


「とこでせんせの師匠って、あのカプレさんって本当ですか?」


「……うん? どこで聞いたのそれ」


 イルマによる突然の質問に、一瞬言葉が詰まってしまう。

 シスター、どんだけ有名人なの?

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