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ヤクと魔法のファンタジー  作者: 衣太
生活基盤
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3

 僕がリリーにしてあげられること。

 僕がリリーにしてもらいたいこと。


 強くなって欲しいとか、強く生きて欲しいとか、一緒に居て欲しいとか、そういうのは口に出して言うことじゃない。言ったことある気がするけど。


 口ではなく、行動で示すのだ。方向で示すのだ。彼女に一つの選択肢しか与えないことなんてしない。彼女が自分の意思でそう思ってくれるように、僕は誠心誠意努力する。


 それが、今の行動方針。


 ところで、僕はリリーとずっと一緒に居られるわけではない。

 目が見えないリリーは赤外線探知による簡易的な知覚を得たが、それで他の子供と同じことができるわけではないので、僕と一緒に居る分には構わない。けれど、特別扱いもそこまでできない。

 いくら好きでも、それとこれとは違うのだ。僕は子供達全員を監督して、導く責任がある。


 子供達に必要なのは、最低限の衣食住。これは僕が貯金をはたいて解消したので、今すぐに問題が出ることはないだろう。

 これまで廃棄された食料から料理を作っていた子供達も居たので、料理人の枠は子供達たちで賄えている。新鮮な食材を使えるというだけで喜んでいたくらいなので、技術としても申し分ないと思われる。何度も食べたが、僕的には大満足だ。子供達からも不満は出ていないが、30人分の食事を子供達数人で作るのは相当難しいと思われるので、近いうちにお手伝いさんが欲しいところ。


 すぐに足りないのは教育と防衛能力、そして生活能力だ。


 優先事項を順位付けよう。個人的に最優先なのは、防衛能力。ただしこれは『オリエ・ルージュ』からの派遣社員? いや出向社員? が居ればなんとかなるので、とりあえず保留。

 仮に傭兵なりを雇ったところで、次はその傭兵の衣食住の負担をすることになり手が回らなくなってしまう。今は『オリエ・ルージュ』の面子と僕だけでなんとかしよう。

 幸い、30人の孤児を襲ったところで奴隷にできる程度だ。国で禁止されている奴隷売買の為に、1人2人ならともかく30人が集団生活をしている屋敷を襲うのは難しいと思われる。

 基本的には僕が住み込みで、僕が出かける時は『オリエ・ルージュ』で腕の立ち、子供ウケが悪くない大人を借りてくることにしよう。


 そして教育となると、かなり問題がある。子供達の学習能力に、差がありすぎるのだ。ほとんどが孤児とはいえ、10歳くらいまで普通の暮らしをしていて孤児になった子と、生まれた時から親も身寄りもなく生きて来た子では差があって当然だ。

 同年代というだけで同じ学習ができるとは限らない。僕が人より少しだけ魔法に詳しいが、魔法だけ教えておけば何でも解決するような世の中ではない。

 僕は孤児院で勉強したからこそ、多少付いていけているだけなのだ。この世界に生まれて11年しか経っていないのだから、僕よりこの世界に長く居る子の方が詳しいことだって多い。そんな僕に教師など務まらない。こういうのはやっぱり、シスターのが詳しいのかなぁ?

 シスター・マリオンとシスター・エリーズの二人に手紙を書いておくことにする。


 そして最後は生活能力。僕がベルトランを継いでおり定期的に収入があるとはいえ、30人分の生活費には到底足りない。全員が成人するまでは持つとオリエに言ったものの、収入より支出の方が多い状態では、どこかで出費が増えると大変なことになる。それに成人したら放り出すわけでもなければ、別に慈善事業をしているわけでもないのだ。

 となると、今後の生活にために子供達が真っ当にお金を稼ぐ必要がある。勿論仕事などしたことがない子がほとんどで、子供だけでできる仕事なんてこの国にはそこまで多くない。王都にも労働基準監督署的なものがあり、違法労働者が居ないか調査しているらしいので、子供をそこら中で働かせるわけにはいかない。

 国への届け出も、「孤児への教育、生活の幇助」という名目で出しているのだから、仕事の斡旋をメインにするわけにはいかない。あくまで子供達に必要な分だけで済まさなければならない。


 一応、仕事のアテはある。今日はそれの為の打ち合わせだ。

 子供達をヨラヒムに任せ、ニッカとラウの二人を連れて、役所に向かう。賄賂を使ってアポを取ったから、追い返されることもないだろう。


 ……ところでヨラヒム、顔は怖いし仏頂面で笑顔とかを見せることはない怖いオジサンといった見た目だが、子供達、特に男の子からは異様に評判が良い。ひょっとして僕より懐かれてるんじゃない? って心配になるほどに。

 うん、僕はたまに子供達を呼んで話をする程度で、“何故か一緒に住んでる大人”くらいの認識をされてるからね……。もうちょっと認識改めてもらいたいという気持ちはあるが、今は裏作業に忙しくて直接顔を見合わせて話し合う機会がなさすぎる。


「先生って、何の先生なんですか? ていうか先生って何て名前なんですか?」


「うん? どうしたのいきなり。先生は先生だよ」


 役所に向かっている途中、ラウが突然質問してくる。

 リーダー格の二人だけを連れて行くのは、今後の話をするのに顔合わせが必要だと思ったからだ。


「ニッカが前に一度エミリオ先生って呼んでけど、エミリオが名前なんですか?」


「あー……うーん」


 そう、ニッカには僕がエミリオということはバレてしまっている。けれど直接説明したわけではないから、子供か大人のどちらが本当の僕なのか判断できていないようだ。

 バレたのも簡単な話、別にあえて隠そうとはしていなかったから、僕がリリーと一緒に居るところを見られたのが原因だ。

 リリーは二人しか居ないとき僕のことを「エミリオ君」と呼んでいるから、それを聞いてしまったのだけだろう。


「まぁ、そうなんだけど、あの子と名前被っちゃうから先生って呼んでもらってるだけだからね。ね? そうだよね? ニッカ」


 冷や汗を流して目を逸らそうとするニッカのことをじっと見つめ、強めの口調でそう言っておいた。

 一応、子供の僕の名前がエミリオというのは皆が知っていたことだ。名前が被るから言わせないようにしてたなら、充分通じる言い訳だろう。たぶん。

 僕と長い間一緒に居たのは同房だったニッカだけだし、ニッカが黙っていれば済む話だ。


「同じ名前なんてことがあるんですか! すごい!」


 ラウ君が馬鹿で助かったよ! ニッカのジト目を見るに彼は信じていないようだが、まぁそれは仕方ない。いつか説明する日も来ることだろう。

 屋敷の主が自分より若い子供と思われるのだけは避けなければならない。子供が知ってしまえばそれを屋敷の外の人間が知ることもできて、そうなると悪党に狙われる可能性も高くなってしまう。

 管理者が大人であることが、何よりも大切なのだ。ニッカならそのくらい察せるよね? ね?


「あの子をまた呼んだ時に呼び名一緒だと皆混乱すると思うから、当分は先生呼びでお願いね」


「はい!」


 うんうん、いい返事だ。学がないわけではないが、どうしてもアホの子みたいなんだよなこの子……。そういう性格なだけなんだろうが。


 二人には、これからの話を少しだけしてある。皆で自立するためにやることだからと、真面目に聞いてくれた。

 ニッカにはこれまでの準備も手伝って貰っているし、二人が子供だからと馬鹿にされたら、準備してきた様々なカードを切る予定だ。


 歩いて30分もしないうちに、目的の役所に到着した。

 王都港運課。それは、マスカール王国の首都である、王都ラングレーに存在する組織。王都を貫通する形で存在する運河に関する、全ての管理をしている部署だ。

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