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 貯金をはたいて、王都の郊外に木造の屋敷を買った。値段を考えると賃貸でも良かったのだが、子供達が長く住むことを思うと、なるべく自由に使える家の方が良いと思ったからだ。

 お陰で貯金が一気に減ってしまったが、必要経費ということで自分を納得させる。生活費以外で使う予定があったわけでもないお金だしね。

 屋敷は古い作りで、築年数も100年を超えている。実は支払金額のほとんどは土地代だ。王都の土地は、高いのである。


 家探しの時に最重要に考えたのは、全員が集まることのできる広い空間があること。

 30人の大所帯を収容できる部屋がある建物は少なく、結局この木造屋敷に落ち着いた。どうやら不動産屋は土地を少し安くする代わりに屋敷の処分費を購入者に支払わせる算段だったようで、屋敷をそのまま使うと言ったら少し硬直された。

 王都に狭くない土地を買えるほど金がある人間が、築100年の木造屋敷をそのまま残すわけないよね、普通。別に屋敷に穴が空いているとか虫が沸いているというわけではなく、単純に古いだけなので許容範囲だった。

 屋敷の延床面積は、僕の育った孤児院よりも相当広い。3階建てで、1階は広いエントランスホールが一つと小さな寝室が1つだけあり、2階に食堂と浴室に会議室程度の部屋が数部屋、3階が全て居室と分かれている。

 調度品もないので予想でしかないが、昔の貴族が使っていた別荘のようなものだろう。一般人なら居室を3階には置かないよね。


「はい、今日からここが、皆の家です。まぁ家と言っても何もないので、しばらくはここを皆で住めるところにするから始めましょう。何か質問はありますか?」


 エントランスに子供達を集め、呼びかける。

 この家を見つけるまでは複数の宿屋に分かれて生活していたので、全員が集まるのは久し振りだ。


「先生!」


「どうぞ、ラウ君。何でしょう」


 最初に手を上げたのは、監獄からの脱獄組ではなく、外で合流した孤児の少年だ。

 ニッカが収監前にリーダーとしてまとめていた孤児グループではないが、ニッカと昔からの付き合いがあり、彼からの強い推薦で受け入れることとなった子。

 ニッカが兄貴分なら、ラウは兄ちゃんって感じ。子供たちとの距離感が随分違うが、どちらもリーダー気質だ。


「屋根があるだけで、充分過ごせます!」


 ラウ君の言葉に、皆がうんうんと強く頷く。

 そうだよね! そんな反応になるのは予想してたよ!


「そうですね、これまではそうだったかもしれないけれど、これからは王都の住民として、真っ当に生きてもらいます。全員分の戸籍も先程取得しましたので、皆はもう孤児ではありません」


「そうなんですか!?」


「そうなんです」


 ザワつく子供たち。彼らをまとめるリーダーの3人すら慌てているので、予想していなかったようだ。物好きな金持ちに買われただけと思われてる節もあったからね。

 ちなみに僕は、子供たちの前では青年モードで居ることにした。全員が合流するまでは子供の姿のままだったが、目的地も近くなればこれからのことも話すことになるので、エミリオという少年は引率をする役割の雇われた子だった、という設定に切り替え、青年モードの幻覚を使用している。

 子供たちの前では、資産家兼魔法使いの物好きな青年、という設定だ。


「先生! 戸籍って何ですか!」


 手を挙げたのは再びラウ君。

 皆もキョトンとしているので、分からないっぽい。さっきザワついたのは、もう孤児じゃないという点に対してか。


「戸籍というのは、あなたは王都の住人ですよ、ということを証明しているものです。それがあることで街の正式な行事にも参加できますし、成人すれば選挙権や政治家への立候補する権利も与えられます」


 リシャールにも住民情報を管理する機能はあったが、それは戸籍というほど詳細な情報ではない。

 誰がどこに住んでいるかを示している程度の物だ。それに対して王都の戸籍システムは両親は誰でどこで生まれていつ王都に入っていつ戸籍を取ってどこに住んでいるのかまでを全て記載している。二重取得の防止の為にいくつもセーフティがあるようだが、僕の場合は役人を金で黙らせた。孤児を集めて衣食住を提供して勉学を教えるという名目があったので、賄賂も少なく済んだのであった。

 ちなみに両親の欄は全員分を不明で届けている。それでも戸籍の申請ができたのだから、孤児を受け入れる環境はあったのだろう。


「す、すげえ!」


「いやラウお前、何も分かってないだろ」


 鋭い突っ込みをするニッカ。うん、僕も理解させるつもりはなかったんだよね……。


「分からねえけど、すげえってことは分かったぜ!」


「馬鹿! 分からない時は分からないって言えって言われてるだろ!」


「そうだった! すみませんよくわかりません!」


 ラウとニッカはリーダー同士ではあるが、性質は全く違う。なんていえばいいのだろう。「俺についてこい!」と「俺が守ってやる!」の違いだろうか。勝手に先に進むラウと、皆を見ているニッカ。どちらも子供たちからしたらリーダーであり、ヒーローだ。


「まぁ、それは分かるようになってからでいいので、これからの予定を話しましょう」


「「「「はい!」」」」


 うんうん、良い返事だ。

 子供ってのはこうでないとね。え、僕? 知らんて。ごめんて。


「まずはラウ君のグループは、ベインさんと一緒に近所の挨拶回りに行きましょう。子供ばかりでこれから迷惑を掛けることもあると思うので、ご近所付き合いは大切です」


「はい! 行ってきます!」


「行ってらっしゃい。ベインさん、お願いします」


「ええ、分かりました。今日だけですからね」


 今日に限り、『オリエ・ルージュ』からは助っ人を呼んでいる。正直な話、子供達30人を別行動させるのに、僕一人では面倒を見切れないからだ。

 ベインは組織内では最もコミュニケーション力が高い渉外担当、交渉官という立場なので、挨拶周りに彼以上の適任は居ない。

 10人を越える子供達を引き連れる姿を見ていると、引率の先生か何かに思えてくる。彼ちょっと教師っぽいしね。


「次、ニッカのグループは、当面必要なものをリストアップしてあるので、それを参考にして買い出しに行ってきてください。こちらのグループには、ヨラヒムさんが着いてきてくれます。お店の場所など、しっかり覚えてきてください」


「はい! 頑張ります!」


「了解した。ところで予算、こんなにあるのか?」


 財布を持たせているのもヨラヒムだ。流石に子供達に大金を持たせて、スリにでもあったらたまったもんじゃない。

 孤児時代はスリで生計を立てていたような子も居るので、加害者を被害者にしたくもないし。


「ええ。30人分の必需品だと、そのくらいかかるでしょう?」


「安く済ませることはできると思うが……」


 財布の中身を見て目を見開くヨラヒムと、後ろからチラっと中を見て白目を剥くニッカ。その二人を見るほかの子達はいくら入っているのか予想を始めている。


「安かろう悪かろうで頻繁に買い換えるくらいなら、成人するまで使えるようなもので、お願いします」


「分かった。最近は王都まで来ることが少なかったら、時間がかかったらすまん」


 そう謝るヨラヒムは、20年ほど前は王都出身の貴族で騎士候だった男だ。

 貴族では下々の暮らしは分からないかもと思ったが、彼の家系は貴族思想に毒された性格ではなかったようで、普段は平民と同じように街中で生活していたとか。

 彼も彼で適任だ。というか、『オリエ・ルージュ』内で子供達の面倒を任せられそうなのがこの二人くらいしか居なかったというのはあるが。


「明日まで長引きそうだったらどっかで切り上げて戻ってきて下さいね。明日の分の給料は1,25倍の割増で払うので」


「あ、ああ……」


 ちなみに二人にはちゃんと日雇い給料を払っている。大事だよね、そういうの。親会社の社員という扱いではあるが、出向で使うならば給料を支払わないといけないのは当然だ。二人は前払いの給料を受け取って相当驚いていたので、ここでは一般的な思考ではないかもしれないが。


「では、行ってらっしゃい」


「「「「はい!行ってきます!」」」」


 ニッカをリーダーに置くグループには、監獄に収監される前からニッカが保護していた年少組が居るので、平均年齢は一番低い。そういう意味でも、土地勘があり元騎士であるヨラヒムに任せたら安心できる。


 2グループを見送ると、最後に残ったのは所謂居残り組だ。

 残った人数は8人。ニッカやラウのグループには所属しておらず、こちらに来てからも彼らの下につかなかった子達。

 残ったのは、グループと呼べるものではない。8人組ではなく、1人が8人居るのだから。

 一匹狼な子、何を考えてるか分からない子、全く喋らない子、誰とでも話す子と種類としては様々だが、これらをグループとしてまとめるのは無理とすぐに判断できた。30人を自由にさせると、自然と群れるものなのだ。それなのに誰とも話さなかったり、皆のところをうろうろする子は、性質的に集団に向いていない。

 自分がそうだったから、よくわかるのだ。僕がこのくらいの頃は、誰とも遊ばず、ずっと一人で遊んでいたのを思い出す。


「で、残った君達にも、やることがあります」


 ニッカやラウのグループなら誰かしら返事をする場面でも、皆は無言でこちらを見ている。話を聞かないよりはマシだよ、うんうん。この子らも行き場がなくてここに来たのだから、追い出されるような事態は避けたいはずだ。

 子供時代の僕なら話も聞かずそっぽ向いてたような気もすることを思うと、話を聞く姿勢を見せてくれるだけで充分だ。


「まずは、屋敷の掃除――あ、そこ! モーリス君は露骨に嫌そうな顔しない!」


「だって自分の部屋の掃除ならさっきしたし……」


 最初に反抗の姿勢を見せたのはモーリス君。脱獄組の一匹狼タイプ。とはいえまだ13歳なので、子供の反抗期みたいなものだ。反抗はするが追い出されたくはないので最初に言われた自分の部屋の掃除はキチンとしているあたり、悪い子ではないんだよね。


「モーリス! ちゃんと先生の話聞かないといけないでしょ!」


「だって……」


「だってじゃない!」


 モーリス君を叱るのは、同部屋のジェンナ。15歳女子。誰とでも話すタイプであり、コミュニケーション能力はズバ抜けて高い。ちなみに彼女は脱獄組ではなく、孤児組だ。ただ彼女の場合はニッカやラウとは違い、定住する家がないだけでこれまでも仕事はしていたようだ。孤児を集める物好きが居ると風の噂で聞いて紛れ込んだ子。面倒見はいいが、同年代の男の子に従うのは癪のようで、居残り組になっている。

 男勝りな性格なので、本人の希望もあり、男子との同部屋だ。そのへんは誰も気にしていないようだ。ニッカやラウのグループにちょっとだけ居る女の子みたいなものかな。


 ジェンナに叱られてしょぼくれるモーリス。うん、ホント悪い子じゃないんだよね……。このくらいの歳だと女の子の方が発育が早いので、ジェンナの方が相当上背だし、体格も良い。だからモーリス君からしたら突然できた姉に叱られるようなものなんだよね。


「部屋の掃除は先程やってもらいましたが、まだ残ってるところがあります。どこでしょう?」


「ここ!」


「はい、正解ですイルマ。ただここはニッカ達が帰ってきたらすぐに汚れることになるので、まずは2階の掃除から始めましょう」


 イルマは脱獄組。たぶん13歳の少女。たぶんというのは、本人が誕生日を知らないからだ。何を考えているか分からないタイプだが、たぶん頭が良すぎるからだと思う。普段はぼーっとしているように見えるが、脱走の際に僕が使った魔法について色々と質問してきたところから考えるに、それなりに魔法の心得があったようだ。集めた30人の中で最初から魔法が使えた、数少ない子。


「リリー以外は、2階の掃除をして下さい。それが終わったら昼食です。終わり次第、食堂に集まって下さい。……リリーは残っててね」


「え?」


「やーい、先生に呼び出し受けてやんのー」


「デニスはそうやって煽らない! 皆行くよ!」


 脱獄組の12歳少年デニスをジェンナが引っ張っていき、7人は2階へ上がる。

 グループと呼べるほどではないが、居残り組の中ではジェンナが最年長なのでまとめ役にはなってくれている。実質、リーダーのようなものだ。

 デニスとモーリスの2人だけが男子で、残り6人は女子。他のグループと比べても圧倒的に高い女子率なので、年長のジェンナが適任だ。


 1階に残されたのはリリー、ただ一人。


「リリー、僕の部屋来てくれる?」


「は、はい」


 女の子を部屋に連れ込むのは犯罪とか言うな!そんなこと言ったら子供30人抱える時点で死刑になってしまう!


 彼女の手を引き、部屋まで案内する。僕の部屋は1階だ。3階は子供達のスペースにしたかったので追いやられた形になるが、低層階の方が落ち着くので構わない。

 リリーは、監獄で見つけたあの少女だ。目が見えない、僕が集団脱獄をする原因を作った子。

 あの時はぼろきれのような布だけを身につけていたし、全身が汚れていたので分からなかったが、入念に体と髪を洗ってもらってちゃんとした服を着せると、完璧な美少女が出来上がってしまった。

 光に当たると輝いて見えるほど透き通った金色の髪。人形のように、光を映さない瞳。不健康に見えるほど白い肌。

 うん、僕はこの子に惚れたんだ。もうこの際ロリコンと言われようが構わない。そもそも僕は今11歳なんだし、12歳のリリーより年下だ。

 うっせ!誰がロリコンだ!


 頭の中でノリツッコミをしながら部屋に入る。彼女をベッドに座らせて、僕は小さな椅子に座る。

 この部屋は僕が生活するために真っ先に家具を入れた。家具と言ってもシングルベッド1つに小さな机と椅子が一つ、他にあるものは本棚くらい。

 目が見えない彼女に回転椅子を勧めるわけにはいかず、ベッドに座らせることとなったが、別に今すぐ襲い掛かるつもりではないよ。


「ええっと……エミリオ君、だよね?」


 恐る恐る口を開く、リリー。この屋敷で僕に君付けするのはリリーくらいだ。


「そ、エミリオです」


「なんで皆、先生って言ってるの……?」


「そう呼ぶように言ってあるからね」


「けどエミリオ君、私より小さい、よね……?」


「……そうなんだよなぁ」


 そう、彼女は目が見えていない。

 生まれつきのものではなく、後天的なもののようだ。あまり話そうとしなかったので、理由は聞いていなかった。

 目が見えない代わりに、目以外の全ての情報で対象を認識している。僕は手を引いてこの部屋まで連れてきたが、彼女一人でも3階の自室に行くこともできるらしい。誰にも言わず階段を登ろうとするので、慌てて皆が手助けに行くのだが。


「リリーは目が見えてないから、幻覚見えてないんだよね」


「え? ……幻覚、使ってるの?」


「そ、光属性の幻惑系統。対象の視覚情報を誤認させて僕を25歳くらいの大人に見せてるの」


「……え?」


 疑問の表情を浮かべるリリー。僕の使っていた幻覚に全く気付いていなかったような顔で、こちらを見る。

 幻惑系統による幻覚は、僕を見た者に対する映像の強制投射だ。

 一見さえすれば自動的に発動し、僕の姿を誤認させる。これを24時間365日続けていたシスターと違い、僕はそこまで長時間持たせることができないので、実は皆が見ていない時は全く使っていない。屋敷でも街中でも、一人の時は子供の姿だ。


「つまり、目が見えてないリリーだけ、僕の幻覚が通じてない。実は声も同じように幻惑系統の魔法で弄ってるけど、視覚情報にアクセスできてない以上、リリーにだけ幻覚が通ってないから……体格も声も、監獄で会ったままに感じるんだよね」


「う、うん……140cmくらいの、男の子……だと思う。私より年下くらい……?」


「正解。ま、ワケあってこんなことしてるけど、おかしいと思ってても皆に言わないでおいてくれたんでしょ?ありがとね」


 それに関しては、素直に感謝しか言えない。僕が子供と分かっていながら、皆が僕のことを先生と呼んで言うことを聞いているのを疑問に思っても、何も言わないでいてくれたのだ。


「うん……なんでだろうって思ってたけど、私だけ目が見えていないから、それで勘違いしてるのかなって、黙ってたの」


「勘違い……ね」


「そういうの、昔からよくあった、から……」


 彼女はそう言って下を向く。

 美少女だが、目が見えなく、そしてこんな性格。年頃の男子からしたら、「構ってあげたいが、下手なことを言えない」相手だ。居残り組の女子も目を光らせてるから、デートの誘いとかはできないだろう。できて立ち話くらいか。


「そっか。……これまでどうやって過ごしてきたか、教えてくれる?」


「えっと……お母さんと別れてから?」


「話してくれるなら、どこからでも」


「う、うん……えっと……」


 彼女は、少しずつ話してくれた。

 これまでの人生を。12歳とは思えないほどの、過酷な運命を。

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