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「……なぁ、エミリオ」


「なんですかボス」


 脱獄は完了した。脱獄してからマスカール王国に戻ってくるまでに2週間ほどかかったが、僕が至る所に預けていた個人的な貯金のお蔭で大所帯でも無事帰って来ることができたのであった。

 『オリエ・ルージュ』のアジトである居酒屋に戻ってくると、イザークは瞬く間に皆に攫われてどこかへ連れて行かれた。僕はボスに「ちょっと来い」と呼び出され、個室にゴー。


「お前にボスって言われるとちょっと気持ち悪いな。……じゃなくて、俺はイザークを脱獄させろって言ったよな」


「ええ」


 うんうん、確かにそう命令されたね。命令というかお願いって感じだったけど、構成員になったばかりの僕にそこまで忠誠心があるとは思ってなかった感じのお願いで。


「ガキ大量に連れてこいなんて言ってねえよな!?? ウチは孤児院じゃねえんだぞ!?」


「あはははは」


「笑ってんじゃねえ! どうするつもりで連れてきたんだよ!」


 ジョッキを机に叩き付け、そう叫ぶボス。ちょっと涙目なのはイザークが帰ってきたからか、僕が厄介事を連れてきたからか。

 ここに来るまでにイザークと色々話していたから、話がこじれるのは予想できていた。結局オリエを納得させられるほどの言い訳が思い浮かばず、出たとこ勝負で子供を大量に連れてきたわけなのだが。


「ボスなら子供働かせるコネとかないんですか?」


 とりあえず聞いてみる。僕を拉致ったくらいだしね!


「ねえよ! できて奴隷送りだっつーの!」


「それは困るなぁ」


「こっちも困るんだよ! 構成員としてガキ使うとか危なすぎるじゃねーか!」


 正論すぎる! けどこっちにも反論できる要素があるんだぞ!

 オリエとダイン、あとイザークの3人だけしか知らない切り札だ。フフ、もう幻覚で青年モードになっているから忘れてるかもしれないが!


「僕もガキじゃないですか!」


 11歳! これは確実にガキでしょ! 子供たちと言っても、連れてきた子供の中でも僕は若い方なのだ。

 年齢の話をしても誰も年下扱いしてくれなくてちょっと悲しかったが、ニッカだけはずっと兄貴分として僕に意見してくれたの、ちょっと嬉しかったよ。


「ババァの弟子なら3歳でも魔法使えそうだからな!? どこがガキだよ!」


「いやぁ、3歳だとちょっとしか使えなかったですよ」


 うんうん、3歳で使えた魔法なんてほとんどないよ。ちょっとは使えたし知識はあったが。


「ちょっとは使えたんだな!? 俺魔法使えるようになったの15なんだが!??」


「フフフ……」


「笑うな!気持ちわりい!」


 ちょっと煽ったら怒られた! 悲しい。ていうかボス、僕が11歳なの絶対信じてないよね。シスターみたいな人外種族かなんかと思ってる節、ない?


「いやまぁそれは置いといて。子供たちの処遇なんですけど」


「11歳で処遇なんて言葉、使うか……?」


 無視だ無視無視。子供時代なんて20~30年くらいは前なんだから、どんな喋り方しててどんな風に考えてたのかなんて覚えてないよ。


「ここで預かれないなら、僕が勝手に使おうと思うんですけど、どうでしょう」


「……いや使うって、お前、ガキはほとんどが孤児なんだろ? 何に使えるって言うんだ?」


「まぁ……色々と」


「食わしてくだけでも、相当難しいと思うが……」


 急に同情ムードになったが、これは間違いなく、オリエが過去に経験したことだからだろう。

 ならず者の集まり、アウトロー集団、浮浪者犯罪者のグループ。それらを一人前のアウトローに育てるのは、並大抵の努力ではない。集団としての体を成しているだけでも奇跡的なのだ。

 最古参は一桁歳の頃からの友人らしいし、どれだけ苦労したのか、僕には理解が及ばない。

 けれどそれは、“明日を生きる金もない”前提だったからだ。僕は違うよ。


「あ、それは問題ないです。貯金は結構あるので」


「……そういやお前、当代のベルトランだったな」


 思い出したかのようにため息を吐くボス。そう、育ちが違うのだよ育ちが!

 あ、ごめんなさい調子に乗りました。運が良かっただけです、はい。


「ええ。30人くらいなら、成人まで余裕で食いつなげるかと」


「……いや貯金ありすぎだろ!?」


 ちょっと悩んだ末に突っ込まれたが、実は成人まで食いつなぐどころか成人まで豪遊できるくらいの貯金がある。麻薬組織様様だよ。

 ちなみに、今リシャールに居ないのに僕の銀行口座には金が増え続けている。しばらく戻ってないけど、ベルトランを辞めたわけじゃないからね。不労所得万歳! シスター・マリオンに戻ってこいって言われたら戻ろう。別に代表だけしかできない仕事があるわけでもないから、あまり想像はつかないけど。


「というわけで資金的には問題ないので、ボスが使わないならこっちで別組織立ち上げる感じで、どうでしょう」


「それなら別に構わねえが……組織っつっても、何やらせる予定なんだ?」


「えーと……言わなきゃ駄目です?」


「駄目だな。ウチとお前とガキが繋がってることは、脱獄の件でバレちまってる。マスカールにその情報が届くのも時間の問題だ。つっても、逃げたガキを捕まえるために何かをするとは思えねえが……。ガキがやらかした時、飛び火が来る可能性はあるんだよ」


「……なるほどなぁ」


 魔法を使えないはずの監獄から、魔法を使って脱獄したのだ。大ニュースになりかねないが、アールバリは必死に隠そうとするだろう。何てったって、とっくに出所しているはずの子供達が実は監獄の地下に捕えられていて悪趣味なショーに使われていたなんて、言えるはずもないからだ。

 周辺国に言えることなんて、精々僕とイザークが脱獄したってことくらいだ。あの時コロシアムに居た観客は皆死んだはずだし、看守の中にも数人死者が出ている。それでも重犯罪者として指名手配するには、“魔法を使えないはずの人間が魔法を使って人を殺した”ことを証明しなければならないし、コロシアムで行われていたのは明らかに非公式非合法なショーなのだから、観客の身内が訴え出るのも難しいだろう。

 コロシアムあたりの話は、オリエにはしていない。しない方が良いとイザークが言っていたので、話さないことに決めたのだ。結果的に多少の誤解は生んでしまうが、仕方のないことだ。


「つーわけで話せ。別組織っつったって、元からやるつもりだったんだろ?」


「ええ、まぁ。断られるのは予想してましたし」


「いや……ちげえな。お前のことだ。最初からソレするつもりでガキ連れてきたんだろ?」


「あ、やっぱバレます?」


 う、頭の回転が早いな! 実際にそうなのだから否定できないのが痛い。


「白状が早いなぁ! で、何をしたいんだ?」


「んーと、ちょっとあの子ら全員、滅茶苦茶強くしようかと」


「……ハァ?」


 オリエのそれは、「何を言ってんだお前は」の顔だ。監獄でも他の囚人にはよくされたよ!

 ううん、説明しないと駄目だよね、やっぱり。


「言葉通りです。今から20年くらい後にちょっと洒落にならないことが起きるので、戦力を整えておきたいんですよね」


 それが、子供達を連れてきた目的だ。

 帰りたい場所がある子は連れてこなかったし、ついでとばかりにニッカが監獄に入る前に保護していた孤児達やその友人も全員回収してある。結果、30人の大所帯となったのだ。


「……いや、20年て。お前未来から来たとか言わないよな?」


 呆れ顔でそう聞いてくるオリエ。正直に言ってもたぶん信じないよね、普通。シスターがおかしいんだよ。


「まさか。ただ、シスターがリシャール出て王都に行ったのと関係してると言えば、納得してもらえます?」


 僕がそう問うと、オリエは言葉を返さず頭を抱えて俯いた。彼、いや彼らにとってシスターとは人外の存在であり(実際に人ではないんだが)、何を考え何をしでかすか分からない謎の生命体だ。

 それはもう、言い換えれば神みたいなものだ。自身が信仰していない神が何をするか分からないのと同じで、遠く及ばない高次元存在が何をしているのか全く理解できないということで。


「……オッケーだ。元からイザークを取り戻した時点で、充分すぎるくらい役目を果たしてくれた。当分お前に回す仕事はねえよ」


 オリエが絞り出した回答は、望んだとおりのものだった。

 元から『オリエ・ルージュ』には押しかけただけであり、僕が積極的に関わるほどの役割があるわけでもない。顧客へ販売するために麻薬を作るくらいはやっているが、そんなもの片手間にできる。期限1週間を無くしてしまえば作り置きもできるのだし。


「ただ一応、近況だけは教えろ。毎日とは言わねえから、普段はどこに住んで何をしているかを定期的に報告するだけでもいい」


「分かりました。ボスも、子供の駒が欲しかったらいつでも言ってください」


「あぁ分かった。そうそう、ガキを強くするって、具体的には全員魔法使いにするってことか?」


 ゲーム内に存在したロール系職業はプレイヤー専用のものであり、この世界、NPCにとって職業・クラスの概念はない。故に、体属性しか使えなくとも、魔法使いではあるのだ。

 だから否定もできないが、肯定もできない。まぁ、その辺の話は今は良いか。


「戻ってくるまでに適正は確認したので、大体はそうですかね。ただ魔法以外に才能ある子も居たので、全員ってわけでもないですけど」


「……それ、ウチのヤツも行かせて大丈夫か?」


「いや、構わないですけど……。僕一人では教師役が務まらないので、外部から数人雇うつもりだったんですが」


 僕の魔法知識には偏りがある。それは、“こちらに来てからほとんど使ってないが、ゲーム内で使っていたので知識はある”だったり、“適正の関係上使えない”であったりと様々だが、師匠として教えられるのは、一部の属性に限られる。

 それに、今の僕の限界値程度になっては困る。それなら全部僕がやればいい話になるからだ。

 属性によっては僕より強くなってもらわなければ、育てる意味がないのだ。だから師匠が必要だ。多少なら金で解決できるとは思うのだが、他にも色々と考えなければならない。


「いや……ガキに教えるくらいはできるだろうが、お前に師事したいって奴が何人か居てな」


 オリエの言葉に、固まる。今の聞き間違えじゃないよね? 僕に師事して何すんの? 麻薬作りたいの? 門系統は教えれないし、魔法使いとして成長している大人より優れている属性なんて、毒と土くらいのものだ。残りは知識の積み重ねでしかないのだが。


「は? 弟子ってことですか? 僕11歳ですけど」


 ようやく言葉が出てきた。11歳だよ11歳。平均40歳くらいのアウトロー集団に、何教えるって言うんだよ。


「ガキだろうが何だろうが、自分ら以上に魔法使える奴なら構わねえって話だ。この歳になると、今更外の人間に聞けるわけねえんだよ」


「ま、それはそうですね」


 僕が師匠欲しいくらいなんですけどとは、口が裂けても言えなかった。うん、シスターの弟子ってことになってるからね、僕。

 ここに居るのは脛に傷のある者だったり、表舞台には立てない者が多い。今更魔法を覚えようにも、どこで覚えれば良いんだって話だ。ううん、けど子供に教えるのとオッサンに教えるのでは話が違うのだが。大人が居ると外部から呼ぶのも難しくなるし……。

 まぁ、そのくらいの頼みは聞いておこう。一応、彼の部下なのだし。

 大人が居るのは悪いことばかりではないはずだ。彼らも身なりさえ整えればそこらへんの大人に見える……はず。たぶん。きっと。


 ……ちゃんとした大人に、見えるよね?

 不安だ。不安すぎる。

 僕がどれだけ不安に思おうが、それを子供達に知られるわけにはいかないので、なんとかしないといけないのだが。

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