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 雑居房での自由時間。寝ても良いし、起きていても良い。

 特にやることがないので、同室の子と話すか昼寝するかのどちらかだ。


 6人用の雑居房ではあるが、今は僕ともう一人の少年しか居ない。数日前まであと2人居たのだが、満期で出て行った。

 同室の少年の名前はリーン、12歳。スリの現行犯で捕まったが初犯で罪は軽く、半年くらいで出れるらしい。

 ……ちなみに僕は薬物取締法違反で捕まった。日中から堂々と麻薬配ってたら捕まったよ! 当たり前か!

 簡単な裁判もあったが、身内も居ない子供である僕がまさか麻薬を作った張本人だとは誰も思わなかったようで、あくまで売人として裁かれた。刑期は2年。ちょっと長い。


 ここに辿り着くまでの4ヶ月、全部同じように捕まっている。インターネットもないので他の地域で捕まった人間についての情報は回っておらず、全く同じ手口で収監され、監獄内でイザークを探し、居なかったら脱獄を繰り返していた。


 脱獄できないはずの監獄を簡単に脱獄できるのも、僕が子供だからだ。

 基本構造はゲーム時代の20年後と変わっておらず、そしてどこの監獄も全く同じように作られている。よく言えば効率的、悪く言えば手抜き設計。

 僕は、ゲーム知識を生かして簡単に抜け道を作ることができるのだ。魔法を使わなくとも、1週間あれば逃げ出せるほどに。

 もっとも僕は重犯罪者という扱いではないから雑居房の監視もないし、看守も子供には甘い。それ故に簡単に脱獄できているだけであり、同じようにイザークを脱獄させるのは困難だ。


 重犯罪者として収監されているイザークの雑居房は6人部屋で、常に1人の看守につき2つの雑居房を監視している。イザークは魔法使いなので肉体だけでは何もできないのだが、同房の者は彼ほど肉体強度が低くないので集団で襲われたら看守も危ないかもしれない。それ故に万全の監視システムが整っており、雑居房前の看守を倒したところで周辺に隠れる第二、第三の看守が飛び出してくる。

 そんな監視体制の雑居房から、僕みたいに逃げ出すのは困難だ。


「なぁエミリオ、魔法ってどんな感じなんだ?」


「うん? どうしたのリーン。急にそんなこと聞いて」


 雑居房で夕食の配給を待っている時、リーンがそんな質問をしてくる。


「いやエミリオって魔法使えるんだろ? しかもエリートしか入れないA級作業場! 魔法も使えない俺じゃD級にしか入れないし……」


 彼の居るD級作業場は、鉛筆や木製の小物を作っているらしい。小さいとはいえ刃物を取り扱う作業場なのでA級作業場と違い大勢の看守が監視する中作業しており、入退室時の手荷物検査も相当厳しいとか。


「うーん、一日ずっと書き物してるだけだよ。リーンは勉強嫌い?」


「嫌い!」


「じゃあ楽しくないと思うなぁ。皆黙って書き物してるだけだし、手とか目とかすごい疲れるんだよ」


 実際にそうだ。僕はこの世界に来てからここまで真面目に勉強したことはないほどに、真面目に作業に取り組んでいる。

 僕の覚えている魔法は実用性特化で、他人に使わせることなど想定していなかったから、万人が使えるようスクロールにまとめる作業とかがとんでもなく苦手だ。

 ならばと魔道書の写本をしようにも、頭を使わずにただ同じように書き写すのはそれはそれで苦痛。頭を使わないといけないだけ、スクロールの作成の方が多少は気が楽だ。


「でも休憩とか自由に取れるって聞いたよ?」


「急いで仕上げないと大したお給金も貰えないし、食事休憩以外で休憩してる人はあんまり見ないかなぁ」


「そ、そうなんだ……」


 理想と現実のギャップに落ち込むリーン。ごめんね、嘘をついてるわけじゃないよ。

 確かに疲れる作業ではあるが休憩どころか作業内容すら自由選択だから、衆人監視の中何かを作るよりは随分楽だろう。それは言わないでおくけど。


「そういえば、昨日作業場で噂になってたことなんだけど――」


 一番多い時で6人だった雑居房が今や2人になったことで話し相手が少なくなり、リーンはよく僕に話を振ってくるようになった。

 一言も喋らなくとも生きていける僕とは違い、同じくらいの年の子供は皆割とよく喋る。というか大人もよく喋る。刑務所だと会話以外に娯楽がないからだろうか。

 それ故、よくわからない噂話というのは面白おかしく脚色されたものが回ってくるし、どこかで聞いたことある都市伝説のような話だったりと様々。

 皆が、自分の聞いた話を更に面白く聞かせるために少しだけ脚色、――というのを何十、何百、何千人が繰り返せば、それは一本の作品と言っても過言ではないボリュームの壮大な話になってしまう。僕の作業場ではそんな話をする者は少なかったので、今どんな話が流行しているのかを知る手段はリーンの口から聞くほかない。


 曰く、この監獄にはコロシアムがあるとか。

 曰く、態度が悪い衆人を殺し合わせて、看守達が娯楽として楽しんでるとか。

 曰く、それには国が関わっているとか。

 曰く、一部の貴族が身分を隠して見に来てるとか。

 曰く、仮出所が増える時期には、実は外ではなくコロシアムに連れて行かれて殺し合いをさせられている者も多いとか。


 最近の流行は、コロシアム話らしい。

 誰がどこで聞いたかも分からない噂話。しかし、僕は知っている。

 この監獄の地下に、コロシアムのような空間があることを。


 コロシアム話が流行し、誰かが脚色したのか話が少しずつ細かくなるにつれて、僕は危機感を覚えるようになってきた。

 あるもん。マジで。ここ。

 20年後の世界では使われてはいなかったようだが、設備的には完全にコロシアムだった。

 野外ではなく地下施設なので天井はあまり高くないが、周囲には観客席があり、決闘者が出てくるであろう柵が左右に一箇所ずつあったり……。あれは完全に、噂通りの催しをするための設備だった。


 ……さてここで問題。あのコロシアムが、ゲームの20年前には現役だったとしたら?

 これから20年の間に何か事件があって、使われなくなったとしたら?

 ううん、既に使われていない可能性もあるし、殺し合いとは別の催しで使われる――運動会とかか? あるわけねえだろ! え、いや、ないよね?

 噂話を本気で聞いてしまうのは、危機感があるからだ。別に数十年前に使わなくなったとかならいいんだけどね。最悪のパターンは考えておかないとね。


 そうやって想定する最悪のパターンを引く才能があることを、僕はすっかり忘れていたんだ。

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