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 居酒屋に戻り、決闘の結果を全員に伝えるヨラヒム。

 ちょっと誇張してる気もするが、気のせいだろうか。自分が負けたのに「大したことなかった、油断しただけだ」なんて言ったら、自分の株が落ちるだけだしね。逆に強く誇張すれば、「負けても仕方なかった」と取れるし。


「サラマンドル止めるとか、凄いじゃねえか!」


「防御だけで格の違い見せ付けるとか、やるねェ!」


「それ、俺にもできねえかな!?」


 褒められて質問されて感動されて、これまで感じたことのない空気に思わず、「けどシスターは僕じゃ絶対勝てないくらい強いですよ」と言うと、皆黙ってしまった。

 一部の者は自分の両肩を抱きかかえて震える始末。軽率にトラウマ掘り起こしちゃってごめんね……。

 いかにもアウトローな大人達が揃って震える姿は結構怖いものがある。


「仮にサラマンドルより強い魔法打たれたら、同じように消せるのか?」


 唯一平常心を保っていたオリエが、空気を戻そうと質問してきた。


「一回消すだけでいいなら、魔力値2万くらいまでならギリ行けるかな……」


 試したことはないが、精霊が消せたならいけるはず。希望的観測でそう返すと、皆が声を揃えて「おう……」と唸る。

 今現在僕の魔力値は17000。麻薬魔法を使って上限を突破し、栄光門なりで魔力を吸収することができれば2万までなら届くはずだ。魔力値が届けば実質消せるはずだが、そこまでの綱渡りは極力したくない。

 そもそも、魔力を2万消費する魔法なんて聞いたことがない。そんな魔法が使えるのは、精霊か神くらいのものだ。


「……ちなみに、サラマンドルより強い魔法も使えるのか?」


 恐る恐る聞いてくるヨラヒム。どうやら、アレは彼の必殺技だったらしい。

 発動までして敵を倒せなかったことはないとか。……ちなみにシスターを相手にした時は詠唱すらさせてもらえなかったらしいが。

 相手が格上すぎると、まぁそうなるよね。魔法使いに勝つ一番簡単な方法は、魔法を使われる前に倒すことだからだ。


「それは……無理ですね」


 正直に答えておく。そもそも、僕の戦い方は仲間の後ろに隠れて高火力の魔法を詠唱する後衛タイプでなければ、短い詠唱で中威力の魔法をマシンガンのように乱射するヨラヒムのような中距離タイプでもなく、超短距離で殴りかかる体属性魔法に特化した戦士タイプでもない。

 決闘のような形式で戦うならどうしてもあのような戦い方になってしまうが、殺しでも良いから勝ちに行けと言われたら真っ先に毒属性の魔法を使う。

 相手に麻薬を吸わせて意識を失わせるとか、全身を麻痺させるとか毒状態にさせるとか、そんな戦い方をするべきなのだ。

 決闘なら、開始と同時に空気中に麻薬を散布して吸わせるのが一番手っ取り早いか。

 そう、つまり卑怯なスタイルなのだ。それは、決闘という場を汚してしまうほどに。


「メインは毒属性なので、大した威力はありませんよ」


「俺は、メインですらない属性にやられたのか……?」


 露骨にショックを受けるヨラヒム。めんどくさいなこいつ。

 実は彼クラスの火属性魔法使いを相手にすると、麻薬系統はかなり使いづらくなる。

 火属性の中でも特に炎系統と煙系統の使い手は、魔法によって一酸化炭素や有毒ガスを発生させてしまう。その為、術者は魔法やスキルによって自身の生み出した有毒ガスを吸わないように、吸気を調整することができる。

 麻薬を散布する時は、僕も同じことをするのだから当然だ。

 有毒ガスや有害な塵を吸わないよう対策されてしまえば、空中に散布した麻薬も通らなくなる。勿論魔法を使っていない時にもそのような呼吸をしている人間は居ないだろうが、一度炎を出してしまえば常に麻薬散布の対策をされているようなものだ。


 それならば毒系統の魔法を使えば良いのだが、生憎そこまで育っていない毒系統魔法では、高位の魔法使いに効果的なダメージを与えることはできない。

 優秀な麻薬系統魔法にも、穴はあるのだ。僕はそれを隠し、気付かれないようにしなければならない。例えそれが味方でも。


 結局そこからは僕の過去話を皆に披露することになり、ベルトランになってからのことは適当に誤魔化したが相当同情されてしまった。

 両親の件では「俺達も似たようなもんだしな」と言う人が多かったが、孤児院襲撃の話をすると半数が号泣。そこからシスターに出会った話で思い出し泣きをされた。最後の泣きはちょっと違くない?

 シスターには全員等しくギリギリ治る程度にボコボコにされたらしく、傷は治っても、心には相当深い傷を残しているようだ。まぁそれだけのことをしていたのだから当然だが。


 悪事を続けていたらまたシスターに狙われるんじゃないのかと聞くと、皆して「その時はその時」「殺されないなら次がある」とかそんな具合にポジティブシンキングをしていた。犯罪行為に関わらないと生きていけないような人達なのだから、今更真っ当な商売などできないのだ。

 ちょっと気になって「麻薬組織になってみない?」と振ってみたが、元から聞いていたオリエとダンを除く全員に、「めんどくさそうだからパス」と断られた。ううん、難しいな。渉外担当のベインですら難色を示したくらいなのだから、それはここの総意と見て間違いないのだろう。


 僕を拉致した一件も、得意先の貴族から麻薬の大量発注をされたのが原因だったようだ。元々はリシャールの転売屋から買っていたが、一時期を境に小口の転売は受け付けなくなったことで、ここのような小規模組織は麻薬の入手が困難になり、馬車強盗や街中での強盗行為をするようになったのだと言う。


 ……うん、それ大体僕が原因だよね。日持ちのしない麻薬は転売屋が在庫を抱えるのが難しく、それならば一度にまとめて買い取ってくれるところに売るのは必然だ。


 僕がベルトランであることを隠して同じ麻薬を作れると教えたところ、これからは馬車強盗をしなくて良くなると皆相当嬉しそうだった。

 彼らは良識があるとは言い難いが、何も知らない一般人から強盗するのはあまり好ましくなかったらしい。

 ちなみに、馬車強盗をしたら代わりに貰った子供こと僕のことは、ボスがどこかへ売って金にしたと皆には説明していたようだ。目の前に居る20歳半ばの男の正体拉致ってきた10歳くらいの子供とか考えないよね、そりゃ。


 今集まっているメンバーの自己紹介が終わると、過去に居たメンバーの話になった。最古参のダンやベイン達しか知らない者が今何をしているかという話だったり、独立して商売を始めたが失敗してグループに戻ってきてを繰り返している懲りない人の話だったり、ボスの代わりに捕まって牢獄に入れられたメンバーの話だったり。


「そういえばエミリオ、幻惑と催眠は結構行けるんだよな?」


 話が盛り上がってきたところで、オリエにそう聞かれた。

 自分の姿を惑わす程度の幻惑魔法なら、100人くらいは行けるか。

 催眠はどうだろう、今の魔力量と処理能力なら10人くらい同時コントロールはできるかもしれない。


「まぁ、ある程度は」


 具体的な数は言わず、曖昧にボカしておく。

 ……そもそも、今の幻覚使いっぱなしだからね。自身の姿を偽装したまま他の幻惑魔法を使うことはできないので、使う時はどうしても子供の姿に戻ることになってしまう。オリエはそれを知ってか知らずか、それ以上は追及せずに話を続ける


「……頼みたいことがある」


 急に真面目なトーンになったオリエに、多少気を引き締めておく。


「何なりと」


「俺の代わりに捕まったメンバー、イザークを助けてもらいたい。有期懲役だが、このままだとあと30年は出てこれねえ」


 これは、つい先ほど話題に上がった過去メンバーのことだろう。

 僕が居ればなんとかなるかもと、突然思い当ったってところか。


「……それ、脱獄させるってことで良いんですか?」


「あぁ。半年に1回手紙が届くから生きてはいるはずだが……」


 オリエがそこまで言うと、一部の者が感極まって「イザークの兄貴ィ!」と泣き出す。どうやら、相当信頼されている古参のメンバーらしい。


 話を聞くに、イザークが収監されているのはマスカール王国ではなく、隣国のアールバリ共和国だそうだ。

 アールバリ共和国は司法の国とも呼ばれ、犯罪者に相当厳しい罰を与えることで有名だ。

 国家間の取引として、マスカール王国の重犯罪者をアールバリ共和国の監獄に入れ、管理してもらうシステムが成り立っている。

 監獄内は収監された犯罪者が魔法を使えないよう結界が貼られており、犯罪者の中でも普通の牢獄だとすぐに抜け出せる高位の魔法使いや、奴隷として売ろうにもいつ反旗を翻すか分からない危険人物を収監しているとか。


「アールバリの監獄って17箇所あるんですけど、その中のどれですか?」


 僕がそう聞くと、全員は顔を見合わせる。

 うん? なんか変な事言ったか?


「え、いや、どういうことだ?」


 キョトン顔代表、交渉官ベインが最初の一言。


「いや、そのままですよ。アールバリ共和国は監獄が37箇所あるじゃないですか」


「そんなにあるのか!?」


 驚愕のオリエ。あれ、脱獄計画をするくらいなら調べていると思っていたのだが。


「その中で他国から来た犯罪者を預かるのは20箇所、その中で更に魔法使いなら17箇所のうちのどれかなんですけど……あれ、知らない感じ?」


「知らねえよ!! 手紙の差出、アールバリ監獄としか書かれてないからな!?」


「あー……なるほど」


 僕は一人だけ納得したが、他の皆は全くそうではないらしい。


「いや、何がなるほどなんだ?」


「監獄のどこって書いたら、どうぞ脱獄手伝って下さいって言ってるようなもんじゃないですか」


「「「「「あー……」」」」」


 全く知らなかったからか、男達は声を揃えて空を見上げる。そこにあるのは天井だが。


「重犯罪者なんて長期の有期懲役か無期懲役か死刑ばっかなんだから、皆脱獄しようとしますよ。外からの幇助を防止するのは当然かと」


「「「「「そりゃそうだなぁ……」」」」」


 僕の説明で、納得したご様子だ。

 なるほど、隣国だとそんくらいの情報しかないのか。


「俺たち全員マスカール人だからなぁ……」


 オリエの言葉に、うんうんと頷く男達。一応僕もマスカール人なんだけど……。


「というより、何故あなたはそんなに詳しいんですか……?」


 一番最初にそれを聞いたのは、案の定ベインだった。さっきまでは唸る男に混ざっていたが、復帰は一番早い。流石交渉官。

 いやまぁ、何故詳しいかなんて、ゲーム時代は監獄がそれぞれ別のダンジョンだったからなんだけど……それ、言えないからなぁ。


「まぁ色々と。ある程度は構造も頭に入ってるんですけど、監獄を絞れてないとキツいですね」


 どこの監獄も基本構造が一緒なので、難易度やドロップで使い分けられていた程度だ。

 しかしプレイヤーとして当然の知識も彼らにはあるはずもなく、聞いた彼らは目を見開く。


「……絞る手段はあるんですか?」


 唯一話について来れるベインだけが口を開くが、オリエ含め他の全員はポカーンと呆けた顔を晒している。それでいいのかボスよ。


「片っ端から中入ってみるとか、どこかにあるであろう名簿を確認するとか……簡単なのは後者だけど、他の監獄の名簿があるか分からないから結局前者かなぁ」


「そちらが妥当ですね。私もできる限り調べてはみますが、監獄が複数あることも知らなかったくらいなので、あまり力になれないかと」


「それはこっちで探してみます。ボス、受け取った手紙ってここにあります?」


「お、おう。ちょっと待ってろ」


 突然話を振られて少し動揺したオリエだが、心当たりがあるのかすぐに部屋を出て探しに行った。

 オリエが戻ってくるまでの時間、捕まっている仲間、イザークの話を聞く。捕まってから10年近くが経過している以上外見的特徴に関しては何の参考にならないが、口調や性格、使える魔法についての話等は充分に聞くことができた。


 5分ほど経ちオリエが手紙を持ってくると、若干面倒なことが判明する。


「……これ、半年ごとに監獄変わってるっぽいですね」


 毎回、手紙の切手に押された消印が違う。消印が複数種類あるならどこかで自然に重複するはずだし、工業製品なら半年程度で使えなくなるほど劣化するはずもない。

 リシャールの郵便局では消印が一つしかなかったし、アールバリでは1つの郵便局に複数種類の消印があるとは考えづらい。それこそ押した者の手癖でインクの量が変わっていたり掠れていたりというのはあるが、消印の枠が1mmや2mm違うのは別の印を使っているとしか考えられない。


「囚人を移送するメリットは、あるのでしょうか?」


 ベインがそう聞いてきた。移送するメリット。単純に考えたら、今どこに居るかを外から分からないようにして、脱獄幇助を避けるとか。

 けれどそれだけだと移送するデメリットの方が大きいんだよなぁ。人間を監獄から出すということは、脱獄される可能性も上がるということだ。完全防備の監獄ならともかく、何かしらの移動手段を用いる以上事故などトラブルによって逃げるチャンスが出てくるのも必然。

 なのにどうして移送するのか。移送しなければいけない理由がある?

 情報が少なすぎる。イザーク一人がそうなのか、大勢がそうなのかも分からない現状では、これ以上の推測はできない。


「メリットよりはデメリットのが大きいように感じるんで、何かあるのかなぁ程度にしか考えられないかな」


「……ですね」


 僕とベインの二人は納得できたが、他の者は皆キョトン顔で「何の話?」レベルの反応をしている。うん、まぁそうだよね。ただボスもそっち側なのはどうにかならんのか。


 10年以上前の記憶を掘り出し、そういえばコロシアムみたいのが併設されている監獄もあったなぁとか、アールバリの奴隷オークションを潰すイベントもあったよなぁとかあまりよくないことを思い出しながら、計画を練る。

 ……最初数分は皆で話し合っていたが、5分も経つと半数は抜けて、10分後にはベインと半分寝ているオリエの二人しか残らなかったが。

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