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「いやいやいやいやいや」


 いやいや、流石に考えないでしょ。


「どこだよ、ここ」


 じめっとした石畳。雨漏りの跡が残る天井。どこからも光が入らない空間。

 そして目の前には格子状に組まれた鉄の棒。鉄格子と呼ばれるやつ。


「牢屋じゃん!」


 大声を出しても誰も来ない。というか、目が覚めてから誰も来てない。

 ここは、相当古い牢屋だろう。壁には鎖を固定するための金具が取り付いており、捕まえた人間を拘束しておくために使うのだと思われる。僕には鎖も手錠も付けられてはいないのだが。

 どうして牢屋に居るのか? それは、半日前に遡る。


 戴冠式についての相談をするため、シスター・マリオンの手配してくれた馬車に乗り、首都に向けて出発した僕。

 数年ぶりの長旅で、一人で慣れない馬車旅は心配だったので、同行者が居る乗合馬車を選んで貰っていたのだ。

 長旅と言っても、一週間あれば着くと聞いていた。幸い一人で時間を潰すのは得意だし、大した手荷物も無しに乗っていたのだが……。


 五日もすると、流石に馬車の揺れにも慣れ、走っている最中でも眠れるくらいになってきた。

 それまでずっと不眠で魔法の鍛錬をしていたので、それはもうぐっすりと眠れたのだ。

で、ぐっすり眠って、起きたら牢屋。導入が雑すぎる!


 寝ている間に馬車から降ろされ牢屋に入れられたはずだが、生憎いつどのタイミングでそれがあったのか知る術はない。催眠魔法でも食らったかのようにぐっすりと眠っていたのだから当然だが。

 閉じ込められているとはいえ、逃げようと思えば逃げられるのだ。魔法で鉄格子を曲げるなり、別に鉄格子の先に転移するでも良い。適当に地震を起こして建物を崩して逃げるでもいい。

 問題は、ここがどこか分からないことだ。それに、拉致された理由も分からない。

 ここがどこか分からないということは、仮に地下深くだった場合、適当に建物を崩そうと地震を起こすと生き埋めになる可能性がある。

 逆に相当高い建物だったならば、崩れて落下死する可能性もある。

 壊すが駄目なら転移だが、転移は現在座標から目標点までを正確に把握している必要があり、それには縦軸も含まれる。暗闇に目が慣れてここが牢屋ということは分かったが、一体どこにある牢屋なのか分からないのだ。

 xyz軸全てを認識しなければならないので、今居る場所の高度が分からないと、“目の前のあそこ”という指定はできない。

 しかしだからと言って、別に転移で逃げられないわけではない。

 僕の脳が処理できる最大射程まで上方向に縦軸を設定し、転移魔法を使えば良いのだ。

 現在地が例え地下だろうが地上高くだろうが、真上への転移なら地面に埋まる必要はない。超高層ビルの地下みたいな変化球を投げてこない限りは大丈夫だ。そもそもこの世界の工業レベルでは何十階建ての高層ビルなんて作れるはずがないのだし。

 転移後は落下死する前に地上へ再転移すればいいし、今の僕ならその速度で転移魔法の詠唱をこなすことは出来る。


 後は別に、転移などしなくとも、建物を壊さなくとも、鉄格子だけを破壊して出ることもできるのだ。

 それをする問題としては、今視界に入らないだけでどこかで監視する人が居た場合即バレすることだ。ただしよほど高位の魔法使いでもない限り、退けることはできるはず。これだけ声を上げても物音一つしない時点で、見張りが居ないと言われているようなものなのだが。

 生憎最後に行った対人戦闘は、孤児院襲撃組織のアジトを強襲した時だ。今から6年近くも前となる。

 あの街の、教会での暮らしが、どれだけ平和だったのだろう。街を出て一週間かからずに拉致だ。一周回って、不幸を呼ぶのは僕の才能かもしれない。


 まぁつまり、逃げようと思えば逃げられる、ということだ。


「けどま、興味はあるよね」


 馬車を狙った強盗か。あの乗合馬車で子供は僕だけだったから、僕一人だけ別の場所に連れてかれた可能性はある。

 あとは、馬車自体が僕を釣るためのエサだったか。シスター・マリオンはよくやってくれたはずだが、ベルトランが戴冠式の招待状を貰っていることを知っている人間が存在する可能性はある。そんな中、突然教会暮らしの元孤児が一人で王宮のある首都まで乗合馬車で行くと聞いたらどう思うだろう。そりゃ、怪しむだろう。

 流石に不用心すぎたか。ただ強盗に会って寝たまま僕が拉致されたのなら別に良いが、後者だとすると、トラブルの種は早めに摘んでおきたい。拉致犯が出てこないまま逃げてしまうと目的や組織すら分からないので、こちらから動くのは避けたい。

 ただ、それだけの話だ。待っているのはそれだけの理由。


「五日目までは起きてたから、今は首都近くか、もしかしたらもう首都か?」


 誰も居ないので、気にすることなく独り言。

 この予想は、正直なところ適当なものだ。丸一日くらい眠っていたら首都に着いているはずという希望的観測に過ぎない。馬車が襲われた時点で方向が変わって、別の街に居る可能性のが高いとは思うが、それもただの予想。

 体の疲れは確かに取れているし眠気も今は全く感じないが、石畳に寝かされていたので体はバキバキに痛いし、眠気がないのは起きたら牢屋だった衝撃が大きすぎたから。

 だから、ひょっとしたら6時間くらいしか眠っていない可能性もある。

 もしかしたら、最初から首都に向かっていなかった可能性も考えられる。最初から僕の拉致が目的だった場合、首都とは全く違う方向に走っていても僕は全く気付かない。

 というか、正直順当に首都に着いたとしても、誰かに「首都です」って言われないとそこが首都かも分からないほどだ。

 この世界には写真があるわけでもないし、目印があるわけでもない。だから僕は、他人に教えられて初めてそれを認識できる。

 全部をシスター・マリオンに任せていて、まさかこうなるとは思っていなかったのが無用心すぎた自覚はあるが、別に今すぐ抜け出さないといけない理由があるわけでもなし、別に戴冠式までに間に合わなくともそこまで問題ないなと思っている自分が居る。


 ベルトラン兼薬師として活動を始め、自分より明らかに強い魔法使いを何人か見た。それでも、子供をこんな牢屋に閉じ込める人間が、その人たちほど強いとは到底思えない。

 だから、心に余裕があるのだ。僕の方が強いはずという気持ちが大事なことは、思い知っている。

 手っ取り早く済むので、故郷の村を襲った野盗だったら良いなぁとか考えてしまう余裕もある。心の余裕、大事だよ。


 そういえば、あの街で配られている麻薬だが、僕が居ない期間のことは先代薬師であるダイナに一任してある。元々僕より毒属性魔法のスキルレベルが高かった彼女は、3年も経った頃には麻薬魔法の基本構成体を全部覚え、街で配られる麻薬と同等の物を作れるようになっていた。

 普段は僕の補佐として全体の1割から2割程度を作ってもらっているが、時間をかければ全て作ることもできる。元々30年間はダイナ一人で作っていたのだから当然ではあるが、構成体の種類をこれまでの10倍以上使った麻薬は彼女には荷が重いらしく、一人で作ると半日はかかるとか。

 まぁ、時間がかかっても作れるなら大丈夫だ。居ない間のことは全部任せると言われた時の彼女の表情は、相当嬉しそうだったし。

 たぶん、僕が来るまで自分が未熟な腕で作っていたことを相当悔やんでいたのだろう。


 あ、そうそう。久し振りにまとまった時間ができたし、これからのことを考えるか。

 監禁されているが放置されている現状とはつまり、24時間フリーな時間があるということだ。しかも、誰にも見られていない。これは、やりたい放題できるかも。


「《ステータス》」


 いつしか、この一言だけでステータス画面が出せるようになっていた。この世界の住人は何も言わずにステータス画面を出せるのが当たり前なので、そこに辿り着けてもいないのだが。

 ステータス画面のスキル欄見るのは、いつぶりだろう。

 麻薬系統の含まれる毒属性魔法のレベルは、5年間薬を量産したことで、391まで上がっていた。ゲームプレイヤー時代は5年間でスキルレベルが450まで上がったので現状はそれより低いのだが、麻薬系統ばかりが育っているので仕方がない。

 レベルが上がれば上がるほど必要経験値量が増えていくので、系統を極端に偏らせるとどうしても系統レベルの合計値である魔法のスキルレベルは低くなるのだ。

 いや、それでも391は上がりすぎだとは思うのだが、毎日数千本分もの注射器に麻薬を充填しているので、戦わない限り魔法を使えなかったゲームプレイヤー時代とは比べ物にならない育成速度ではある。

 戦闘行為など、5年間で全くと言って良いほどしていないのだ。ひたすら量産と独学の検証、実践を繰り返してレベルが上がっている。

 毒属性魔法の中では麻薬系統のレベルが最も高く、290もある。ゲームプレイヤー時代は150程度だったと記憶しているので、凡そ倍のレベルだ。

 麻薬系統魔法は、レベルが上がると魔力効率が相当良くなる。今では連続で注射器1万本分作っても魔力が余るほどの効率だ。

 効能自体が上がるわけではないが、魔力に余裕ができると構成体を更に増やして麻薬効果を更に複雑にできるし、大量散布できる範囲の拡大や細かいコントロールに割ける魔力が多くなる。


 麻薬系統魔法によって生み出される麻薬は、この世界において中毒性や依存度が存在する。勿論ないようにも作れるが、無毒化をすると生まれるのは麻薬ではなくただの薬だ。現実の麻薬と同じように使うことが出来る以上、麻薬を作ってできるのは金儲けだけではない。構成体を調整すれば意識だって簡単に奪うことができるし、幻覚を見せたり、幻聴を聞かせたり、前後不覚に陥らせることだってできる。


 そこらの魔法攻撃とは比べ物にならないほど汎用的な効果が見込める麻薬系統魔法は、この世界で生きていくのに最も必要と僕は感じているので、これを最優先で上げる。僕の決めた、僕の生きる道だ。

 毒属性適正がSSSである以上、他の系統を育成する余裕はあるのだが、火力という面では麻薬系統だけで良いとまで思っている。


 僕が目指すのは、プレイヤーがこの世界に来た時点で最強のNPCであること。リュフィレ歴20年になったところでプレイヤーが来なかったなら、それはそれで構わない。強くなって損することはないはずだ。

 僕を害する者を、僕の周りの人間を害する者と戦うためには、絶対に力が要る。プレイヤーが居ようが居なかろうが、どちらでもいいのだ。

 プレイヤーには絶対負けない、力が必要だ。一対多数の戦いもあるだろう。それには単純な魔法だけでは足りないのだ。


 剣を持てない僕は、麻薬の力で最強を目指す。

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