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 え、今なんて言った? 私も? 転生してんの? この人。いや人じゃないけど。

 まぁ確かに、アウフスタインが転生を担当していたということは、この世界には転生という概念が数千年前から存在するということだ。それは勿論、外世界から来た自分のようなイレギュラーではなく、この世界に存在する人間がこの世界で生まれ変わるという形での転生が。


「私も転生してますよ。ただし、エミリオ君みたいに前世の記憶があるわけではありません」


 シスターはそう続ける。確かルゴスが言っていた。アウフスタインの性格が悪いから一度人間以外を噛ませて記憶を切るとかなんとかかんとか。

 僕は、人から人への転生だから記憶がある。この世界の住人は、一度人以外に転生してから人に戻るから、以前人であった記憶はなくなる。だとすると、ちょっとおかしなことがある。


「それで、どうして転生したって知れたんですか?」


 僕の問いに対して、シスターは少し悩んでから口を開く。


「自身の起源を遡ると、6代前がルゴス様の側仕えだったんですよ」


「シスターが何を言ってるか分からないんですけど……!?」


「私もエミリオ君が体験していることが全然理解できないんですけど……」


 同じように呆れられる。うん、確かにこれに関してはどっちもどっちかな。

 人間以外による転生を繰り返した後に人間に転生させれば、仮に元々人間としての記憶があったとしてもそれを定着させることは適わず、新たな人間として生まれ変わる。

 それは、人族以外による転生も一緒なのか。ルゴスの側仕えということは人間だったはずだし、人間から妖精族であるニンフに転生させることもできたのだろう。まぁ、管理している神自身がどう見ても人族ではなかったのだから人族だけというのはおかしな話ではあるが。

 記憶を保持したわけではなく起源を遡るという意味は分からないが、シスターレベルの魔法使いになればそのくらいはできるのかな。意味わからんが。まぁ僕が前世の記憶残したまま転生してるから同じようなもんだろう。


「ま、まぁ、この話は置いときましょう」


「……そうですね。私も、それが良いかと思います」


 同意するシスター。うんうん、全く理解できないまま議論するのは無駄だよね。このまま喋り続けるとルゴスの時みたくアウフスタインについて洩らしちゃってもおかしくないし。

 ……あれ、やっぱ本当に神様だったんだなぁ。

 殺人行為を繰り返す者をあの空間に呼び、諭すのがアウフスタインのやり方なのだ。ルゴスの加護があったからとは言え、人間に殺される可能性のある状況に自分を降ろしてまで、「殺人行為はいけないことだ」と説くのは、立派なことだと思う。まぁそれが分かったところであの時の精神状態ではまともに対話などできなかったろうが。今ならもう少し有意義な話ができたかもしれないが、二度と会うことはないのだ。死んでしまったのだし。


「話を戻しましょう。私はコンスタン様のことを認めていないわけではありませんが、聖職者として仕えるべきはルゴス様と信じています」


 真剣な表情でそれを言うシスターに、迷いなど感じられない。

 しかしその発言は、宗教感の薄い日本人である僕からしても、違和感のあるものだ。


「それ、異教とか言われないんですか? 主神が違うって結構マズいと思うんですけど」


「言われませんよ? というより、誰にも気付かれません。この国で神と言えば皆コンスタン様のことだと思いますし、ルゴスという名を知っているのは神学者と聖職者くらいのものです。別に、違う宗教というわけではないんですよ?」


「カトリックとプロテスタントみたいなもんかな……?」


「えーと……それは何か分かりませんけど、崇める主神が違うだけで同じ国教です。異教扱いされるのはお門違いというわけですね」


「なるほどなぁ」


 カトリックとプロテスタントは神は一緒でも違うキリスト教だ。この場合は神が違う同じ宗教と逆パターンだが、それと同じような考え方なのだろう。

 シスターの言うのは、「神話の神で誰が好き?」と同じような話だ。宗教が同じならば、信仰の自由が認められているのだ。この国の宗教はそこまで細かく設定されていないのだろう。

 それでいいのか聖職者と言いたいところだが、まぁ聖職者が言うのだからそれでいいのだ。たぶん。


「ところで、エミリオ君はルゴス様との契約が続いているということなんですよね?」


「契約? してませんけど」


 つい即答で否定してしまう。契約って何だよ、あの女との契約とか怖いよ。

 一方的に結ばれている可能性は全然あるのだが、つい言葉が出てしまった。


「はい? ……スキルのところに、変なものありません?」


「あっ、ありますあります。ルゴスの加護と接続者の二つですけど」


 そういえばあったなこれ。今は何の効果もなさそうなパッシブスキルだが、違うのか。


「……それ、レベル1で止まってますよね?」


「止まってますけど、上がるもんなんですかこれ」


「……いえ、基本的には上がりません。それが上がるのは死んだ時だけと言われています。ですが――」


 シスターは、自身の知っていることを話してくれた。ただし前例が少ないので、推測を含んでいるようだが。


 ルゴスの加護。というより、神の名前が入った加護スキルは全てに、神が現世への依り代に選んだ人間に付与されるスキルのようだ。

 誰に付与され、どのような効果が発動するかは加護を与えた神の性格次第と言われ、スキルが発動してしまった日から別人のように変貌することが過去何件も記録されていると言う。

 そのような人間(人以外も含むようだが)は、“神が憑いた”とされ、幼ければ教会組織が保護し、保護されてもされなくとも、神の益になるよう行動するらしい。

 神の益というのが何かは分からない。あくまで加護を与えた神本人の性格によるものなので、例えばアウフスタインのように一般的に知られている神の加護を与えられた場合は、殺人を許さない正義の味方のような存在になることが記録されている。


 ルゴスの加護が与えられたのは、歴史上に数少ない例のようだ。神学者曰く、ルゴスは一人になってからあまり現世に興味がなくなったと言われており、現世の人間に加護を与えることがほぼないとされている。

 故に、ルゴスの加護を与えられた人間がどう動くかは、神学者や聖職者からしても想像がつかないと言う。ルゴスを主神として崇めているシスターでも「全体的に大雑把な神」くらいにしか認識をしていないようで、加護を与えたのもただの気まぐれ程度かもしれないとのこと。


 別に加護自身にステータスを底上げする効果があるわけではないので、発動はしているが基本的には無視していいもののようだ。発動さえしていれば、それは神の意に背いてはいないという考え方らしい。

 それを考えると僕自身は今ルゴスの思うように動いているのかもしれないが、別に本人に何かを言われたわけではないし、神殺しの幇助をされたがそれを恨んでいるわけではないので別に気にならない。


 そうしてもう一つのスキルである接続者は、神との交信をした者に与えられるスキルのようだ。加護とは違い、これを獲得した人は相当数記録されている。

 何せ、一定数の殺人や凶悪犯罪行為をすると、アウフスタインと強制接続状態にされるから。結果的に犯罪者ばかりが獲得するスキルになりがちだが、「アウフスタイン様はいつでもお前たちを見ているぞ」と脅しのように使われ、それ自身が効果を発揮して何かをすることはない。

 アウフスタインとの接続によって発現した接続者スキルに関しては、あくまでアウフスタインが用いるマーカーのような役割と神学者は考えているようだ。

 ただし、アウフスタインに会ったことがない、重大な罪を犯した事がない人間にも発現することがあり、その理由は明らかになっていない。

 接続者スキルを発現させたまま仮死状態に陥った人間が、「彼岸で神に会った」等と証言する時、接続者のレベルが2に上がっているケースが何件も報告されているようなので、どうやら神に会った回数をカウントしてレベルに表記されているのではないか、というのが学説らしい。


 ……うん、アウフスタイン死んじゃった今、接続者スキルって今後増えない可能性ない?知らんけど。うん知らん知らん。僕は悪くないよ!あの精神状態の僕を諭そうとしたあいつが悪いんだ!あと面白半分で殺人幇助したルゴスが悪い。

 加護も接続者も、チート効果のあるユニークスキルとかではないようなので、ただ珍しいスキルなだけだ。あんまり気にしないで良いと結論付ける。


「人に言うものではないでしょうが、ルゴス様の加護に関してはあまり言いふらさない方が良いと思いますよ」


「まぁ……言って得することもなさそうですしね」


 取得条件も分からないユニークスキル自慢とか争いしか生まないからね! そういうの、ネトゲ人生で懲りたよ。


「ルゴス様の加護によってかは分かりませんが、門魔法で参照する神が替わっているのは私でも分かります。ただ、そこまで分かる人はそう居ないと思いますので、気にしないで使っていいかと思います」


「……シスターレベルならバレたりします?」


「ええ。私レベルなら。ただそれが分かったところで何だって話なんですよ? 私も羨ましいなぁくらいにしか思いませんし」


 少しだけ呆れた顔で、シスターはそう言った。

 自身の崇める主神の加護を得た人間を見ても、そのような感情で収まる宗教観がよく分からないな。無宗教だからルゴス本人への思い入れとかはない、僕と似たような気持ちなのだろうか。


「ルゴス様が加護を与えた人間がどうのように行動するかは分かりませんから、調査対象になるかもしれない程度です。ただ神学者は神罰が怖いので無理矢理何かをされる心配はしなくても良いかと」


「神罰?」


「ええ。ルゴス様は大雑把な神なので、大雑把に神罰を与えることがあります。もっとも、最後の神罰も500年は昔のことなので、信じていない学者も居るかもしれませんが……」


 うんうん、大雑把なのはなんとなく分かるよ。あいつなら神罰もクソ雑に落としそう。一人狙って国一つみたいな規模でやらかしそうだよ。そこらの転生者に神殺しをさせてみちゃうくらいだし。

 それを思うとピンポイントで個人を呼びつけるアウフスタイン凄すぎるな。それが仇になって死んだけど。

 500年前って、そういえばルゴスが言ってたな。最後に異相門を使われたのは500年くらい前とかなんとか。その人がなんかあったのかな? シスターはそれ以上語らないようなので、今度暇があったら調べてみよう。


「ちなみに、その神罰で何が起きたんですか?」


「バティスト大陸が150の島になりました」


「あの女……ッ!」


 バティスト大陸――僕の知識におけるバティスト諸島は、地球人の感覚としてはフィリピン諸島に近い。マスカールからは少し離れた、数百の島によって形成されるバティストという国家だ。

 フル出力で大雑把なことしたらそうなるのか? 分からん。とりあえず馬鹿ということだけは分かる。けどどうやら神にとっても魔法の仕組みとかは同じっぽいんだよね。異相門が効いたのはそういうことのはずだし。今の神は皆元々この世界の住人だったのだから当然かもしれないが。

 ひょっとしたら、世界を生きる生物より高次元の存在になっているだけで、神とはただの種族の一つなのかもしれない。それを思うと、ゲーム内の転生と同じようなものなのかもしれないな。

 神とはいえ元となった種族と身体の作りは同じなら、出力をそこまで上げれば殺すこともできる。逆に言えば、現世を生きる生物の身で神に匹敵する力を得たなら、それは神と言っても良いのではないだろうか。

 うん、流石にそれは目標高すぎるよね。僕はレイドボスになりたいわけじゃないんだし。

 神に匹敵する人間は、プレイヤーからしたら圧倒的に強大なレイドボスだ。流石に、数年の育成で倒せるレベルではないだろう。


 うん? 神? レイドボス?

 その文字を思い浮かべた瞬間、突然頭の中に記憶が雪崩込んでくる。


「あ、あああ、あ――――」


 だれ、ダレ、誰の記憶。ぼく? 僕、ボク、ぼくはだれ?


『あなたは、だあれ?』


 そんな声を、聞いたのだ。

 ゲーム画面から。そう、そうだ。

 僕は、日本に住む人間だったころ、ネットゲームをしていた。それは、覚えている。

 それだけじゃないんだ、最後の日の最後の記憶。鍵がかけられていたそれが、ようやく開く。


「エミリオ君?……エミリオ君!?」


 シスターの声が反響する。この教会は、音が反響するような作りではないのに。

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