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「来るとしたら、相当まずい」


 プレイヤーは不死身だ。死んだところで、多少のデスペナルティがあれどすぐに復活する。

 インターネットを通して広がる、育成するための最適な手順、集団による巻き狩り、死んでも蘇るシステム。プレイヤーが簡単には勝てないほど強力なボスは確かに多く居るが、複数人で集まったパーティなら倒せるボスや、複数パーティ合同で戦うレイドボスの攻略などは、死をも恐れぬ恐怖の軍団だ。


「ですよねぇ。いくら年の功があるとは言え……」


「年の功…………あぁ、そうか」


 その言葉を聞いて、大事なことに気付く。

 何十年も続くオンラインゲームなどない。流行は1年から5年くらい、そこからは廃れるのが常。

 サービスが続いて10年だ。つまりプレイヤーに与えられる時間は、たったそれだけの期間でしかない。

 廃人プレイヤーでも、1日は24時間しかないのだ。そして1年は、365日しかない。


「はい? 何でしょうか、エミリオ君」


「プレイヤーが来る前に、プレイヤーが絶対倒せないくらい強くなってれば」


 イベント戦などで戦う、プレイヤーでは絶対に勝てないNPC。

 協力してくれる助っ人NPC。

 いや、もう味方でなくとも構わない。適正レベルにならないと倒せないが、5年ではそこまで辿り着けないようなボスでもいい。


「まぁ私は既に強いですけど……」


「あ、そういう自慢は良いです」


 うん、シスターは絶対強いよ。ただ、プレイヤー基準でどれくらい強いかは分からないが。

 だって、シスターが戦闘に参加するイベントなんて一つもなかったからだ。彼女の弟子がイベント戦闘に出てくることはあったが、シスターと直接戦う機会などなかった。

 それでもこうして話すだけで、多少の魔法行使を見ただけで、規格外の実力、その片鱗を見たのだ。


「ちなみに私、光属性魔法のスキルレベルは890です」


 あ、駄目、軽率に自慢してくるこのシスター滅茶苦茶チートだ!

 スキルレベル890とか聞いたことがない。ゲーム内だとサービス開始からずっとプレイしている廃人魔法使いのスキルレベルが500前後だ。スキルレベルが上がれば上がるほど必要経験値が増えていくので、500以降上がらないというのは、求められる経験値が現実的ではなくなるから。


 ……あ。

 いや、そういうことか?


「20年しかないんじゃ、ない」


「ええ、そうですねぇ」


「20年も、ある!」


 あのゲームを、僕は何年プレイした? サービス開始から、5年と少し。5周年のイベントに参加した記憶はあるが、何故か転生するまでの記憶が曖昧だ。

 5周年イベントはあったが、6周年まで居た記憶はない。つまり5周年から6周年まで、1年間のどこかで転生したことになるのだが、転生するまでの記憶がすっぽりと抜けている。

 まぁ、今となってはあまり関係ないだろう。大事なのは、時間だ。5年で出来たことなら、20年あれば余裕で超えられる。そして――


「20年もあれば、プレイヤーに負けないくらいの実力は身に付けれる!」


「300年はないと、私には勝てませんけどね」


「人間はそんなに生きられないんですけど!?」


 シスターはからかうようにふふふと笑う。

 うん、既に充分チートなリュフィレ様やシスターのような超人はともかく、僕のような人間は20年を無駄にはできない。プレイヤーが来るか来ないかは別として、準備を怠る真似はできない。

 魔法使いは全てを想定し、準備して、迎え撃つものなのだから。


「弟子にして下さい!」


 うん、直球勝負。今一番強くなる方法は間違いなくコレだ。

 本能のままに叫ぶ。シスター以上に強いNPCなんて、数えられる程度しか居ないはず。それもシスターと直接戦ったわけではないのだから、もしかしたらシスターの方が強いのかもしれない。


「え、嫌ですけど」


 シスター、即答。何を言っているんだというキョトンとした顔で、首を傾げる。


「え、ええー」


「この国には恩義がありますから、エミリオ君の言う“プレイヤー”がこの世界に訪れるより前に、プレイヤーには負けない国を作らなくてはいけません。それにどちらかと言うと、エミリオ君も仮想敵ですよ?」


「た、確かに!」


 シスターの言うことが正論すぎる! プレイヤーに負けない国を作るなら、元プレイヤーである僕も確かに仮想敵だ。

 プレイヤーがこの世界に降り立って、その中に当時の僕が居るかは分からない。居ても居なくても構わないが、ゲームの知識があり今ここに居る僕は、この世界からしたら異物でしかない。


「てなわけで、私はエミリオ君をこれ以上強くするつもりはありませ~ん」


 両手でバツを作る全力の拒否。なんなんだこのシスター! いやそういうキャラだったけど!


「薄情者! 人でなし!」


「人族じゃないですし~私ニンフですし~」


「ニンフでなし!」


「よく分かりませんね~その言葉」


 冷静な突っ込みありがとう。

 ただ、これでパワーレベリング作戦は失敗だ。師匠を作れば効率よく強くなれるかと思ったが、シスターが正論すぎるので断念。

 後は、僕が知っている他の有名NPCだが……弟子を取ってくれそうな、プレイヤーに協力的な者も何人か居た。けど、けど……


「人族の20年前って、今絶対子供なんだよなぁ……」


「なんですか、師匠探しでもするんですか?」


 え? なんで? とでも言いたげな顔で、シスターはこちらを見てくる。


「したいけど、知ってる人が居なくて……」


 うん、ほとんど居ない。プレイヤーに協力的で、プレイヤーより強いNPCは、確かに何人も存在する。

 けれど今は、プレイヤーが訪れる前。僕が知っている世界から、20年以上前なのだ。つまり、NPCも20歳以上若い。ゲーム作中で30台で出てきたNPCが、今はまだ10歳くらいだ。弟子とか師匠どころじゃない。まだ駆け出しか、魔法使いになってもない可能性まである。

 となると、相当高齢の人か、それとも人族以外かという話になるが……


「高齢者はプレイヤーに協力的じゃないし、人族以外はそもそも数が少なすぎてどこで会えるか分からん、と」


 高齢者が協力的じゃないは偏見も入っているが、高齢の魔法使いはどうしても“融通が利かない、めんどくさい”とか“大した実力もないのに、上から文句言ってくる”キャラクターが多かった。

 別にそうでもないNPCも居たはずだが、正直インパクトは薄くどこで会った誰なのかも覚えてない。


「プレイヤーということを隠して弟子入りするのはアリだと思いますけど、それだとまた幼児のフリすることになってしまって効率が悪いですねぇ」


「なんだよなぁ……」


 高齢で、熟練の魔法使いで、人族ではなく、僕という個人のことを知ってもこうして話ができるシスターが異常なのだ。異世界転生とかゲームとかプレイヤーとか未来とか、そんな話を聞いて信じてくれる人間がそこまで多いとは思えない。というか、他に居るのか分からないレベル。


「あ、良いこと考えました」


「なんですか、弟子にしてくれるんですか」


「し~ませ~ん」


 再び両手で大きなバツを書かれた。軽く頼んでるけど全力で断られるのはちょっとショックだよ。


「さっきエミリオ君、この街の薬の話してたじゃないですか。あれって事実ですか?」


「さっき……?ああ……」


 この街で出回っている薬は、明らかに弱く作られている。

 依存者を増やす役割を果たしながらまともな人間として生きれるように、とギリギリのラインで作られていたのかもしれないが、それにしてもお粗末だ。

 依存度を高めるための配合は、つまり身体に蓄積されやすいということに繋がる。

 蓄積するということは、子を成したときに子供にも影響しやすいということだ。

 これまでは大丈夫だったかもしれないが、この調子では悪影響が今すぐ出てもおかしくはない。あの時は二代重ねればととは言ったが、正直今悪影響が目に見えていないのが不思議なくらいなのだ。

 構成体を調べても、あえてそう作られているのでない限り、よほど知識のないものが精製しているのだと分かる程度に。


「エミリオ君の推察通り、今この街でベルトランを名乗っているのは私です。ベルトランの名は襲名制ですから、私が9代目ですね」


 何百年と続く麻薬組織。それの代表が9代目というのが、早いペースなのかそうでないのかは分からない。

 そんなところで悩んでしまう僕をよそに、シスターは話を続ける。

 

「そして、教会の裏の顔でもあります。8代目までは普通に組織として活動していましたが、私が継いでからは教会の副業として薬の配布を行っています」


「……作ってるのは、シスターなんですか?」


「いえ、生憎私には毒属性魔法の才能がありませんでしたから、他の者が作っています。先代の薬師と同等のものは作れていると思っていましたが、エミリオ君からすると違ったんですね」


 シスターは、才能がないらしい。光属性魔法の適正がSSSなシスターでも、毒には適正がないのか。

 そのへん、キャラクターランダム作成時の適正配分みたいだなと、少しだけ懐かしく思える。


「先代が作っていたものを鑑定したわけじゃないのでなんとも言えませんけど、もしかしたら、ちょっとずつおかしくなっていたのかもしれません」


「……それはありますね。ベルトランは9代目ですが、薬師は100回近く代替わりをしているはずです。100人が前の人と同じように作り続けていたとしたら、少しずつ、ほんの少しずつ悪い方向に進んでいった可能性は大いにあります。……それは知識のない私の落ち度ですね。教えていただき、ありがとうございます」


 シスターの語るそれは、伝言ゲームみたいなものだ。

 事実、絶対にそうなる。麻薬魔法は、統一された効果を持たない。目的の効果になるよう麻薬構成体の量や種類を調整し、プレイヤーはシステムによってその配分をショートカット登録、目的のタイミングで、狙った効果の魔法を発動する、という風に使っていた。

 構成体は数百にも及び、それだけあれば全く違う配分でも同じような効果を生み出すことは可能なのだ。故に、他人の作った麻薬魔法の効果だけを見てそれを自分に使える構成体だけで再現しようとすると、全く違う配分で同じ効果になる、といったケースも少なくはなかった。

 構成体は、目に見えるものではない。僕は長年の経験で全ての効果を記憶しているが、一つ一つの構成体の効果が詳細に書かれた攻略サイトなどなく、インターネット上で同魔法愛好者のコミュニティを作れたゲームプレイヤーとは話が違う。


「で! で! ここでエミリオ君に相談なんですが」


「わ、悪い予感しかしない!」


 急にテンションが跳ね上がるシスター。うん、もう次に何を言われるかなんとなく読めたよ。


「次のベルトラン、エミリオ君がやりませんか!? 薬師も兼任で!」


「ほらやっぱりー!」

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