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「いえいえ、若くはありませんよ。300年くらいは生きてますし」


「ハイ?」


 目の前に居たのは、シスターと同じ格好をした女性だった。老婆では断じてない。

 身長は少しだけ伸びているように思える。ただ老婆の曲がっていた背が真っ直ぐになった程度であり、今でも平均より少し低いくらいだろうか。胸はかなり大きくなっているような気がする。流石に老婆のバストサイズを認識していなかったので差は分からないが、平均よりは明らかに大きい。そう明らかに。

 そうして変化した顔は、うん、美人です。外見だけなら、20歳手前くらいだろうか。


 皺だらけだった顔は張りがある透き通る肌へ、真っ白な髪は薄い金髪に、老婆独特な柔和な表情は若く、自信ありげなものへと変わる。ところでちょっとドヤ顔になってない?

 胸の下で腕を組み、露骨にバストを強調して挑発するような目線になると、なんともフェチい。大人しいシスターが女豹になったような、そんな感じだ。


「ちなみにエミリオ君、看破失敗してますよ」


「……ですよねー」


 いや、うん、なんとなく分かってたよ。このレベルの幻覚が、自分程度の看破で解けたとは思えない。

 これは単純に、シスター自ら幻覚を解いただけだ。


「看破魔法のレベルも低いですし、何より迂闊すぎます。魔法使いの存在を警戒していたようですが、あなた以上の者などどれだけでも居るんですよ? まぁ、その年でこれだけ使えることは素直に褒められることなんですが……」


 図星すぎてすぐに返事ができない。うう、これでも頑張って考えたつもりなのに。

 格上が居ることくらい分かっていたが、届かないほどの高みに居るとは思っていなかったのが敗因か。


「僕には6年しかなかったので、これでも頑張った方なんですよ。それより300年ってどういうことなんですか」


「そのままですよ。今年で309歳になります」


 さらっととんでもないことを言うロリババァ……ではないな。ロリでもないし。75歳以上は全部後期高齢者でいいのか?

 うん駄目だやめよう、こんなこと考えてると怒られそう。


「……人間じゃないんですね」


「ええ、ニンフです」


即答。人以外を見たのは、そういえば初めてか。


「うわっ……」


 その種族は、知っている。しかしそんな簡単に出会えるものではないので、予想もしていなかった。

 300年生きる長命種といえば、ゲーム内ではエルフが一般的だ。


「うわとは何ですかうわとは」


「いや、ニンフとか……」


 ニンフは、ゲーム内にも存在した妖精種族だ。

 ゲーム開始時に選べる通常種族とは違い、一定条件を満たすと転生できるようになる特殊種族の一つで、エルフに並んで高い人気を博していた。

 ……しかし人気と裏腹に転生条件達成が尋常じゃないほど難しく、元のステータスを全て初期化して転生してしまう仕様上、「ニンフに転生するくらいならヒューマン極めた方が良くない?」とか言われていた程だ。

 特殊種族の中では、ハーフエルフをレベル100まで上げ、何かしらの魔法スキルを100まで上げるだけで転生できるエルフが圧倒的に数は多く、ニンフは亜神族や天族に並んで浪漫種族扱いをされていたものだ。


 あ、いや、ちょっと待って。

 シスター姿のニンフ? それ、居たぞ。ゲーム内のNPCに存在した。銀に近いブロンドヘアー、プレイヤーを挑発するような目付きだが、言葉は綺麗で大人しい。とあるイベントでは性格が豹変するが、それもまた良いと人気のあったNPC。


 ああ、あああ、思い出した。薄い本にお世話になったことも、ついでに思い出したぞ。

 何故すぐに思い当たらなかったのか。NPCではあるが、マスカール王国関連のストーリーやイベントには何度も出てきたキャラクターだ。

 王国で最も優れた魔法指南役。彼女の弟子には、僕に多大な影響を与えたキャラクターも居るのに。


「シスター・エリーズ。いや、エルヴィール・カプレ。マスカール王国筆頭魔法指南の――」


「あら……? どうしてその名前を?」


 シスターは目を見開く。こんな僕でも少しだけ、彼女を驚かせることができたようだ。


「あなたは――そうか、いや――どういう――」


「エミリオ君がどうして私の本名を知っているのかはとりあえず置いておきますが、私は魔法指南なんてやってませんよ? 誰かと間違えてるんでしょうか」


 キョトンとした顔でそう言うのを見るに、どうやら嘘ではないようだ。


「……あれ?」


「最後に王家に声を掛けられたのは50年も前ですし……確かにあのまま居たら王宮務めにはなっていたかもしれませんけど、それを今6歳のエミリオ君が知っているのはおかしいんですよね~……」


「……えーと」


「君、何を知ってるんでしょう?」


 シスターはそう言うと、こちらの瞳をじっと見つめる。

 シスターから目を逸らせないことに、目を閉じることもできないことに気付いた時には、全てが遅かった。


 あ、まずったね。

 僕は、僕の知る全てを話していた。別の世界でゲームをプレイしていたこと、気が付くと、この世界で赤子として誕生していたこと、両親を殺されたこと、孤児院を襲撃されたこと、襲撃者を事故に見せかけて殺した事、それからホームレス生活をし、麻薬を売り、駒を作りながらベルトランを探していたこと。それを、全て。


 全てを、話してしまったのだ。

 今の僕レベルではレジストしようがない、強力な催眠魔法だ。意識を奪い駒にするだけの僕の催眠と違い、本人の意思を残しながらも全てを曝け出す、催眠魔法の極致を、食らってしまったのだから。


 僕の意識は、はっきりと残っている。体も口も目も、全てが勝手に動いても、僕の瞳はシスターから離せなかった。

 シスターは僕の話を聞いてる最中、ずっと黙っていた。不思議そうな目を向けることも、気持ち悪がることもなく、ただ黙って聞いていた。


「あわよくばベルトランを乗っ取ろうと、準備をしてここに来ました。以上です」


 僕の口が勝手にそこまで言ってしまう。

 もう、隠していることはほとんどない。いや、あちらの世界についての情報はほとんど話していないから、シスターの成人向け同人誌を読んでいたことなどは隠せているのだが。……まず同人誌という概念から説明しないといけないしな。


「……分かりました」


 シスターがそう言うと、急に体の自由を取り戻し、前のめりに倒そうになる。

 あー、いかんねこりゃ。6歳にして詰んだかも。


「エミリオ君の記憶と違うのは、リュフィレ歴という暦、私が魔法指南というところですか」


「……はい。信じるんですか?」


「ええ、信じてますよ」


 シスターはそう断言する。その瞳には、曇りなど、迷いなど何もない。

 彼女が僕の言うことを信じたのは、自身の魔法をそれだけ信頼しているということだ。自分が魔法をかけて相手が嘘を言えるはずがないと、心の底から信じているから。

 相手を信じているからではない。自分を信じているから、これが真実だと確信できるのだ。


「まず一つ目、リュフィレ歴の方ですが……近い将来、サリニャック歴がリュフィレ歴になるということですね」


僕の予想していたパターンの中で、もっとも確率が高いと思っていたものを、シスターは指摘した。


「僕、サリニャック歴なんてゲーム内で聞いた事はないんですよ?」


「そうでしょう。私だって、サリニャック歴より前の暦を知りません。つまり、そういうことなんです」


そういうこととシスターは言う。過去の暦を言わないことが、自然になるには?


「……過去の話をするのに、ナントカ歴なんて入れない?」


「はい。そういうことです」


 シスターのそれも予想に過ぎないが、少しだけ納得ができた。昭和が平成に変わった時みたいなものか。平成生まれの僕にとって、昭和何年と言われても今から何年前なのか全く分からなかった。なので言う人も過去の話は○年前と言ったり、西暦で言ったりしたのだ。

 つまり、そういうことだ。ゲーム作中にサリニャック歴という設定が存在したとしても、リュフィレ歴になってから、サリニャック歴何年なんて言われたところで何年前の話なのかさっぱり分からない。

 それこそ歴史を知る上ではそのような表記も必要だが、普段の会話で必要な情報でも、年代の計算が必要になるほど重要な情報ではない。


 それこそ、リュフィレ歴が何百年とかになっていたら違うだろう。ただ数百歳の人間なんてそう居ないのだが。

 ゲーム開始時はリュフィレ歴の20年。たった20年程度なら、サリニャック歴という表現を使わなくとも、「21年前」とか言えば話は通じたのだ。


「それは理解できました。けどそれだけなら、サリニャック暦が近い将来リュフィレ暦になるという断言はできないんじゃないですか?」


「えーと、いえ、なるんですよね。それが」


 シスターは僕の予想を否定して、言葉を続ける。


「ここだけの話ですが、現王は生前に退位されることが決まっています。次の国王は、リュフィレ・マスカール様です」


 生前退位。日本の天皇にもそんなシステムがあったはずだ。200年ぶりの出来事で、相当揉めていたような気はする。あまり興味はなかったが。

 王を死ぬまで働かせるくらいなら、生きているうちに後継者を決めた方が良いのは当然だ。


「え、でもオクタヴィアン・マスカールさんが第一王子ですよね?」


 第一王子、僕を救ってくれた彼は、そう名乗っていた。

 てっきりあの王子が次の王になると思っていたが、どうやら違うらしい。点数稼ぎが足りないとか? でも第一王子なんだよな。


「ええ、よくご存知ですね。そういえばエミリオ君をサロート村から連れてきたのはオクタヴィアン殿下でしたか。ええ、確かにオクタヴィアン殿下が第一王子ではありますが、彼自身王位を継ぐつもりがなく、またオクタヴィアン殿下は側室の子という立場ですので、実は王位継承権は相当低いんですよ?」


「……なるほど」


「一番民衆に好かれているのは、確かに外に顔を出しているオクタヴィアン殿下でしょうから、多少の混乱も起きることでしょう。ですが、リュフィレ様はオクタヴィアン殿下と比べて劣っているということは断じてありません。もう一度、魔法国家としてこの国を建てなおしたいという国王様の御意向により、リュフィレ様が次の国王候補に選ばれているのです」


 シスターは、そう説明してくれる。やけに詳しいが、それは生きている年数が長いからか。

 長く生きられるということは、脳の処理能力も、記憶能力も人より優れているということなのだ。


「……リュフィレ様は、そんなに凄いんですか?」


「ええ。今のエミリオ君は勿論とっくに超えていらっしゃいますが、私でも後30年したら追い越されてしまうかもしれません」


「30年て」


 思ったより自信家だ、このシスター!

 そういえばゲーム内でもそんな人だったなシスター。

 国王が国の発展のために生前退位を決めてるくらい才能豊かなリュフィレが、後30年は追いつけないと自負するとか、自信家にも程があるぞシスター。


「ちなみにリュフィレ様の魔法適正は平均SSです」


「それ上に1個しかないじゃん!」


「ちなみに毒属性がS、それ以外が全部SSSです」


「それ適正SSSって言って良いやつ!」


「ふふ、エミリオ君も自慢して良いんですよ。俺はリュフィレ様より魔法適正高いんだぞ~って」


「毒だけね! それ以外全部負けてるからね!」


 あ、うん、勝てねえわ!そりゃ国王も退位するわ!

 適正値が高ければ必ず強いというわけではないが、適正値が高くて弱いはずがない。強くなる見込みがどれだけでもあるのだ。育てれば育てるほど強くなる。底なしの井戸のように、知識とレベルを貯め込み続ける。

 適正に一つだけSSSがあるだけでゲーム内有数の実力者として君臨していたNPCだって居たのに、リュフィレ様は全部がSSS。そこまで来たら万能なんてものじゃない、人間であるなら、生涯ずっと強くなる。

というか、全属性(毒以外だが)SSSの成長率でレベル上限無しとか、人間の寿命は短すぎる。それこそニンフとかエルフのような超長命種でないと育成が間に合わないだろう。


「ふふふふ、やはりエミリオ君、猫被ってましたか」


「いや、まぁ、猫というか、幼児でしたし」


「中身30歳で幼児のフリとか、大変だったでしょう」


「……それはまぁ」


 ……うん、ちょっと思い出したら泣けてきたね。孤児院で生活している頃、普段は一人で居ても院で行われる行事では年少組として扱われていたし、それはもう3歳児でもできるようなことをやらされていた。かなり辛かったね、アレは。ちょっと心が折れそうになったもん。

 というかシスター、物分かりが良すぎないか? 年齢もバレたし、異世界転生の話を聞いても大してリアクションしないし。

 いや、というかこれ、ひょっとしてシスターはワクワクしてるのか? 表情はあまり変わっていないようだが、先ほどまでより声のトーンが上がっているような気がする。


「で、話を戻しましょう。リュフィレ歴になるのがいつかは分かりませんが、私が筆頭魔法指南ですか。そうですね……そんな話を聞いちゃったら、次に声を掛けられたら受けちゃうかもしれませんね」


「一度断ったのに、声掛けられることはあるんですか?」


「ええ、だって50年前ですよ。私に声を掛けてきた頃の王家の関係者なんて皆死んでますし? 私が断ったことなんて、誰も覚えてませんよ」


 そう断言するシスター。まぁ確かに50年前の出来事、しかも断られたうちの一人とかだと記録もないだろうし、関係者が生きていたとしても覚えているとも思えない。

 よほど大きな事件とか起こしていたなら別だろうが、普通は翌年には忘れてるくらいの内容だ。


「そんなんアリかニンフ……」


「人はすぐに死にますからね。短命種の宿命というやつです」


 そんなこと言っていいのかシスター。

 あと生物的には人間は短命種ではなく長命種で、エルフとかニンフが超長命種だけど……まぁそんなのは些細なことか。100年生きる人間も生物全般から見ると充分長命なんだぞ。


「あ、そうそう。大雑把なくくりで言うと、エミリオ君は今より未来から来たんですよね」


 ふとシスターは何かに気づいたかのように確認してきた。

 世界は違うしゲームの中だったが、未来のことを知っているという意味では、未来人というのは間違いではない。正しくもないのだが。


「……ゲーム作中が今より未来というのが合ってれば、ですけど」


「つまり、リュフィレ歴の20年になったら、エミリオ君みたいな人がこの世界に現れる、ということでいいんですか?」


「…………あ」


 それは、シスターに言われるまで全く考えていなかったことだ。

 仮に全く同じ世界とすると。僕が異世界に行ったのではなく、僕がゲームの中に入ったのだとすると。

 僕はNPCとして、プレイヤー達を迎える立場になるということか?

 待て待て待て待てそれはまずい。まずいまずいまずい。あと何年ある?いつからリュフィレ歴になる?分からない。けれど近い将来というのが事実なら、100年後ということはない、生前退位なのだから、50年も、いや30年も待つはずがない。それこそ来年リュフィレ歴になるかもしれなくて、その場合は後21年でプレイヤーが押し寄せてくる?

やばいやばいやばい。僕、完全に死亡フラグじゃん。

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