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ヤクと魔法のファンタジー  作者: 衣太
課外授業
102/133

15

「どうしましたの、これ……」


 酔っ払い集団をゴミ溜めでも見るかのような冷たい目で見下ろしたのは、僕らのクラスメイト、ダヴィアだった。


「ん? んんん? ひょっとしてアンタ、アングラードんとこの娘っ子か?」


 酔っ払いAもとい学者兼探索者パーティのリーダー、元魔法学校オムニバス講師のミッツーネが、真っ赤な顔に充血した瞳でそちらを見ながら、酒臭い息を吐きながら言う。


「なんですのあなた……え、ひょっとして、ミッツーネ先生でいらっしゃいますか?」


「おぉ、おぉ。やっぱり、そうじゃったか。覚えておるか? 10年以上前だったと思うが……」


「えぇ、勿論ですわ。酒癖は、まだ変わらないんですのね」


 ダヴィアはそう言い、口を抑えて苦笑した。


「うん? 何々、知り合い?」


「そうですわ、酔っ払い一号ではなくエミリオさん。……昔、家庭教師をして下さったのです」


「人の事一号とか言うのやめてよ……」


 最初はドン引きだったと思うが旧知が居ることを知ったからか、ダヴィアはパーティメンバーに先に帰っているように指示すると、すとんと腰を落とす。

 普段のダヴィアなら床にそのまま座ることなどしないだろうが、汚れても構わない探索用の服を着ているからそのあたりは気にしないのだろうか。いや、場に合わせただけかもしれないが。


「それで、どうしてミッツーネ先生とエミリオさん方が、ここで酒盛りをしていらっしゃるんですか?」


 その問いに、老人パーティが勝手に喋り出した。なんかもう、酔っ払いってこうだよね。誰と言葉が被っても気にしないまま喋り散らかす感じ。僕はお酒飲むと黙るタイプなので別だよ!





 酔っ払いに補足しながらなんとか説明を終えると、ダヴィアは大きく溜息を吐いた。


「……レベル98ですか」


「らしいねー」


「らしいって……まぁ、エミリオさんらしいと言えば、そうですわね……」


 呆れた顔で言われるが、僕らしいって何だろう。

 たかが98でしょ? と思ってしまうのだが、それは一般的な思考ではない。

 キャラクターレベルなどほとんど参考にならないこの世界において、レベル100近い、それもネームドと呼ばれる固有名を持つモンスターとは、そこらの探索者が戦うものではないのだ。

 それこそ出現するモンスターの平均レベルが100を超える迷宮も存在するが、そこは10代の学生に入れるような場所ではないし、泡沫の探索者が力試しに入るような場所でもない。ここに集まっていた数十人の探索者が皆討伐を諦めて町に避難するくらいには、危険なモンスターなのだ。

 ――普通に正面切って戦えば、僕ら5人でも勝ち目はないほどの強敵だ。


「98レベルなんかとまともに戦ったら今はまだ勝てないけど、4キロも離れてたら……ねぇ?」


「何が“ねぇ”なのかは分かりかねますが、4キロ先まで狙って当てるのは充分異常なことですわ……」


「やー、僕一人じゃ無理だよ。三人がかりだし。一人頭で割れば32レベルくらいでしょ?」


「その計算おかしいですわよ!?」


「そうー?」


 98なんて低いでしょと言いたい気持ちを抑えて、けらけらと笑って返す。

 ちなみに僕がずっと座って休憩しているのは、簡単に言えば疲労困憊の魔力不足でまともに動くことができないからだ。

 たった三つの創作魔法、たった三発の射撃でも、僕の残存魔力は1割を切っている。魔力効率を度外視しているので仕方ないといえばそうなのだが、もう少し上手くできないものか。せめて威力を落とすとかで効率アップを……と思うが、それで倒し損ねた時のことを考えてしまうと、全力で撃つ以外の選択肢はなかった。

 とりあえず98レベルのモンスターは一撃で倒せたようだが、あれがどこまで通用するのか分からない。他の魔法とは比べものにならないほど時間はかかるし、一度使ってしまえば魔力は底が見えてしまう。基本的に迷宮内で使う魔法ではないのだ。

 対人で使う魔法でもないので、じゃあどこで使うんだよと言われたら困るのだが、こういう時に使う為の魔法だ。うん。


「ところでエミリオさん達は、いつから迷宮に入る予定なのでしょう? それに、ノーラさんとユリアさんの姿が見えませんが……」


「んー、後一時間くらい休んだら動けるかな? ノーラさんは手が空いたからって残敵の掃討に混ざって、ユリアさんは町に戻って迷宮の攻略情報聞きに行ったとこ。僕ら何も調べずに手ぶらでここまで来ちゃったからねー」


 一時間は休めば、普通の魔法行使に問題ないくらいまでは魔力が回復するはずだ。全快には程遠いが、そこまで強いモンスターが出るわけでもない。迷宮内でレベル100近いモンスターに遭遇したら、出会って2秒で転移だ。戦えるわけないだろそんなの。

 ノーラは僕の魔法を見て居ても立ってもいられなくなったのか、残ったモンスターの掃討に向かった。それに、ネームドモンスターを引きつけていてくれた勇敢な探索者に説明しないといけないので、その役割を担ってくれた。

 カルヴィはノーラとは真逆にゲッソリした顔で酒を飲むどころではなかったので、町に行って待機していたクラスメイトから迷宮の情報を聞きに行ってもらったのだ。


「そういえば、予定時間結構超えてるけど中で何かあったの?」


 ダヴィアには急いでる様子もないので、気になることを聞いておくことにした。


「……出て早々酒盛りに出くわしたので、忘れてましたわ。途中で会った探索者の方に伺ったのですが、どうやら迷宮内の様子が少しおかしいようで、調査をしていたんです」


「おかしい?」


「えぇ。ここ数日で急激に生態系が変化しているようで、不定形モンスターが極端に減って、蛇、竜系のモンスターが増えてきているようですわ。数はそこまで多くないですが、稀に高レベルのモンスターが出てきていたりして、苦労しているそうです」


「……なるほどなぁ。そいや、ナーガも蛇系ではあるのか」


 今回倒したナーガは、人の上半身を持った蛇型のモンスターだ。人の姿を持っているのは、太古の昔に人と交わったことがあるとか、そんな伝承を聞いたことがある。人と交わった結果モンスターになった種族と人間寄りの種族になったものとの違いが気にはなるが、どのくらい外見が人に近づいたか、という話なのだろうか。

 ナーガのような人に類似した肉体部位を持つモンスターは高レベルになると人語を理解することもあるようで、人の話す作戦内容を理解してそれに対応する個体も居るという話を聞いた事がある。


(わたくし)が話を伺ったのは認定探索者の方でしたので、間違いはないかと思います」


「となると、そっから溢れてきたのが、外に出てきた個体ってことかな? んー、やっぱ逆流が考えられるけど、まだ判断材料が足りないかなぁ。その人、他に何か言ってた?」


「そうですわね……。共食いの痕跡を多く見つけたので、ひょっとしたら上位個体に至っている場合もあるかもしれない、とは漏らしていましたわ」


「……そりゃ不味いわ」


 共食いの痕跡を見つけたというのは、あまり良いことではない。

 基本的に迷宮内にしか住んでいないモンスターは同種族で争うことは少なく、生態系は異種族との縄張り争いで決まることが多い。例外も居るが、ナーガ種は基本的に種族の結び付きが強い方だ。

 同種での争いや共食いが起きると、数が減る代わりに極端にレベルが上がる個体が出て来て、その中でも稀に上位個体と呼ばれる進化した個体が現れることがある。

 それらは恒常化しづらく一度討伐されてしまえば元の生態系に戻ることが多いが、その討伐まで時間がかかればかかるほど、新しくポップした下位個体を食い散らかして際限なくレベルが上がり、手が付けられなくなることもありうるのだ。

 一定以上レベルの上がったモンスターは自力で迷宮を出ることもあり、野に放たれると周囲に甚大な被害をもたらすこともある。

 ちなみに、先程僕らが一撃で倒したナーガは、“レベルが上がっただけの通常個体”である。それにもっと低レベルの上位個体も居れば、同じレベルでも通常個体と上位個体では討伐難易度が数倍違うと言われている。


「えぇ、まずいですわ。もし上位個体が見つかれば、間違いなく課外授業は中止となるでしょう」


「まだ潜ってないんだけどなぁ」


「そこでその反応をするのは、エミリオさんくらいだと思いますわ……」


 呆れ顔でそんなことを返される。

 いやだって、手加減しなくても良いモンスターという相手が居て、変わった素材が手に入る一年に一度しかないチャンスがこの課外授業なのだ。折角の機会を棒に振りたくはない。


「そう……? とりあえず、情報集めかなぁ」


「それがいいと思いますわ。私達の入ることのできるエリアだとまだそこまで異常はないようです。『夜明け前』という認定探索者の調査団が中に入っております。あと二週間程度は調査すると言っておられましたので、何かあったらその人たちに聞くと良いでしょう」


「了解ー。そろそろ帰る?」


 立ち上がって砂を払っているダヴィアは、時計を確認している。話もひと段落ついたので、もう帰るのだろう。


「えぇ、長居して心配されるかもしれませんので。では……ミッツーネ先生も、帰りますわよ」


「えー、儂もうちょっと飲んでくー」


「帰ります! ほら皆さんも! ちゃんと片付けてください!」


 老人達から酒のボトルを奪い取り、ぶーぶー反論する老人達を立たせている姿を見てると、ダヴィアが老人ホームの職員さんか何かに見えてくる。なるほど、委員長気質は学校の外でも発揮されるのかと少し感心。

 随分未練たらたらのようだが、老人パーティの皆もしぶしぶ酒やツマミを片付け出す。

 僕らとは違い迷宮を出た後だったようなので、異常さえなければこんなところに長居する必要もないのだ。


 老人達が居なくなって小一時間。見たことないくらい楽しそうなノーラが戻ってきて、その後にのんびりと歩いてきたユリアとも合流し、僕らはようやく迷宮探索に取り掛かる。


 色々あったけど、ここからがようやく本番だ。

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