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 その日からは見張りの毎日だった。

 どこの家の住人が、いつ出したゴミなのか分からない。だからといって周辺全ての人間がゴミを捨てに来るたびにゴミを漁っていたらすぐに通報されてしまうし、早朝に出したゴミが昼までに回収されるので、夜など人通りの少ない時間に確認することもできない。

 だからもう、捨てる人を見るしかないのだ。

 ゴミ捨て場がギリギリで見えるくらい離れて、それを捨てに来る住人を全て見る。これでそれらしき人間が居れば良いのだが、駄目なら他の手段を考えないといけない。それこそもう、空き巣とか。


「んー……難しい」


 その呟きは、誰にも聞こえることなく風に流される。

 魔法の力で視力を強化することによって、対象から相当離れることができる。ゴミ捨て場の様子がギリギリ見える5階建ての建物の屋上で見張りを始めて、9日が経過した。

 ここはあまり人の出入りが多くないビルのようで、最近屋上が使われた痕跡は全くなく、深夜のうちに壁伝いに屋上に登っても誰かに見つかったことは一度もない。

 2階建ての民家が多いエリアにしてはかなり高い建物だが、屋上の縁で伏せれば下から見えることはほとんどないだろう。そもそも見上げる理由がないのだから当然だが。


 誰も来ないのが分かっているので、屋上の床には大量の落書きがされている。勿論、全て僕が書いたものだ。

 土属性の創造系統魔法でメモ用紙を作成しても良かったが、周辺に高い建物がない屋上はそれなりに風は強く、メモが飛んで行ってしまう。ならいっそとチョークで直接床に書いていると、少しだけ申し訳なくなる。使わなくなったら魔法で消せば良いのだが。


 流石に9日間も同じ場所からずっと見ていると、エリア内住家の家族構成が分かってくる。

 ほとんどが家族暮らしだ。一世帯もあれば、二世帯住宅もある。

 そこのゴミ回収場所を利用しているのが10軒程度とはいえ、住んでいる人間は50人以上も居る。地球のようにゴミ袋は透明でないといけないとか地域指定ゴミ袋があるというわけではなく、決まった曜日に決まった種類のゴミを捨てているだけでそれ以外の規則性が全くない為、エリアの住人全てに目を光らせていないといけない。

 周辺住民だとすると、注射器が何日も放置されていたことに気づかないとは思えないので、捨てられたのは注射器を見つけた日の朝だ。

 そうなると可燃ゴミの回収日だが、可燃ゴミは週3で回収がある。日本でも可燃ゴミ回収は週2な地域が多かったので、よほど綺麗好きな街なのだろう。


 遅くともあと1時間程度で回収が来てしまう。住人の9割は早朝にゴミを捨てて行き、活動時間が夜型な一部の住人だけが昼前に捨てに来る。


 うん、試すなら今かな。


「栄光の門よ開け、我が名はエミリオ・ブランジェ。彼方より来たりし外界の神よ、異相の神ルゴスよ。我は奏でる者、外界讃えし奏者なり」


 門魔法による、魔力の集約。知った者が見れば、周辺の魔力がこのビルの屋上に集まっていく様子が見えるかもしれない。目立たないように極力試したくはなかったが、何の進展もないまま10日目になるのはかなり辛いものがある。

 あの日以来、門魔法は元々ルゴスに繋がっていた異相門を除いて、詠唱のどこかにルゴスの名前を言わなければ発動しなくなった。ルゴスの言っていた接続先の情報というのをそれで補完していると思われる。あれがどこに居るのかさっぱり認識していないが、名を告げれば発動するものはするので気にしない。


「《麻薬鑑定》」


 鑑定魔法は、通常射程距離が極端に短い。最も習得難易度が高いステータス鑑定に至っては、魔法のスキルレベルを最大まで上げたところで3mもないほどだ。

 射程を伸ばすにはその魔法の熟練度を上げるほか、消費魔力を増やすことでも成せる。僕の魔力量では10mも伸ばせないので、そこに二つの補助を利用する。

 一つ目が栄光門による魔力の限界突破、二つ目が鑑定対象を毒物全般ではなく麻薬に絞ることで、魔力の効率化を図ること。


 9日間の調査と記憶によって、今回収場所にあるゴミ袋がどの家庭から出た誰の捨てたゴミなのかまで分かる。

 これで反応があれば、クロだ。


「お、あるある」


 射程はギリギリで足りたようだ。80mほど離れているが、これでも届くとは栄光門様様だ。

 鑑定結果には以前と同じ薬物反応がある。鑑定に失敗したならそこに麻薬がないということだし、成功したならあそこのどこかに対象物があるということ。

 重なり合ったゴミ袋の、どれに鑑定が反応しているのかはまだ分からない。そうなったらもう、開けてみるしかない。この際少しくらい人目についても構わない。どうせゴミ回収場所は裏通りにあるから直接通る人は少ないし、ホームレスの居ないこの街にとっては、そこらへんの子供がイタズラでちょっとゴミを漁ってる程度にしか見えないはずだ。


 前と同じ注射器があるなら、回収業者が来る前にそれを確認しなければならない。今ならどのゴミ袋をどこに住んでる誰が捨てたかまで覚えているので、見つけさえすれば勝利だ。

 もう、少しくらい目立っても良いだろう。幸いこの建物に目を向けてる人は居ない。


「《クリエイト・ロープ》」


 土属性、創造系統の魔法でロープを作成。一方を貯水タンクの足に結び付け、もう一方を外に投げる。適当に作ったので地面まで1mほど長さが足りないが、まぁそのくらいなら大丈夫。


「よっと」


 紐を掴み、飛び降りる。

 うん大丈夫。視界には数人の住人が映るが、誰もこちらを見てはいない。

 そもそも、空から子供がロープを伝って降りてくるなんて考えもしないはずだ。


 ロープを掴む指が、手のひらが摩擦で焼ける。相当痛いが、離さない。

 ラペリングができれば良かったが、そんな練習をしていたら流石に目立ってしまう。

 なに、ちょっと怪我をしても魔法で治せば良いのだ。擦り傷くらいなら今の僕でも治すことができる。


「痛い痛い痛い痛いッ!!」


 いやいやいや流石に5階分の垂直落下はきっつい。痛い痛い痛い! 横着せずに皮手袋くらい作っとけば良かった!

 大人と比べると体重が軽くて負荷が少ないから行けると思ったが、筋力も同じように少ないという発想がなかった。これまで魔法ばかりで体を動かしてもいなかったから尚更だ。


「っつぁあー!」


 着地。最後はロープも足りないので割と落下。両足で着地したが、かなりじんじんする。手も痛いし足も痛い。用意はするべきだったね!

 幸い見てる人は誰もいなかったようで、着地の衝撃に結構な大声を出してしまったが誰も近づいてはこない。良かった良かった。


 休憩したい気持ちを抑えて、ゴミ回収場所へ走る。

 周囲の人を確認して、誰がどこへ向かうかも頭に入れておく。子供がゴミを漁っていても気にはされないだろうが、もし偶然最初に通りがかった人が声をかけてくるような性格だったらまずい。なるべくなら人が通るまでに、確認してやる。


「着いた! 目指せ1分!」


 まずは一つ目のゴミ袋。ダークグレーの袋で、結構固めに結ばれてる。指を突き刺して破りたい気持ちもあるが、それをすると元に戻せないのでやめておく。


「っていきなりヒットォー!??」


 いくらなんでも声が出るでしょ。最初の袋を開けたら、まず一番上に注射器があった。鑑定するとモロ覚醒剤。偶然すぎでは?

 いやいやいやそんな簡単に終わるわけが。適当に縛っておいて、次の袋に手を付ける。


「え、ちょっと」


 次の袋。なんとこれにも注射器が3本。最初の袋と違って、他のゴミで紛れさせて多少誤魔化そうという気持ちは感じるが、どっちにしろすぐに見つけた。

 一応鑑定するとこれも覚醒剤。どういうことなの?


 そこから更に3つの袋を開封した。しかし、覚醒剤の反応がある注射器が入っていたのは、最初の二つだけだった。

 他にも袋は残っているが時間切れ。既に2つの袋から見つけているので充分だ。


 注射器が入った袋を捨てていたのは、片方は一人暮らしの成人男性、もう片方は家族連れ。DNA鑑定ができるわけではないので家族のうち誰が使っていたかは分からないが、3本もあるなら3人が使っている可能性はある。一人で3回という可能性もあるが、どちらも考慮して良いだろう。


 ゴミ回収場所を早足で離れる。これからどうするかは、9日待っている間に決めていた。

 一軒だけではないことには驚いたが、手口は変えないで構わない。こういう時子供は便利だな、やっぱり。

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