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復讐者の英雄譚  作者: 琴道はこで
2章・少女の激闘編
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6・ヒロイン

 昼食を食べ終えたユキア達は、工場の見学をさせてもらっている。

 「ねえユキア、この世界にもレーザー光線なんてあるんだね」

 「そう言う言い方をしているってことは、お前の世界にもあるってことか」


 この世界のレーザーは、発射台の内部に搭載された巨大なマナ蓄積装置により、膨大なマナを蓄積することで、強力なレーザー光線を撃つことが出来る。

 ただ、レーザーは作るコストが非常に高く、発射までに時間がかかるので、どの国もあまり所有していない。


 向こうの世界には魔法が無いと言っていた筈なので、向こうの世界のレーザーは、恐らくこの世界の物とは違うのだろう。

 向こうの世界のレーザーの構造が気になるが、今は貴重な工場見学の時間である。ユキアはすぐに思考を切り替え、工場の中を観察する。


 ユキア達が見学している工場は、この国でも最高の工業施設である。

 部品はどれも最新の物を使用しており、軍用の新兵器や、日常用の新たな道具の大半がここで発明されている。


 レーザー光線の発射台もお手の物で、ユキア達がいる工場の中心部には、ユキアの身長の何倍もあるこの国最高威力のレーザー光線の発射台が設置されている。


 その威力は凄まじく、一発撃てば野原が一瞬にして全焼する程らしい。

 「ねえ? ここの世界のレーザーはどうやって出来ているの?」

 晴信の疑問にユキアははあと息をはくと、レーザーの説明を始めた。


~~~~~


 工場の見学を一通り終え、ユキア達は次の施設へと移動を始める。元々工場には見学出来る所も限られており、見学を終えるまでにそこまでの時間はかからなかった。


 次の施設は、この国最高の技術力を誇り、世界中で販売されている有名な武器屋である。

 ここの武器は、とにかく性能が高く、人工装備品の中では最高と言われる剣『偽聖剣エクスカリバー』を作ったことで有名だ。


 『偽聖剣エクスカリバー』は、伝説とされるエクスカリバーの特徴を、出来るだけ似せて作った最高の人工装備であるが、何者かが高額で買い取ったため、今は何処にあるのかはハッキリとしていない。


 特に装備品を整えたいわけではなかったのだが、最高の人工装備を作った場所というのは、武器マニアであるユキアを動かすには十分の理由だった。


 工場から約十分、ユキア達は武器屋の前に辿り着く。

 「うわー、オシャレな店だね」

 「……」

 ユキアは言葉を失う。理由は簡単である。目の前に聳え立っていたのは、ユキアの知っている武器屋と違い、まるで高級な洋服店のように綺麗な建物だったのである。


 中に入ると、名の知れた有名な装備がズラリと並べられており、天井にはシャンデリアが吊り下げられ、ユキアの武器の常識をぶち壊すぐらいに綺麗な内装であった。

 だが、ユキアの注目は別の物へと向けられていた。中央の飾られている一本の槍が、他の装備とは比べ物にならないほどの異彩を放っているのである。


 ユキアは槍が飾られているショーケースへと向かい、その槍を確認する。値札は貼られていなかったが、槍の柄には、しっかりとその名が刻まれていた。

 (終焉槍レヴァーテイン)

 「終焉槍レヴァーテイン」

 ユキアはその名を呟く。ユキアの直感が……いや、最強クラスの精霊であるルシフェルの直感が、この槍がヤバい物だと告げている。


 「こいつに興味があるのか」

 声のする方へ向くと、店の奥からハチマキを巻いた中年の男が出てくる。ユキアにはその男に見覚えがある。確か『偽聖剣エクスカリバー』を作ったこの国一の武器職人、トルス・ラモンである。


 「トルス・ラモン……さん」

 「おお、あんた騎士団の……」

 「人違いです!」

 トルスの言葉に、ユキアは素早く口を挟む。その言葉にトルスは暫く考えた後、こちらに向き直り「じゃあお客さん、こいつに興味があるのか」と聞き返した。どうやらこちらに合わせてくれるようだ。


 「はい。この槍がやけに気になって」

 「ああ、その槍はレヴァーテイン。昨日発見された太古の槍さ」

 「太古の槍……」

 その言葉を聞き、ユキアは少し顔をしかめる。太古の装備と言うと、ユキア達も所持する聖剣、もしくはその次に強いとされる龍剣ぐらいである。

 

 ユキアは考えを巡らせるが、トルスはそのまま言葉を続ける。

 「この槍にはマナを喰らう力があり、持っているだけでマナが持っていかれちまう。何もかもだ」

 マナは生命の源である。マナ切れという言葉があるが、それは魔法に消費出来るマナが切れただけであり、全てのマナを使い果たしたわけではない。

 だがこの槍は、全てを喰らい尽くす。魔法用、そして生存用を問わず。つまり、この槍を使いすぎると……

 

 「死んでしまうんだね」

 ふと左を見ると、いつの間にか晴信が椅子に座っていた。しかも「レヴァーテインって槍なんだ」と呟いているので、やはり異世界の伝説にあったのだろう。


 ユキア達は一通り装備を見終え、外に出る。空は朱色に染まり、日は今にも沈みそうな様子だった。

 「なあ、そろそろ夜飯にしないか?」

 ユキアの提案に、晴信が首肯すると、ユキア達は店を探して歩き始める。


 ~~~~~


 それから二時間後……。

 腹をいっぱいにしたユキア達は、宿への道を歩いている。お互い話す事がないのか、沈黙の時間が流れる。


 「ねぇユキア」

 「なんだ晴信」

 唐突な質問に、ユキアは慌てて返す。


 「僕ね、何かが足りないと思っていたんだ」

 「おお」

 ユキアとしては、旅に必要な物は全て揃えた筈である。見落としがないか考え始めるが、晴信はさして気に留める様子もなく続ける。

 「それはね……ヒロインだよ!」

 「は?」

 突然意味不明なことを言いだす晴信。恐らく向こうの世界の言葉であろうが、そのニュアンスからは想像もつかない。


 「なあ、ヒロインってな……」

 そこでユキアはふと思い出す。確か晴信にアニメを教えてもらった時に聞いた言葉である。作品の華だとか言っていた気がする。


 「で、なんでヒロイン?」

 「あのねユキア、異世界転移してきたキャラクターは、大体綺麗な女の子に囲まれる運命なんだよ!」

 ユキアが尋ねると、晴信は興奮気味に答える。正直そんな都合のいい運命があるとは思えないが、晴信がこんなにも興奮しているのだ、もしかしたら……いやないな。

 心で結論を出し角を右に曲がると、壁にもたれ掛かっている少女を、五人の男が囲いこんでいるのが見えた。


 しかも、「なあ、ちょっと遊ぼうぜ」「ちょっとだけだって」なんて声も聞こえてくる。ナンパだな。そこでふとさっきの話を思い出す。


 そんな光景を見て、晴信は目をキラキラと輝かせながら「これこれ」と呟いている。

 ここからじゃ少女の様子はよく見えないが、これは明らかにいけない状況だろう。


 「なあ晴信、これ助けた方がいいやつじゃない?」

 「分かってるユキア、助けに行こう。」

 晴信がやたらノリノリなのは置いておき、ユキア達は男達の方へと向かう。


 「ねえ、彼女嫌がっているよ。放して上げたらどうだい。」

 そう言って前に出ていく晴信、その少女を見ると、青紫の髪はポニーテールで結ばれていて、少しだけ鋭い目は、ルビーのように赤く、整えられた容姿は、まるで人形のように美しかった。


 そんな彼女は俯いていて、凄く悲しそうな表情をしている。ナンパされている最中なので当然ではあるのだが、彼女の意識は、何か別の、どちらかと言うと謝罪に近いその表情に、ユキアは心当たりがあった。

 今の彼女の表情を言葉で例えるなら……


 ――守りたいものが守れなかった。そんな表情だ。


 その感情は、今もユキアが抱き続け、そして生涯抱き続ける感情。そんな彼女に意識を奪われていると、彼女を取り囲んでいる男達が、ユキア達を睨み付ける。


 「ああ、喧嘩売ってんのか?」

 「喧嘩なら買ってやるぜ。ほらほら」

 男達が凄い勢いで迫ってくる。特に男達には用がなかったが、男達を倒さなければいけないのも確かである。ユキアは手にマナを集中させ、男達に魔法を唱える。

 「バインド、バインド、バインド」 

 計十本の鎖が、男達の両足を掴む。二本鎖が余っていたが、必要ないので待機させる。


 足を縛られ動けなくなっている男達に、ユキアは殴りかかる。

男達も殴りかかるが、朝にライトニングウルフと戦ったばっかりのユキアである、避けるのは容易いことだ。


 晴信が男達の後ろに周り、晴信は鋭い一撃を背中に打ち込む。足が固定されている男達に避けられる筈がないない。

 晴信はともかくユキアの一撃を食らった男は、そのまま地面に屈伏する。


 「くそ! 逃げるぞ」

 晴信の一撃を一発ずつ食らっていった男達は、情けない背中を見せながら逃げていく。ユキアの一撃は気絶してしまった為、地面に屈伏したままである。


 戦闘が終わり少女を見てみると、少女の表情が少し和らいでいる。というより驚いていると言った方がいいのかもしれない。

 ただ、少女の表情は未だに曇ったままだ。晴信が少女に話して掛けようとしているので、ユキアはこっそり「ルシフェル」と呟き、真実の眼を発動する。


 「大丈夫かい?」

 晴信の言葉に反応した少女は、もたれ掛かっている壁から背中を放し、ユキア達に向かって口を開く。


 「別に感謝なんかしていないから、あんな奴ら、私一人でもどうにかなるし」

 そう言葉を吐き捨てた少女は、よろよろとよろけながら帰っていく。


 助けられて感謝の一つも見せない少女だったが、ユキアはうんと首を傾げる。少女の周りからは、黒いオーラが出ていたのである。別にここで嘘をついて、良いことなどないし、むしろ悪いことしかないだろう。


 暫く考えたユキアだったが、ここで一つの答えに辿り着く。ツンデレ、その言葉で全ての説明がつくのだ。確認の為に晴信の方へ向くと……

 「ねえ、なんか悪いことしたかな? 僕達」


 何故か自分達が怒らせたと思っている晴信を見て、ユキアが笑いを堪えきれなくなるまでに、そう時間はかからなかった。

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