番外編ユキアのショッピング
この話は2話と2.5話を合体させたときに空いた枠を埋めるためのものです。
ただの小話となっておりますのでいつもより文字数が少ないです。
周りからはざわざわと騒がしい音が聞こえる。
「何か掘り出し物はないかー」
復讐を決めた少年ユキア・ベリアスは、雑貨屋にてアイテムを漁っていた。
(なあ、ポーションなら王都で買った方が良いんじゃねえか?)
アイテムを漁っていると、心臓の方から声が聞こえた。
(なんだルシフェル)
その声を聞いたユキアは、その声の主に向かって話しかける。否、正確言うならば話しかける内容を考えると言うのが正しいだろう。
(だからなんで王都で買わなかったんだよ、そっちの方が性能だっていいし味もいいし)
(味なんてしるか! 王都の特製ポーションなんて持ってる初心者冒険者が何処にいる)
ルシフェルが不満を漏らすと、ユキアが叱りつけるように答える。本来ならポーション屋で全て揃える筈だったのだが、たまたま一本足りなかったため、雑貨屋にてアイテムの山を漁る羽目になっている。
(てかポーションに味なんてあるのか?)
(ああ、王都のやつは結構美味い)
ユキアが作業を止めて尋ねると、ルシフェルは勢いよく返した。
ユキアには分からないが、どうやら精霊には分かるらしい。これからは不味いポーションを選ぼうと心に決めたユキアは、再びアイテムの山を漁る作業へと戻る。
(なあ、あれポーションじゃね?)
ルシフェルが指差した方向、いや、ルシフェルの指は見えないので、ルシフェルが指差したように感じた場所を見てみると、青く輝く瓶を見つけた。
「あった!」
今まで見たことのない瓶だがいいだろう。ユキアは手早く会計を済ませ店を出る。するとその瞬間、村中に鐘の音が鳴り響いた。
「ゴブリンだ! ゴブリン軍団の襲撃だー!」
「はあ?」
ユキアは突然の事に素っ頓狂な声を上げる。何せゴブリンの襲撃なんて聞いたこともない。しかも『ビギナー』に攻めて来るとなると大惨事は免れない。
(どうするんだ? 旅に出る前から目立っちまうぜ?)
(くっ)
確かにユキアにはゴブリンを全滅させる程の力を持つ。しかし、ここで目立ってしまえば今後の旅に支障が出る。
「ギギー!」
そうこうしているうちに、町に侵入したゴブリンがユキアに襲いかかってくる。ユキアは右手を構えゴブリンの棍棒を受け止め……
「あっ」
そこでユキアはまたしても素っ頓狂な声を上げてしまう。ユキアの右手は、先程買ったポーションを握ったままだったのである。
パリンッ
瓶は砕け、中のポーションが顔中にかかる。折角見つけたポーションがこんなところで無駄になるとは思わなかったが、今はそれよりも町である。ユキアがゴブリンに攻撃しようとしたその時、体の中が熱くなるような感覚がした。
(おい、一体何があったんだ)
(えっと、それはだなー)
ユキアの質問に、ルシフェルが唸るように考え込む。だが何故か笑いを堪える風に思えたのは気のせいだろう。
(どうやらそのポーションには触れた人の性別を一日入れ替える効果があるらしいぜ)
ルシフェルの解答に、ユキアは一瞬思考が止まる。そういえば胸元が苦しいような、体も少し締まっている気が……
「って、なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!」
ユキアは一頻り叫んだ後、呼吸を整え襲ってきたゴブリンを睨みつける。
「ルシフェル!!」
その後、正体不明の美少女冒険者が、ほぼ単体でゴブリン軍団を全滅したというニュースが国中に広がる事となるのだが、未だに美少女冒険者の正体を知る者はいない。