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復讐者の英雄譚  作者: 琴道はこで
2章・少女の激闘編
13/18

11・火槍と贋作

 セリナは屋根を跳び移りながら計画が行われるクラフトダイアス学園へと向かっている。

 この作戦が成功してしまえば尋常じゃない被害が出る。その上マインドコントロールのせいで町の人達は宛にはならない。セリナは使命感を覚えると、校舎の屋上の柵へと跳び移り校庭を見る。

 校庭にはレーザーの発射台が置かれており、その周りを町長と数人の魔法使いが取り囲み呪文を唱えている。


 今回の勝利条件はレーザーの発射台の破壊、もしくはさっき町長と共にいたアーサの殺害。

 レーザー発射台は校庭に置いてあるからいいとして、アーサという人がわからない。さっき話を聞いた時もクローゼットに隠れていたから姿までは見てはいない上、この距離だと声が聞こえないから声による判別も出来ない。


 奇襲しかない。やがてセリナの中で作戦が決まる。誰かわからないアーサを無視してレーザーの発射台を破壊する。呪文を唱えている間に奇襲すれば相手にも隙が生まれるはずである、それだけあれば自分の槍で発射台を破壊できるだろう。


 覚悟を決めて踏み出そうとした瞬間。

 「みーつけた」

 背中から聞き覚えのある声が聞こえた。背筋が凍るような感覚に、セリナは慌てて距離を取り槍を構える。


 「おーやっぱりこの町最強の冒険者『火槍のセリナ』は違うなー。普通ならこのまま斬り刻まれる筈なんだが」

 そう言った男は髪は紺色のショートヘア、まるで盗賊のような服の腰に、鞘に入った剣が携えられている。そしてこの声、恐らくこいつが……


 「ここで自己紹介だ。俺はアーサ・クライン。そうだなーあんたがこの町最強の冒険者だから、俺はこの町最強の剣士って所かな?」

 そう言ったアーサは「次はあんただ」と振ってくる。

 「私はセリナ・キャンドル。あなたの知っての通り『火槍のセリナ』と言われているわ。あなた達の計画は知ってるの、だからあなたには、ここで死んでもらう。」


 そう言い終わるとセリナは再び槍を構え、その槍に炎を纏わせる。

 セリナが『火槍のセリナ』と呼ばれる理由はそこにある。セリナのみが使える魔法、ウェポンエレメンツは、セリナが握っている武器に自分の魔法を纏わせることができる。

 元々魔法を纏った武器はあるが、ウェポンエレメンツはどんな武器であっても魔法を纏わせることができるのが強みである。


 「いやー凄く堂々とした殺害予告だねー。でもこちとら死ぬ訳にはいかないんだわ。だからここで、遊ばせてもらうぜ」

 アーサは鞘から剣を抜き私に向けて剣を構える。その剣からは禍禍しいオーラのようなものが出ていて剣の表面はよく見えない。

 セリナは深く深呼吸すると、アーサの方へと向き直る。

 「いい、アーサ。あなたはここで、私が殺す!」


 一瞬の沈黙の後、二人の装備がぶつかり合う。禍禍しいオーラを纏った剣と激しい炎を纏った槍が、それぞれの特性を持った二つの装備が衝突する。火花が散り、『ガキン』という鈍い金属音が鳴り響く。


 「熱いねー、今まで見てきた中でも最高の炎だ」

 「私もよ。こんなに強い奴今までいなかったわ」

 当然二人とも本気ではない。今の衝突は相手の実力を図るためのものであり、本当の戦いはここからである。


 「手加減無しでいくわ!」

 「ああ、きな!」

 一度距離を取り再び両者が衝突する。セリナが力負けし槍ごと後ろへと飛ばされたが、セリナは素早く受け身を取った後、屋上の扉を蹴り再びアーサの方へと向かう。


 ガキン!


 再び鈍い金属音が鳴り響き、今度はアーサが力負けし後方へと飛ばされる。アーサは空中で受け身を取り柵にぶつかるすんでのところで踏みとどまった。

 しかし、その一瞬を逃すセリナではない。素早くアーサに接近すると、長いリーチを生かした連撃を繰り出す。アーサはその連撃を剣で受けきり、剣を大きく振り上げ地面へ叩きつける。


 セリナは大きく後方へ飛び退き、アーサはその隙に体勢を立て直す。今までの戦闘で両者傷はなく、位置もほぼ同じ位置に戻っている。変わっているところといえばさっきの一撃でひび割れた地面くらいだ。


 「あんた本当にこの町の住人? こんなに強かったら凄い噂になっていると思うんだけど」

 「今は住人だぜ。まあ来たのは二週間ほど前だがな」

 セリナの質問に対してアーサが返す。この会話の中でもお互いに隙を伺い、いつでも攻撃に移れるように武器を構えている。


 「いくわよ! ファイアレイン!」

 セリナの火魔法がアーサへと襲いかかる。接近戦だけでは埒が明かないと思い魔法を駆使した戦いへと切り替えたのだ。

 火魔法のファイアレインは、周囲に複数の魔方陣を展開させ、そこからまばらなタイミングで三発ずつ炎の玉を発射する魔法だ。


 「シャドーシールド」

 だが、まともに喰らうアーサではない。アーサは魔法を唱え、アーサを囲うように紫色の結界が現れる。結界に炎の玉がぶつかり白い煙が立ち込める。そして最後の炎の玉が結界にぶつかると同時に『パリン』と結界の割れる音がする。


 アーサが風魔法で煙を吹き飛ばすが、そこにはセリナの姿はない。

 「何!」

 ふと視線を下ろすと、セリナはアーサの懐に潜り込み両手にマナを集めていた。

 「はぁぁぁぁぁ!」

 アーサが剣で守るも既に遅く、セリナはマナを集めた平手で剣ごとアーサを吹き飛ばす。


 アーサは柵を突き破り体育館の屋根へと衝突する。

 これは火魔法のフレアブーストだ。一ヶ所にマナを集めることにより接触したときにマナを原動力として一気に加速することができる。


 セリナは後ろに突き刺した槍を手に取り体育館の屋根へ飛び降りる。

 アーサは、今までセリナが相手にした中でも一番の強敵だ。この程度で倒せたとは思ってはいない。


 ふと校庭を見ると、さっきまで設置されていたレーザーの発射台も、その周りで呪文を唱えていた町長達も消えていた。

 「計画は成功させちゃったみたいね。」

 これによって残された道はアーサを殺すことのみとなる。セリナは屋根に着地すると同時に呪文の詠唱を始める。

 

 「インフェルノ」

 インフェルノは、広範囲に広がる炎を発生させ辺りを火の海へと変える魔法だ。

 しかし、今回の使い方はそうじゃない。インフェルノの炎を全てセリナの槍へと集める。それにより、本来分散される筈だった炎が一ヶ所に集まり、最強の一撃へと変わる。


 いくら火魔法を扱うセリナであっても、インフェルノは無詠唱で唱えることはできない。この戦いにおいて使うことができるのは後1回だろう。

 セリナはアーサの方へと向き直し槍を構える。


 「なかなかやってくれんじゃねえか」

 アーサは屋根に剣を突き刺し、もたれ掛かりながらこちらを見ている。服はあちこちが破けており、体のあちこちが煤で汚れていた。


 「ファイアレイン!」

 再び複数の魔方陣が現れる。だが今回は攻撃の為ではない。

 「フレアブースト」

 今度は両足にマナを集め一気に加速する。それと同時に炎の玉が発射し、相手を囲うように通過する。

 

 アーサは攻撃を避けようとするが、炎の玉がそれを塞ぎ逃げ道を無くす。逃げることを諦めたアーサが剣を振り上げる。

 インフェルノを纏った槍と振り上げられた剣が衝突し、衝突時の衝撃波で体育館が崩壊し、爆炎で木材が灰となった。


 「はぁ……はぁ……はぁ……あいつは?」

 体育館で、いや、体育館があった場所でセリナはアーサの姿を探す。インフェルノを維持し続けたセリナの体力はあまり残されていない。


 やがて土煙の奥から黒い人影が現れる。この状況で出てくる奴なんて一人しかいないだろう。セリナは力を振り絞り槍を構える。


 「やっぱりあんたスゲーや」

 土煙の奥から声が聞こえ、風魔法により土煙が吹き飛ばされる。

 身体中が傷だらけになったアーサの剣からは、禍禍しいオーラは発せられていない。剣の真ん中には紫の線が入っていて、その周りは金色に染められている。


 「えっ?」

 声を発したのはセリナだった。セリナはその剣を知っている。伝説の聖剣の贋作にして、この町が産み出した最高傑作。


 『偽聖剣エクスカリバー』を。


 「嘘でしょ……」

 「嘘じゃねえー。こいつは『偽聖剣エクスカリバー』、知っての通り『聖剣エクスカリバー』の贋作だ。さっきまでは封印して戦ってたが、さっきの一撃で封印が解除されちまったみたいだ。面倒なんだよなー、再封印に三十分もかかっちまう」

 

 最大の一撃を持ってしても倒れない相手に、封印が解除された偽聖剣、体力が殆んど残っていないセリナに勝ち目なんてものは残っていない。


 「残念だがここで終わりだ。死んでなかったらまた戦おうぜ」

 そう言うと、アーサは剣を振り上げ、剣にマナを集める。セリナは最後の力を振り絞り槍にインフェルノを纏わせる。

 

 「塵一つ残さず消えろ! エクス……カリバァァァァァァ!!」

 叫びと共に振り下ろされた斬撃は、黄色い衝撃波の塊となり、校舎を真っ二つに切り裂いた。

 インフェルノを纏った槍など意味もなく、その衝撃波が過ぎ去った後には、宣言通り塵一つ残ってはいなかった。


 「あっそう言えば邪魔する奴が現れても殺すなって言われてたなー、すっかり忘れてた。まあ運が良かったことに助かったみたいだし、良しとするか」

 アーサはわざとらしくそう言った後、学校を後にした。

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