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1989年から

作者: 海空ひかる

 

さっき、パァンという、入眠時によく聞くような音が響いた。

人々の悲鳴騒めき騒音阿鼻叫喚、僕が肩をすごい力で後ろから捕まれ、転倒しようとしている真っ最中、時は恐ろしくゆっくりと流れて、僕は首をひねり、肩をつかんでいる人の実態をつかもうとしたが、後ろに人などいなく、ただ、肩から流れる血に硬直するばかりだった。

 なぜ痛くないんだ?返り血か?いや、でも、この血は、僕のだ、僕のピンクの血が流れていく、噴き出して、時が元の速さに戻ったとき、僕は頭を地面に打ち付けた。

 意識ははっきりしすぎ、すがすがしいほどの青空しか見えない。体が動かず、金縛りにあっているよう。さっきまで人々で賑わっていたこの広場も、今では僕しかいなくなった。それは音ですぐにわかった。

 数週間前までは、人が撃たれればみんなスマートフォンで写真を撮ってSNSに上げて、「反対」「惨劇」「許せない」などと偽善ぶった言い訳をつけてその死骸の画像をたしなみ、その哀れな姿を、またその画像を見ている自己愛を、楽しんでいた。

 僕はあいにくその現場に居合わせたことがなく、いまいち信じてもいなかった。どうせどこかのドッキリ企画だろうと思い、信じない人々だけが街にあふれるようになった。なぜ信じないかって?ニュースで報道しないからだ。

 指が動き始めたぞ。僕の体をだれか起こしてくれ。誰か来てくれ。青い空を流れる遅い雲を見ていると、この時間が永遠に続くような気がしてくる。不安だ。僕は死んでいない。不安だ。潔く死ねれば。生き残ってしまった。血が固まって傷を塞いでいる。生きている。なぜ、なぜ、な、僕は死にたいのに。生きてしまった。残念だ。

 さようなら。

 体が動いた。もう先は短い。起き上がってみる。コンクリートにへばりついた僕のピンクの血が変色して青くなっている。固まった血は緑の宝石だった。

 僕の体はもう溶け始めている。どろどろと、黄色いきらきらした液体になって、それが固まって、琥珀になる。僕の原型が消える。もう足がない。

 この日記にこの文字を残すのも大変になってきた。片腕の指先に虫が湧き始めている。

さようなら。僕、愛した誰か、

 まだ間に合う、これは人体実験だ。僕は生まれつき体がへんで、一度死んだ。そのとき、体のそこらじゅうをいじくられ、血も何もかも入れ替えられてしまった、心臓はビニールとゴムでできている。僕が選ばれたのはぐうぜんだろうあk、このけんきゅーじょのこのひさんなじっけんに、ぼくはもうにんげんになれない、うたれたひとはきいおrになり、こはきうになり、にんげねfなくなる、それはだしにらうない、しなtく、

死にたくない

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