神様のレシピ
第一章 世界の終わりを告げる者
「まだ早いよ」
朦朧としてベッドに横たわるわたしを見てリタはそう言った。
「僕は君が死のうとするのを見て止めなかった。」
「何故だかわかるかい?」
(・・・・・・・・。)
(私なんてどうでもいいから)
(だから君は止めなかった)
「君が死なないと知っていたからだ。」
「君が屋上から飛び降りたとき丁度雨で地面がぬかるんでいた。
落下中ムクノキの枝に当たったことも衝撃を和らげたのだろう。」
「”あれ”を知る前の僕だったら必死になって助けようとしただろうな」
(・・・なに?あれって)
「神様のレシピだよ。」
「この世界の、少なくとも人間が辿る運命は神様が決めた分量によって動いてる」
「一人一人の力ではどうにもならない巨大な運命が渦巻いているんだ」
「・・・僕は冒頭に”まだ早い”と言った。何故なら君はこれからこの世界が辿る運命を知らないからだ。」
「本当のことを知るまで・・・10代にありがちな希死念慮で君に死なれては困る」
(・・・私には関係ない、世界のことなんてどうでもいい)
「そう思うかどうかは事実を知るまでわからないだろう」
「にわかに信じがたい話かもしれないが、今から4年後には人類の総人口は現在の3%まで減少する」
「原因は第3次世界大戦の勃発、世界各地で起こる大地震や津波、火山の噴火などが挙げられる」
「そしてここからが重要なところだ。4年後に生き残る3%の人類の中に君も含まれているんだ。」
「旧約聖書で例えるならノアの箱舟に乗ったようなものだ」
(信じないよそんな話。)
「やはりそう思うだろうな。僕も何の証拠もなしに信じてもらえるとは思ってない」
「皮肉なことに現時点で僕が提出できる証拠は何もない」
「だけど・・・これは君が4年後まで生きていてくれたらわかることだ。」
「きっとその時は僕も祝福できる。何故なら僕も生き残るから。」
―――――わたしはその話を聞いて、これからの世界がどうなるのか少しわくわくしたんだ
◇
◇
それから4年後。
リタの予言は見事にはずれ、私たちのいる世界では戦争も災害も起こらなかった。
それでもリタは私を生かすために色んな嘘のシナリオを考えて語ってくれた。
(まったく懲りないやつだ)
大人になった私はリタのことを嘘つきと罵りながらも内心喜んでいたんだと、ふと、気が付いた。