8話:出会い:ルビアSide
このヴェストレア学院には、学院の風紀や秩序を守る事を目的とした学生警備の騎士団。正式名を『聖炎騎士団』と言う組織が存在する。
通常、騎士団の人達が定期で学院内を巡回しており、規定違反の生徒がいたら罰則を与えたりする権利を有している。
夜遅くに私がこの場にいるのが知られると当然罰を受ける事になる。
それでも私は、今日のこの時間広場にやってきた。それは聖霊使いとしての修練を少しでも行う為にだ。
この学院での唯一の友達であるクリスに、
『今日この時間は騎士団の連中は休憩していて30分くらいなら時間があるみたいよ』
と「ありがとー!」と抱き付きながらクリスに感謝した。その際頬を染めて慌てるクリスが可愛かった。
そして、教えて貰った時間にここに来た。
「…うん、この時間ならたくさん練習できそう」
私が何故こんな人目のない時間に修練するのには理由があった。
それは、私が落ちこぼれの聖霊使いだから……
私の名前は『ルビア・ローゼンベルグ』。
ヴェルティナ帝国において四大貴族と呼ばれる、ローゼンベルグ公爵家という代々優秀な聖霊使いを輩出してきた家に生まれた次女である。
ローゼンベルグ家は2つの理由で有名であり、同時に悲しいけど私にとっては大きな枷となっているのだ。
1つ目は、過去のローゼンベルグ家の聖霊使いが【世界樹祭】に参戦し、見事優勝を果たしたのだ。そして優勝者に与えられる“願いの奇跡”にて【六柱の聖霊王】の一柱である【地の聖霊王】から特別な力を持った聖霊を与えられたのだ。
2つ目はルビアの3つ年上の姉であるセフィリカ・ローゼンベルグの存在である。
『セフィリカ・ローゼンベルグ』…このヴェストレア学院の学院長を務めているクローディア・ウイッチクラウドと同じ『聖十騎将』の称号を与えられた聖帝騎士であった。『聖十騎将』時代は聖座1位で『太陽の姫騎士』と呼ばれ、他の聖霊使い達から尊敬と畏怖を集めていた。
…しかし数年前に起きた聖霊の暴走事件の後、セフィリカ・ローゼンベルグは忽然と消息を絶ったのだった……
これらの理由からローゼンベルグ家であるルビアも、入学当時は周囲から期待された。ルビアの聖霊使いとしての能力は期待以下のものだった。
ルビアは契約している聖霊の本体である『純聖体』を呼びだす事が出来ない。一応『聖霊剣』として呼ぶ事は出来るが制御する事が出来ていいないのが現状だった。
この学院に入学して2年目、つまり1年が経過しての今では周囲から”落ちこぼれ”と呼ばれてすらいるのが現状だった……
ルビアは気持ちを入れ直し修練を始めた。
修練に集中していたからか、この場にいる2人の視線がルビアに向いていたのだが、ルビアは気付く事はなかった。
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ルビアは右手の刻印を通じて契約している聖霊を『聖霊剣』と呼ばれる形態として聖霊界から呼び出した。
聖霊には2つの形態があり1つが聖霊本来の姿である、『純聖体』と、武装形態としての姿である『聖霊剣』である。大半の聖霊が剣のような形状を取る事からそう呼ばれている。
ルビアの右手には、ルビアの髪の色と同じ瑠璃色の木製のレイピアが握られていた。
ルビアが契約している聖霊【グリモワール】の『聖霊剣』としての姿である。
この聖霊【グリモワール】こそが、かつてローゼンベルグ家の聖霊使いが【世界樹祭】に勝利した『願い』で得た、他の聖霊と仮契約する事でその聖霊を一時的に使役し能力を使う事が出来る数少ない“召喚”属性を持つ特別な聖霊である。
【グリモワール】の本質は、本来72の聖霊と仮契約する事が出来、仮契約を結んだ聖霊の力を使う事が出来るはずなのだ。だがルビアが仮契約出来ているのは1つの【樹木聖霊】のみしか使役できないのである。しかも聖霊魔法を制御できず失敗する事があるのである。
「…よーし! まずこれを!“種子弾”!!」
ルビアの右手の『聖霊剣』』が光ると、ルビアの周囲に5つの種子弾の生成に成功した。
ルビアが発動したこの“種子弾”の発動成功率は六割程で、成功率は半々であった。
確かに発動には成功した様だが、しかし「よーし!」とルビアが成功した事に喜んだ瞬間だった。ルビアの制御を失い、制御を失った5つの“種子弾”は明後日の方にそれぞれ飛んでいってしまった。
(しまった!?また失敗した!)
と思い落胆した次の瞬間だった。飛んでいった1つの種子弾が被弾した辺りから「うわっ!」と言う自分以外の誰かの驚いた声が聴こえてきた。
「!?…誰?誰かそこにいるの?」
ルビアは声の聞こえた方に振り向くと、そこには黒いフードを被り、そのフードから微かに見える銀の髪、戸惑ったような綺麗な紺色の瞳、そして黒衣の服を纏った、此処に居るはずがない男の子が其処にいた……。
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「えっ、侵入者!? しかも…男の子?」
私に見つかった事で侵入者である銀髪の黒衣の少年は、この場から離脱しようと行動しようとした瞬間、私は彼目掛けて駆け出した。
落ちこぼれの私だけど、私だって栄えあるヴェストレア学院に所属する聖霊使いなのだ。どんな目的であろうと侵入した不審者を捕まえないといけない!
そして私が習得している聖霊魔法の中では発動して、一番安定して発動できる“樹木の鞭”を展開した。レイピアの刃の部分がまるで樹木の鞭に変化した。
そして私は侵入者の彼に向けて“樹木の鞭”を打ち付けようとした。
「逃がさないわよ!いっけぇー‼」
しかし侵入者の少年が腰の短剣を抜き放つと私の放った“樹木の鞭”を弾き飛ばした。
“樹木の鞭”を弾き飛ばした際の衝撃で持っていた短剣は砕けた様だったが、侵入者の彼は気にせずまるで足に風を纏ったかのように、遠くの塀まで跳躍していた。
「うそ!? 今のは!…」
私が彼に聖魂の流れを感じとって驚いた瞬間だった。
そして今の、もしくは先程の誤爆の騒ぎを聞きつけたのか、校舎からヴェストレア学院の制服の上に鎧を纏い、腰には剣を帯刀している、【聖炎騎士団】に所属している見知った2人が現れた。
「お前達、ここで何をしている!?…アレは侵入者か!?…」
「貴様は、ユニコーンクラスの、落ちこぼれのルビア?ここで何を?」
時間外に外出していた規則違反の私と、侵入者の彼に2人の騎士団員は叫んだ。
「困ったなぁ」と、この後どうしようか考えたその瞬間に、侵入者の彼は私と騎士団の二人に向かって丸い何かを投げつけてきた…
「「「!?」」」
投げて来た丸いものがプシューと音を出す周囲に煙が充満した。彼は煙幕を投げたのだ。
私は手で煙を吸わないようにしながらこの場を離れた。
あの彼を追う為に…
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そして煙幕の煙が晴れた頃には広場には騎士団の二人だけだった……
「くそっ!油断した。侵入者は? どこに行った?」
「…ルビアもいない?」
「ルビアなど後でいい!それより侵入者だ! よりによって団長がいない時にこんな失態を…とにかく探そう」
「そうね。まだ敷地内にいそうだし。他の者にも応援を頼みましょう」
2人は侵入者を探し始めるのだった。
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「……ふん…あと、もう少しか……私の―も…これで」
一連の騒動を闇の中から見ていた黒衣に悪魔のような白い仮面をつけたその人物はそう呟くと、闇に融けるように消えていった…