13話:そして始まる学院生活へ
今日から共に過ごす事になった部屋に入る。
部屋は思っていたより意外と広かった。まあこの学院の大半は貴族出身の子が多いからこのくらい当然なのだろうかと思い直す。
シャワールームにキッチン、共有スペースに、其々の個別のスペース。
まず俺が使う部屋のスペースに案内された。
部屋の中は机に椅子、収納する棚、普通のベッドがあるのみだ。普段の生活に問題は特にみられないと思う。必要なものはこれから補充すればいいしね。
「今日からここが貴方の部屋よ。……気になるので聞きたいのだけど、その子は誰?」
「この子は…」
『私は愛しきマスターの契約聖霊。名をハルモニウムという!同じ間で過ごす同士、宜しく頼もうぞ!』
ルビアさんは椅子に、俺とハルモはベッドに腰掛けている。
部屋の椅子に座って怪訝そうに俺に質問して来たルビアさんに、俺の横に腰掛けているハルモの紹介をする前に、ハルモ自身が先に名乗った。
質問してきたルビアさんは疑うような眼差しを向けていた。
その疑う視線に、「またかぁ!」と言う様に不満を抱いたハルモが先程俺にしたように証明しようとベッドから立ち上がると声を上げた。
『ムー!お主も信じぬか!これを見るがいい!』
と、先程俺の時のように聖霊剣としての姿に変化した。そして再び人間の姿に戻る。
その光景にルビアさんの疑いの眼差しは驚きの眼差しに代わっていた。
「……驚いたわ!人間の姿になれる聖霊なんて初めて見たもの」
「俺も初めは驚いたね。…そうだ!自己紹介がまだだったね。俺はルミナ。その色々あると思うけどこれから、その、ハルモ共々宜しくお願いします、ルビアさん」
「こちらこそ。私はルビア・ローゼンベルグよ。私の事はルビアと呼び捨てでいいわ。その…宜しく、えっと、ルミナ」
「ああ、よろしく。改めて、ルビア」
そんなやり取りの後、お互いの自己紹介を行った。
俺は、ルビアからいろいろ質問されたので、当たり障りのない程度に答えた。俺が昔の、5年程前からの記憶がない事や、どうしてか男の身でありながら聖魂を有しており、聖霊契約の力も有しているか分からない等を、そして今まで色んな事をしてきたこと。
そんな時だった。
話していると俺のお腹の虫が鳴った。あの夜から、目覚めるまで、実は二日程経っていたようだ。その間何も食べていないのだ。正直お腹が空いたのだ。
「クス…あっ、ごめんなさい。朝食にしましょうか。実は私もまだなのよ」
ルビアは笑みを浮かべた。3人は部屋を出て共有スペースに移動した。そしてルビアはキッチンから予め用意していた色々なパンと、いい香りのする紅茶を運んできた。
どうやら寮で自炊する事もできる様だ。
まっ、どうやらこの学院に所属している聖霊使いの大半は貴族出身者なので利用するものはいないとルビアが教えてくれた。大きめの食堂があるようで基本そちらを利用する者が殆どである。因みにルビアもできないらしい。と言うよりしたことがない様だ。
テーブルに着くと3人で食事を始めた。ハルモも普通に食べていた。はむはむとパンを口にしている。疑問に思ったので聞いたのだが、ハルモによれば、食事をする事で聖魂の消費と維持をする事が出来るらしい。…ホント1人の女の子にしか思えないな。
学院の授業が始まるまでそれほど時間もないのでささっと頂いた。
ルビアを用意してくれた紅茶を飲んだら素直に美味しいと思った。その表情を見てなぜかルビアは嬉しそうに頬を緩めていた。
食事の後、俺はヴェストレア学院の特注品の制服を身につけた。着替えはシャワー室で着替えた。
大きめの鏡があるのでそちらで着替えたのだ。このような畏まった制服など着た事がないので確かめながら着替える為だ。
そして制服に着替え終わり待っている2人の前に出たのだが、なんだか2人共ぼぉ~と俺を見つめていた。
その様子に変なとこでもあるのかと不安に思い聞いてみた。
「えっと…そのどこか変かな?こういう制服ってあまり着ないから、変だったら言ってほしいんだけど?」
「えっ、ううん。似合ってるわよ…いいと思うわ」
『ウム!さすが私のカッコいいマスターだよ』
「そっか!良かった。2人からのお墨付きなら問題なさそうだね」
問題ない様で何よりだ。
「そういえば授業を受けている際にはあなたはどうするの?」
ルビアがハルモの方を見ながら質問してきた。そういえばどうするのか考えてなかったよ。そう言うとルビアは呆れた様に溜息をついた。
「あのね。基本的に学院では聖霊の召喚、開放は決められた時以外ではしてはいけないのよ」
「そうなの?」
「ええ。不要なトラブルを避ける意味でもあるのだけど、基本、戦闘訓練や決闘と、そういった時以外では自室内や相手が許可した場合のみよ。…というよりその子を聖霊界に帰還させれば済む事じゃない?」
俺は「なるほど!」と思ったのだが、当のハルモが「それは無理」だと言った。
『残念だが、今の私はこの人間界に隷属している状態のようでな。そして今は契約者がいる場所が今の私の隷属場所となっているのだ。故に単独で聖霊界に戻るもできないのだ』
そう言う理由が…ハルモにも色々あるんだな。
俺ももっとハルモのこと知らないと駄目だな。俺はハルモの契約者なんだから。
「そうなの…まぁー、担任はあの方だし黙認してくれるんじゃないかなぁ」
「ん?そういえば、俺ってルビアと一緒のクラスなのか?」
「そうよ。基本寮部屋の人同士になるの」
「そっか……クラスでもこれから宜しくルビア。ハルモについては行って見てからにして、そろそろ時間だし行こうか」
「そうね。遅刻は嫌だし。行きましょ、ルミナ」
『ウム、この世界の知識を得に行くとしようぞ。我が頼もしきマスター、そしてルビアよ!』
こうして一緒にこれから始まる学園生活に向けて3人で部屋を出てクラスに向かった。
「……あっ!夜にでもグラードさんやリナに手紙送らないと」
第一章終幕。次話より第二章…
+
おまけ…
○ルミナ
本作の主人公。
銀髪紺色の少年。人間界で銀の髪は珍しい。瞳は深く引き込まれそうになるらしい。
男性のみであるが聖魂を保有し”聖霊契約”を行う事が出来る。現在確認できるのはルミナのみ。
ルームメイトは【ルビア・ローゼンベルグ】と契約聖霊である【聖剣ハルモニウム】。
○Data
契約聖霊:ハルモニウム…【神剣】から生まれた【聖剣】の聖霊。普段は人の姿で過ごす。制約によって単身では人間界から聖霊界に行けない。契約者の名前を発音できない。本来は契約者もハルモの名前を発音できないがルミナは問題なく呼べる。色んな剣の形状になれる。
属性:聖・風(契約聖霊の持つ属性のみのはずだがルミナは契約前から持っている)
○ハルモ
ルミナの契約聖霊の少女。
薄めのブロンド色の足元くらいの長さの髪に表情が分かりにくいブルーアイ。身長は低め。
最高位クラスの聖剣の聖霊。
ルミナラブでいつかその名を口にしたいと思っている。ルミナの事は親しみを込めてマスターと呼ぶ。
○ルビア
フルネームはルビア・ローゼンベルグ。
本作ヒロイン①
瑠璃色の長めの髪に綺麗な朱色。
帝国において四大貴族に連ねるローゼンベルグ家の次女。
努力家だがうまく成果に繋がらず焦っている。
ルームメイトは【ルミナ】とルミナの契約聖霊【ハルモ】。
○Data
契約聖霊:グリモワール…【地の聖霊王】から生まれた特別な聖霊。ルビアは使いこなせておらず本体である聖霊本体を召喚できない。




