12話:彼がやってくる:ルビアSide
ルビア・ローゼンベルグはその日の朝から緊張していた。
それは今日から自分と同室となり一緒に暮らし同じクラスで学びあう”彼”がこの部屋にやって来るからだ。
”彼”がヴェストレア学院に忍び込んで来た事件から数日が経っていた。
その事件にルビアは偶然その場に立ち合った。
”彼”には不思議な力があった。
現代において、この人間界で聖魂をその身に宿し、そして聖霊との契約、聖霊契約を行う事が出来るのは、例外を除いて女性のみなのだ。
少なくともここ数十年は男の身で聖霊と契約を行うまでの力を有する者は現れていない。
「”彼”……たしか、ルミナ、だったわね…」
彼(名前は学院長から教えられた)の名前を呟く。
不思議な響きがある名前。多分だけどここヴェルティナ帝国の出身ではないと思う。
名前の雰囲気ならカナン帝国が近いと思う。
ただ、カナン帝国に彼のように銀の髪した人間はいないとも思う。
そもそも銀の髪をした人間自体少ない。少なくともルビアは見た事がない。
近くて白色髪くらいである。
「うぅ…まだかな…もしかして迷ってるとか?…迎えに行った方がいい?のかな…」
まだかな~まだかな、とルミナの到着を待つルビア。
落ち着けなく部屋を歩き回ったりと、落ち着けない。
迎えに行った方がいいのかなと思うも、ルビアも彼、ルミナがこの部屋にやってくるまでは謹慎する様にと言われているのだ。
それはあの日に時間外になんの申請もなく寮から出てあまつ聖霊の力まで行使していた事、そしてあの事件に立ち会ったことが原因である。
あの邪悪な聖魂を持った角獣聖霊を、ルミナが契約した【聖剣】で一刀の元で撃退した後、ルミナは倒れた。
ルビアは彼を心配し近付こうとした。
けどその直後だった。
騒ぎに聖炎騎士団の者達が駆け付けて来たのだ。
栄えあるヴェストレア学院の、誰も立ち入れることが出来ない聖域に、まさか男がいるなんて!?と騒ぎになっていた。
その後、何処からか学院長の使っている≪使い魔≫が現れ、騎士団員達は聖魂が枯渇し気絶している彼をどこかに連行していった。
連れて行く際、どこか慣れない感じで、恐らくあまり接する機会のない男性に触れる事に対していた。
ルビアもあの後無断外出等の為、指導室にて1時間程説教を受けた後、解放された。
正直彼の事が気になっていたけど、彼ほどではないがルビアも聖魂を消費した疲れもあり、くたくたの状態のまま自室に戻った。
そして、一休みした次の朝早くにヴェストレア学院の最高権力者であり現聖十騎将でもある学院長クローディアから鴉型の使い魔が送られてきたのだった。
その使い魔からメッセージを伝えられた……のだけど。
『“汝、規則破りし者。故にここに罰として先の者と共同生活を送ってもらう。…ちなみに拒否権なんてないからね♪ あっ、男の子と一緒だからってお楽しみはだめだよ~♪男と女の夜の営みなんてダメだからね~♪あと、因みに彼の名前はルミナだよ~よろしく頑張ってね~ルビア~♪”』
「ええぇ!!?な、なに言ってるのよ!もうあの人はいつもいつも悪戯好きなんだから、もお!……それに…よ、夜の営みなんて…きゃー、考えちゃダメ、考えちゃ駄目よ私!うう…もう」
クローディアはお茶目で悪戯好きな所があるのをルビアは知っている。
今は学院長と学院生の関係だけど、この学院に入るまでは姉の知人としても親交があったのだ。
学院長の悪戯に赤く悶えて暫くして。
「うぅ…まったくもう。……ルミナ。それがあの彼の名前、なんだ…ふふ、なんだか不思議な響きだわ」
それからはそわそわと待っていた。
謹慎による自室待機の為部屋の中で待ちに待っていた。
心配で来てくれた友人からも、
「あらら、今のルビアってば、まるで恋した彼を待っている恋する乙女みたいね」
と言われるくらいであった。
無論真っ赤に慌てて否定するルビア。
そんな真っ赤な親友を微笑まそうに見つめていた。
「まだかな?…聞いた話だと、先程目を覚まして学院長と対面してここに入る、そして私のいるこの部屋に向かっているはず」
ちらっと壁にある時計に目を向ける。
そしてルビアの脳裏にある光景が映る。
それは、彼が初めて聖霊契約を行い、聖霊剣の維持と解放を行い、あの異常な角獣聖霊を相手に怯むことなく対峙した場面だった。
ルビアは正直あの時のルミナの姿に見惚れていた。
そんな彼が今日から一緒に暮すと思うと、顔が熱くなってくる。
取り敢えず部屋の掃除をしたり、彼が気に入るか分からないけど良いティーも用意した。
待ち望んでいるそんなルビアの姿は確かに端から見れば待ち焦がれている乙女に映ると思う。
彼を待ち望んでいるルビア。
そのルビアの表情には今日から一緒に異性と同じ空間で過ごす事への羞恥だけでなく、ある一つの望みへの渇望があった。
「これはチャンスなんだから。私にはどうしても…」
私にはどうしても彼という存在が必要だった。
この学院での私の能力評価はかなり低い、というか底辺にいる。
周囲からは期待外れの落ちこぼれとすら言われている。
ここヴェストレア学院ではランキング制が導入されておりその結果がそのまま成績に換算され評価される。そして今、3人一組の【トライアスロン】というランキング戦が行われている。
当然ながら能力が乏しく底辺である私をランキング戦のチームに加えようとする物好きはいない。
私にとってこの学院での唯一無似の親友であるクリスもある目標の為、私と組む事ができないと困ったような申し訳ない表情で告げられた。
だからこそ今の私には彼と同室になるのは好都合と云えたのである。
そんなこんなで彼が来るのを今か今かと待っていると部屋の外が何やら騒がしいのに気付いた。
その騒ぎにちょっと不愉快なことを回想していた事もあり、その騒ぎに少し気が立ってきたので私は、相手も確認せず文句を告げる為に勢いよく部屋の扉を開け放った。
「誰よ!人の部屋の前で騒いでるのわぁ!」
と不機嫌な表情のまま文句を言った。
言った後、私は言葉が出なかった。
部屋の外にいたのは、連絡を受けた後からずっと待っていた彼、ビクッと驚いている顔のルミナと、その彼にギュッと抱き付いている一人の見慣れない白の衣装を纏ったどこか人と異なる何かを感じさせられる美しい長いブロンドの髪をした小柄な少女だの姿だった。