10話:依頼の真実
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俺は、夢を見ていた。
ここは…どこだろう?…
これは…夢なのか?…それにしては意識がはっきりとし過ぎている気がした…
キン!
なんだ?この音?
キン!!
また!――これは…剣がぶつかり合う音か…
俺は聞こえてくる剣音の方に意識を向けるとそこの景色が浮かび上がった。
浮かび上がった景色は、どうやら闘技場のようだった…
その闘技場にはたくさんの観客がおり、その中央のリングには2人の聖霊使いが対峙していた。その2人のうち、1人は赤い長髪に、その手に黒い細身の聖霊剣や指に指輪型の聖霊剣といった複数の聖霊を使役している少女と、そしてもう1人はまだ幼いであろう年齢をした金の長髪に、巫女装束に似た衣装を身に纏い、刀剣型の光り輝く聖霊剣を握っている少女が剣を交えていた。
なぜか俺は長い金の髪の巫女服に近い異国服に身を包んでいる子の方が何故か気になっていた。
なんだか何処かで見た様な気がするなと感じたのだ…そして彼女が右手に握っている聖霊剣にも…
やはりこれは夢だなと思った…俺にこんな記憶は無いはずだから…
そんな風に思っているとだんだん意識が現実へ覚醒してきたようだ。
どうやら夢から覚めるようだ・・・・・・
“そこまで! 勝者!《―――》!!”
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「うっ…ここは……」
横になっていた体を起こしてみると知らない部屋のベッドに眠っていたようだ。
体を起こしベッドの端に座ってみると、少しフラッとしたが、何とか姿勢を維持した。周りを見渡しながら此処で起きた事を、自分を落ち着かせる為と、現状把握する為に整理し始めた。
…俺は依頼を受けて【六柱国家】と呼ばれる強国の1つ、火の聖霊王を奉る、ヴェルティナ帝国にある聖霊使いの教育機関であるヴィストレア学院に依頼を受けて潜入した。
(という事は、ここはヴィストレア学院の何処かの部屋という事か…)
部屋には机と椅子、そしてベッドがあるだけで窓も無くあるのは外に出る為のドアだけの様だった。ドアには幾つもの鍵がつけられていた。
…聖殿まで来て扉に触れると、光が満ち溢れ、目を開けると扉が無くなっておりそこに目的だった『剣』と邂逅した…
そこまで思い出した後、右手甲に目を向けると、確かに契約した証しである聖霊刻印が刻まれていた。
(…夢じゃないって事だな)
…聖殿に入った後、…そうだ!学院に潜入した後、広場で遭遇したあの子が現れたんだ。綺麗な瑠璃色の髪をしたヴィストレア学院の制服を着た聖霊使いの女の子。
(そういえば名前聞いてなかったな。大丈夫だったのかな…)
…その子が現れた後、黒いフードを被り、顔に奇妙な白い仮面をつけた人物が現れたのだった。そして、聖殿内に召喚陣が広がり、以前倒した筈の角獣聖霊が現れたのだ。
(あの聖霊は間違いなくこの手で倒したはずだ。だけどあの聖霊は普通の聖霊の、あの時、倒したのとは何処か違っていた。頭部に刃等無く、体からは黒い瘴気の様なものが漂っていた。あれはいったい?…)
…その角獣聖霊に対抗する為に俺はヴィストレア学院に潜入した時から、聴こえていた声に導かれるかの如く、声の主である『聖剣ハルモニウム』と契約した。そして、何とか一閃のもとに討伐する事に成功はした。けど、聖魂を多く消費した事で気を失った…そして今ここにいると…
(そういえば、起きる前に夢を見ていた気がするなあ~どんなのだったか…)
起きる前に見ていた夢の内容を思い返そうとすると、扉の鍵が開けられる音がし、開いた扉から2人の学生服の上に鎧を纏い、腰に剣を携えたヴィストレア学院の学生騎士が入ってきた。
「…目を覚ましたようだな!侵入者の男」
「…我らを覚えているか?」
よく見てみるとその二人は、あの時の広場であった学生騎士のようだった。
「目覚めたのならこちらに来い!学院長が貴様を呼んでおられるのだ!」
「あの時みたいに逃げよう等と考えない事です!貴公の腕には拘束用の魔術が掛けられていますのでね。魔術の類は勿論、聖霊を呼ぶ事も出来ませんから…」
腕を良く見てみると確かに鎖の様な光が絡みついていた。試しに右手の聖霊刻印を通じて『聖剣』に、呼び掛けて見たが反応が無かった。
「分かりました、どちらにいけば…」
「学院長室だ!さあ行くぞ!」
「失礼のないようにね」
逃げたりするのは難しいと考え、素直に二人の指示に従った。
どうやら日が早いようで、学院内を歩いていたが他の生徒には会わなかった。
(あの子が無事だったのか知れればよかったが)と、思った。
そして、学院長室の前に着いた。
髪の短い学生騎士の子がドアをノックし「…学院長、侵入者の男が目覚めたので、言い付け通り、こちらまで連れて参りました」と呼びかけると、ドアの内より、何処かで聞いたような女性の声が聞こえてきた。
「いいわよ!入りなさい!」
「失礼します!」と学生騎士の子がドアを開けて入ると、高価な備品が周囲にあり学院長の机があった。そしてその先にカーテンのされている窓のほうを向いている女性がいた。灰色の髪を腰まで伸ばし、微かに右眼にモノクルをしているのが見えた女性が腕を組む様にそこにいた。
この人がこのヴィストレア学院の長で、【未来視の魔女】の異名で呼ばれるクローディア・ウイッチクラウド本人のようだ。
「よく連れて来てくれた。二人とも。 さあ、もう良いので二人は下がっていなさい。彼とは二人で話したい事があるのでね」
クローディアは背を向けたままルミナを連れてきた学生2人に退室する様に告げた。
「な!?なぜですか⁉」
「危険です!二人だけなど!もしもの事がありましたら…」
如何に最強の聖帝騎士であるクローディアとはいえ、不審人物と二人にするワケにはいけない、とそう返した二人に、
「おや?私は“下がれ”と言った筈だがな……聞こえなかったのか?ノエル・ブリュレラ。そして、セイン・レス」
クローディアがルミナ達の方に振り返ると、睨む様に目を細め威圧しながら、ノエル、セインの二人に宣告した。
「もう一度はない.下がりなさい!」
「「…分かりました。…失礼致しました……」」
と、ノエルとセインは、クローディアの威圧感に少し表情を青ざめながら部屋より退出していった。
「まったく…最近の騎士団の子にも困ったものね。融通の利かない子が多いし…まっ、あの二人は国柄といった所でしょうか…ふふっ、まあそんな事よりも、よく依頼を果たしてくれましたね、ルミナ君」
(!?…今この人俺の名前を口にした!?いや、それよりも今確かに”依頼”って……まさか?)
「あら?最初の一声で気付いて下さると思っていたのですが」
クローディアは面白な笑みを浮かべると右手に闇の聖魂を球体状に展開した。
そして展開した聖魂の形をクローディアは変えていく。変化したその形は数日前に見たローブへと変わった。
クローディアはそのローブを身に纏った。
その姿は奇しくも数日前にルミナに依頼をしてきた依頼主の女性と同じ姿であった。
「!?…では,貴女がやはりあの時の依頼の方?」
クローディアはローブを脱ぎ、ローブを消すと、悪戯が成功したような子供っぽい表情を浮かべた。
「そうです。私だった、という事です。驚きましたか?」
「…驚いたのもそうですが、何で俺にこんな依頼をしたんですか?……俺をどうするつもりです?」
俺は正直、困った状態であるということは理解する事が出来た。逃げようにも相手が悪すぎると。何せ、相手は、この世界の聖霊使いの代表的存在で圧倒的な実力と権威をもつ、【聖十騎将】の1人なのだ。最悪の場合も考えられる。
しかし疑問が多すぎた。なぜ、こんな回りくどい事をしたのか?
おそらく、俺が聖魂を操り聖霊と契約する事が出来るのも知られていると思った方がよいだろう。なら、その権限で俺を拘束する事も出来たはずだからだ。
「“どうするつもり”、ですか。これに関しては貴方には1つの条件を呑んで頂きます。因みにこれを拒否するとどうなるかは貴方が先程考えた通りになるでしょうね。今のこの世界に聖魂を操り,まして聖霊契約の力まで有している男の聖霊使いがいると知られれば……まっ、実験材料、悪く言ってモルモットにされる事でしょうね♪」
何、笑顔で強迫しているんだ、この人!? しかも恐いし、なに実験材料って?
…どうしたもんかなと、考えるも正直思いつかなかった。
……仕方ないし、取り敢えずその条件を確認してみようと思った。そして、その内容を聞いた俺は驚きの声を上げる事となった。
「君には、本日を以ってこのヴェストレア学院に編入して貰う。以上!…あっ!ちなみにアレが君の制服だから。男の子は君だけだから君だけの特注品だよ♪似合うかな似合うかな~って思い浮かべながら作ったんだからね~♪」
制服っていつの間に⁉ あっ、ほんとだ!しかもサイズもあってそうだ…確信犯だ…いやいや、それより…
「何で俺がここに?俺は男ですよ!此処は―」
「問題はないわ。此処に入る条件は聖霊使いであるという事だけだからね。ちなみにさっきも言ったけど、断るとどうなるかはさっき言ったと思うよね♪」
そんなぁ…逃げ場なしじゃないか……
「まっ、君にもメリットはあるんだよ!本来なら男の身で聖魂を宿し更には聖霊契約の力も持っていると言う今のこの世界において異端の存在である君の存在が各国の、特に聖霊本部に知られれば間違いなく身柄を拘束される、そして貴重な実験材料扱いとなるでしょうね。ですが、此処の学生である限り、この私に名において君を守る事が出来ると言う事ですわ。貴方にとっても悪くない条件のはずですけども」
クローディアの提案は確かにルミナにとっても悪くない条件だった。
けど、ルミナの脳裏には5年前に砂漠で記憶を失っいながら倒れていた自分を助けてくれたグラート、エルシスネの事を、そしてリナの顔が頭に過ぎった。
どうしようと考えるルミナの表情から、ルミナが共に過ごしていた者達の事を考えている事を察したクローディア。
クローディアはルミナにって気になっている案件を含みながらさらに提案する。
「…そうですね、君には家族というべき人達がいるんだね。でも、君にはもっと大きな、いずれ大きな戦いが君の身に降りかかるでしょう。君が大切なものを守りたいと思うのなら…失われている記憶を知りたいというのならば、此処で聖霊使いとしての力を得るべきではないでしょうか?」
「…! 貴女は何か知っているのか? 俺の記憶に関して?」
「いいえ。ですが私には見得るのですわ。来るべき時が、この右眼にね」
モノクルを掛けている右眼を指差しながらそう答えた。
そうだった。この人の異名は本当に少し先の未来を見ることが出来るという“未来視”の能力故なのだ。ならばこうしている事も、自分がこの先この学院に通うと言う未来も既に見当していると言う事だ。
「……はぁ、分かりました。正直言いて今の貴女の全てを信じきる事は出来ませんが、必要な事は分かりました。貴女の条件を受けますよ」
「…そうですか、良い決断をしましたわ。……では、ここに“クローディア・ウイッチクラウド”の名の下に君をこのヴェストレア学院の一員となる事を認めよう!宜しく頼むわよ、ルミナ君♪」
まったく、これからどうなるか…でもワクワクしている自分がいる事に、どんな事が次に起きるのかと、少し高揚していた。
そんなルミナにクローディアは最後の衝撃を投下した…
「あっ!ちなみにこの学院は全寮制で二人部屋で過ごす決まりだから。空きの部屋がないからルミナ君は女の子と同室になるからね。そうそう、しかも同室の相方は君とあの場に一緒にいたルビア・ローゼンベルグだからねぇ♪」
“なんですとオオ!?”と心の中で絶叫した。