おはよう
9月1日 朝
千代高校2年2組の教室で西野秋は、肩にポンっと手を置かれるのを感じて振り返った。
「おはよう、西野君。昨日は家まで送ってくれてありがとう」
昨日、白川を家まで送って行ったのだが、西野の家から15分程歩いた所に彼女の家があり、意外に近いんだなと、二人で笑いあった。
なんでも中学卒業と同時にこちらに引っ越して来たんだとか。
「おお、おはよ。肩、濡らしちゃってごめんな、元気そうでよかった」
いくら白川が細身で小さいからといっても高校生が二人入るには折りたたみの傘は少し小さく、白川の肩が濡れてしまったのだ。
「全然大丈夫だよ?それに、西野君が入れてくれなきゃ私ずぶ濡れで帰るはずだったんだから、気にしないで!」
ニッコリと微笑み、気にするなと言ってくれる白川に感謝する。
「にしても、白川ってあんなに喋る人だったんだな」
白川は物静かで口数が少ない。と、昨日話すまでは思っていた。
しかし、昨日の白川は自分のことやクラスのこと、勉強や中学生の時のことと、色々話してくれて、とても会話しやすかった。
「あー…よく言われるかも、話してみたらいっぱい喋る人だね。って」
「口数少ないイメージがあったんだけど」
「んー、授業中とかホームルームとか、大人数で話すときは喋らないかな?」
「あーそうか、だからあんまり喋るイメージがないのか」
そう言われてよく思い返せば教室でも楽しげに喋っている白川を見るのも、そんなに珍しいことでもなかった。
ただ、自分と会話が無かったから印象に残らなかっただけのようだ。
自分は比較的色々な人とコミュニケーションを取るようにしているが、白川はなんだか近寄りがたくて話しかけにくかった。
(話してみたら面白いのに、もったいないことしてたな)
これからもっともっと話していこうと思うと、自然と笑顔になる。
「ん?どうしたの?」
突然笑顔になった秋に疑問の声を出す白川に
「これからいっぱい話そうな」
と、ニカッと笑って言った。