雨は嫌いだ
8月31日 20時
長かった塾の夏季講習を終えて、もうシャッターが下りてしまって淋しげな商店街を疲れた身体で欠伸をしながら歩く。
(明日からまた学校かよ……)
憂鬱さを全身で表しながらフラフラ歩く。
頬っぺたに冷たさを感じた。
しとしとと降り始めた雨に小さくため息を一つし、鞄に手を突っ込んで備え付けの折りたたみ傘を探る。
(まぁ、暑いのはマシになるか…)
しかし、そのあと『雨は嫌いだ』と、心の中で呟いた。
雨男なのだ。
小学生の頃から大切な日には大体雨が降る。遠足の日が雨なんていつものことだったし、中学校の卒業式なんて降水確率10%以下だったのに帰り道に突然のスコールでずぶ濡れになった。
それ以来常に折りたたみ傘を鞄に忍ばせているから、おかげで今日は助かったのだが…
「それでも雨は嫌いだ」
先ほどより少し強まった雨足に反抗するように今度は口に出して呟き、顔を上げた。
すると、一人の少女が目に映った。
(白川…?)
肩に届くくらいの黒髪、大きな瞳に小さな身体。
白川風、同じクラスの女の子だ。
シャッターが下りた店の軒下で空を見上げている。
「白川」
声をかけてみると、何処から声をかけられたのか分かってないのか辺りを見回していた。
そんな白川に歩みよりながらもう一度声をかけた。
「白川」
今度はわかったのかパッとこちらを向いて、驚きの表情で返事をしてくる。
「西野君?こんな時間にどうしたの?」
「どうって…塾の帰りだけど、白川こそ、どうしたんだ?」
そう聞くと彼女は髪についた水滴を払いながら苦笑した。
「私も塾だったんだけど、傘持ってなくて…」
「あー、急に降って来たからな…」
「ね、予報では降るなんて言ってなかったのに…」
仕方ないなとでもいいたげな表情をして言った。
大人しい彼女とは学校でまともに話すことはなかったが、なんだかとても話しやすかった。
(…雨、やみそうにないな…)
空を見上げなくても雨の音が先ほどより更に強くなっている。
「んで、白川、家何処だ?入ってけよ」
首の後ろをがしがしと掻きながら傘をさしだす。
「えっ」と、白川は目を丸くしたが、すぐに「ありがとう」といって差し出された傘に小さな身体を入れた。